一話 免疫のない男子に美少女は毒です
ギャルゲー?
いいえ、ラブコメです(
我が家のリビングにはテーブルが2つ存在する。
一つは長方形の最高6人まで座れるテーブル。2つ目は炬燵の機能がついた正方形のテーブルだ。
何故、二種類あるのかというと炬燵布団が汚れると洗うのが面倒な為、炬燵での飲食はミカン以外は一切禁止というルールがあるからである。
なので食事は長方形のテーブルかあるいは自室で食べることが多い。ちなみに自室で食べるのは無駄に広いテーブルで一人で黙々と食事をするのが寂しいとかそんな理由ではない。断じてない。
そして今、その長方形のテーブルの上に出来たての朝食が並んでいた。ベーコンエッグにピザトースト。野菜サラダはレタスと彩りも考えてかトマトとキュウリも切ってある。
何年振りだろうか?自分が調理したもの以外が食卓に並ぶのは。
何年振りだろうか?母以外の女性がこの家に入ったのは。
そんなことを考えていると作業に戻っていた少女が徐に声をかけてきた。
「飲み物はコーヒーと紅茶、どちらになさいますか?」
彼女の質問に思わず返事をしそうになる歩夢だったが慌てて問い返す。
常識的に考えてこの状況は異常だ。
「あの、失礼ですが……君は誰?」
少女は手を休めずに顔だけ向けて答える。
「朝食が終わった後にでもゆっくり説明致します」
それは一瞬見とれてしまう程の笑顔で。そのことに気づいた少女は「どうかされましたか?」と、心配そうに聞いてきた。
その言葉に思わずドキッとしてしまいそれを誤魔化すように「コーヒーでお願いします」とだけ答える。少女は気にした様子もなく「はい」と、満足そうに微笑んだ。
テーブルの前に座り、いざ食事を開始したものの歩夢は困っていた。何に、というわけではないが強いて言うなら、この状況に。
突如現れた美少女に作ってもらった料理というのを考慮に入れないにしてもそれを作った当の本人が向かい側に座って何をするでもなくこっちを見ながらニコニコ微笑んでいるのだ。緊張するなと言うのが無理な話だろう。
正直、食事の味も殆んどわからない状態だった。
そんな自分の表情に何か感じたのか、少女の表情が陰る。
「もしかして、お口に合いませんでしたか?」
「……え?あ、いや。そんなことは」
弁解しようとするも最初の間がいけなかったのだろう。言い終えるよりも先に少女が頭を下げた。
「申し訳ございません!私が差し出がましいことをしたせいでに主に不愉快な思いをさせてしまって……!」
「ちょ!?ちょっとまって!?違う違う、そんなんじゃないから!」
あまりに悲痛そうな少女の声に歩夢は焦る。歩夢の言葉に対して頭を上げた少女の目は案の定涙目になっていた。それが歩夢をなおのこと焦らせる。
「でも主、先ほどから浮かない顔してらっしゃいますし……」
「いや、それはその。えーっと……」
これはどう答えたものだろう。ありのまま話すのはあまりに恥ずかしすぎる。
「やっぱり私の料理のせいとしか……」
前言撤回。彼女の悲しそうな顔見てる方が遥かにしんどい。
とりあえず相手の誤解を解こうと再び弁解を試みる。
「えー、あー……。正直に申しますと自分は普段私生活において女の子との接点といいますか交流といいますかそういったものがほとんどなくてですね。その、何というか……貴女に見られながら食事をするのに必要以上に緊張してるといいますか……いや、別に貴女が悪いとかそういうわけじゃなくて。えーっと……」
もはや自分で自分が何を言ってるのかわからなくなってきた。
とりあえず彼女が悪くないことは確かなのだがそれを相手にわかってもらうだけの言葉が頭の中でまとまらないのだ。
結局、考えることを放棄した歩夢は最終手段に出た。
「とりあえず俺が悪いんです!すみませんでした!」
土下座。
凄い勢いで土下座。
少女は何やら戸惑っていたようだがすぐに「頭なんて下げないでください」と申し訳なさそうな声で言ってきた。だが、ここですぐ頭を上げて彼女に謝られては意味がない。なので歩夢は少し間をおいて答えた。
「貴女がこのことでもう謝らないと約束してくれたら上げます」
「……!」
少しずるい言い回しだが、先ほどから見る彼女の反応を考えると自分が頭を上げた瞬間に今度は彼女が土下座しそうな気がしたのだ。
少女は一瞬何か言おうとしたがそのまま口を噤む。再び数秒の沈黙。
そしてこれを破ったのも少女の方だった。
「本当に……主はズルいんですから……」
どこか懐かしむように、小さく呟く。
その声にはさっきまでの悲しそうな声音は全く残っていなかった。
ゆったりと、でも忘れられない程度に更新出来たらいいなと思っております。
感想やメッセージも頂けると嬉しいです。
では、楠葉でした。