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魔法使いと夢と夢魔  作者: 高町 楠葉
第一章 魔法使いの息子
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二十一話 信用できる人

無茶苦茶な事はするけど信用は出来る人です

 歩夢と八神の二人は先ほどまで歩紀がいた場所を見つめながら茫然としていた。

 二人の後ろで事の顛末を見ていたシエルとメアもこの声の掛けにくい空気の中で誰かがアクションを起こすのを待っている状態である。

 気まずい沈黙。

 それを最初に破ったのは八神だった。


「どうしよう……」

「えっと……何が?」


 勿論、例の問題が原因である事は明白だったのだがどちらかというとそういう意味での問いではなかった。

 彼女にしてみればこんな一方的で強制力のない問題は無視して堂々と帰ればいいのである。先ほどまでの彼女の態度を見ていればそれくらいの行動力が持ち合わせている事くらい容易に想像出来る。

 仮に荷物が送られてくるにしても(十中八九、本当に送られてくるだろうが)それは持って帰るなり郵送すれば済む話である。

 つまり今、彼女が困っている原因は別にあると歩夢は踏んだのだ。

 八神もそれがわかったのか相変わらず視線を合わせないまま事情の説明を始めた。


「……あたしが芹沢魔法学園の生徒だって事はさっき言ったわよね?」

「うん」

「……で、あたしはそこの寮生なの。寮は学園の敷地内にあるわけ」

「なるほど。……それで?」


 歩夢が頷きながら問い返すと八神はため息をつき、話を続ける。


「今、学園は冬期休暇……要は冬休みなの。学園やそれに属する施設とかも基本的には施錠されて使えなくなる。だから寮生のほとんどはこの期間、実家に帰省するのよ」


 ここで一瞬、八神は話すかどうか躊躇うような表情を浮かべた。

 何かプライベートな問題だろうか?

 それなら無理に聞き出すべきじゃない。


「……何か言いにくい事ならぼかしていいよ?」


 歩夢が短く言葉を挟む。

 八神は少し意外そうな表情をして、自分が気を使われたのだと理解すると今度は少し不機嫌そうな表情を浮かべながら小さく「フンッ」と鼻を鳴らした。


「でもあたし、冬期休暇中は寮で過ごすつもりでいたの。だけど昨日学園長に呼び出されて……」

「そっか、詳しい経緯はわからないけどそれでここにいるわけだ。それで何に困ってるの?」

「……寮に残る場合はその旨を示す為の申請書を出しておくんだけどそれが受理された段階で基本的に学園外に出る事は出来なくなるのよ。施設内に残ってる教職員も殆どいないから学園自体に結界が張られてるし」

「つまり通常とは異なる方法を用いて出て来た、と……」

「……そういう事」

 

 『異なる方法』というのがどういうものかはわからないが大凡は先ほど歩紀が使っていた移動をする魔法か何かだろう(結界がどういうものであるかはこの際、考えない事にした)。

 それを前提にして八神に質問した。


「父さんみたいに移動する魔法は使えないの?初めて会ったときは使ってたんだよね?」

「あれは固定型転移陣っていう移動装置のようなものを使ったの。転移系の魔法を学園長みたいに当たり前のように使えたら今頃あたしは学生なんてやってないわよ」

「そんなに難しいんだ?」

「まぁ、そうね。少なくとも学生の時点でそんな魔法が使える人は数えるくらいしかいないはずよ」

「……ふむ」


 ここまで話を進めて歩夢は一旦、現状を頭の中で整理することにした。


――1.彼女、八神明星が学園の外に出る予定はなかった。

――2.学園の外に出ている彼女は現在、学園内に戻る手段を持ち合わせていない。

――3.この問題を解決出来なかった場合、彼女はこのままこの家に数日泊まる事になる。

――4.彼女がこの家に泊まる場合、何かトラブルが起きれば十中八九それは自分の責任になる。

――5.現在自分がこんな問題で頭を悩ましているのは自分の父、夜風歩紀のせいである。


 ……何だろう、この理不尽極まりない事態は。少なくとも自分が頭を悩ませなければならない理由が見当たらないのだが。

 しかし歩夢は同時に一つ考えている事があった。

 それは“父が意味もなくこんな事をやらせるか?”という事である。

 実際どれだけ現状に困っているにしても、歩紀に電話をすれば恐らく彼は応じるだろうし本気で嫌がればすぐにやめてもくれるだろう。

 だが歩紀だって暇ではない。寧ろ多忙な筈なのだ。現にこの話を終えたら早々に行ってしまったではないか(逃げたとも取れる行動だが)。そんな中、わざわざ面白半分でこんな手間の掛かる事をするだろうか?


「八神さん」

「……何?」


 今の時点ではこれ以上考えても進展は望めそうもない。ならば現状選べる選択肢は『彼女がこの家に泊まる』か『父に連絡して何とか帰らせる』かだ。

 そして自分としては父が意味もなくこんな事をやらせようとしているとは思えなかった。


「もし嫌じゃなかったら……」

「嫌よ」


 説得を試みようとした矢先の一刀両断発言。

 ここまで来るといっそ清々しくなってくる。

 歩夢は頭をかきながら苦笑した。


「……ですよね」

「嫌だけど……」

「……?」

「学園長が意味もなくこんな事やらせるとは思えないのよね……」


 どこか諦めの入った一言。

 しかしそれは相手を信用しているからこその言葉に思える。

 そして同時にそれは自分と同じ見解である事を意味していた。


「八神さんもそう思います?」

「……不本意ながら、ね」


 今まで視線を合せなかった八神がようやく歩夢の方に視線を転じる。


「……しばらく厄介になるわ。迷惑かも知れないけど我慢して」


 ぶっきらぼうな彼女の言い回しに歩夢は再び苦笑する。

 寧ろ色々我慢しているのは彼女の方だろうに。


「こちらこそ宜しく、八神さん」


 歩夢が再び差し出した右手。

 八神は躊躇いつつも今度は握り返した。

三十話までには一章は終わらせたい所だけど出来るだろうか……


楠葉でした。

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