十一話 目のやり場に困ります ~使い魔の願い~
う~ん、何か締まらない……
夜風家の浴槽は決して広くはない。男としては小柄な歩夢が足をゆったり伸ばすのがせいぜいだ。
ましてや二人で入るとなれば相手がメアのような小さな子でもどちらか一方が浴槽から出るかあるいは体操座でもしなければいけない。
「ふにゃ~、あったか~い……」
向かい側にちょこんと座り、呟くように言うメア。
「……そ、そうだね」
歩夢は視線を逸らしつつ何とか答える。いくら幼い体つきとはいえ直視出来るほどの根性はない。
だからと言って完全に視界に入れないなんて事は目を閉じでもしない限り狭い浴室では出来るはずもなく、きめ細やかな白い肌はしっかり見てしまっていた。
免疫がないのにいきなりこれはハードルが高すぎるだろう。
「お兄ちゃん、さっきはごめんね?」
まるで今日の天気でも聞くように。驚くほど自然に切り出した。
「ボク、ちょっと動揺しちゃって。ごめん、気分悪くさせたよね……」
「いや、別にそれはいいけど。寧ろ俺の方が何か言っちゃマズイ事、言ったんじゃないかって」
「ううん、違う。さっきも言ったけど、動揺しちゃったの」
メアは一旦言葉を区切って、視線を外す。
「同調なんてお母さんでも出来なかったのに……」
ポツリ、と。
呟きを漏らした。
「え……?」
「お兄ちゃん、一つだけ確認させて」
視線を戻し、歩夢を見るメアの目は真っ直ぐで。
それでいて、今にも泣きそうに見えた。
「何があっても、ボク達の主でいてくれるよね……?」
「……ッ!」
重かった。
ただひたすらに、その一言は重かった。
彼女達の主であり続ける事。それは彼女達の命を預かるのと同義だ。
その事実を改めて認識する。
――自分にそんな事を約束出来るのだろうか?
――それは偽善ではないのか?
――その場しのぎの言い逃れではないか?
色々な思いが心の中を交差する。
しかし、自分の中の答えは決まっていた。
「俺がシエルやメアに何をしてあげられるかわからないけど……二人がそれを望むなら俺は君達の主でいるよ、きっと」
「おにい……ちゃん」
軽はずみかも知れない。でもそんなことは関係なかった。
彼女の顔を曇らせるくらいなら、この方がいい。心の底からそう思えたから。
歩夢が微笑みかけると、メアもはにかむように笑った。
そうだ。彼女に暗い表情なんて似合わない。
自分は母にこの子達を託されたのだ。ならばその期待に応えてみせるべきだろう。
そんな事を考えているときだった。
再び浴室の扉がバーン、と勢いよく開いた。
その先には笑顔のまま黒いオーラを漂わせるシエルが立っている。
「主……?メア……?これは一体どういうことですか……?」
風呂に浸かっているにも関わらず思わず悪寒を覚えるほどそのプレッシャーは強烈だった。
美少女が笑顔で怒る姿って本当に迫力あるね、うん。
「説明……して頂けますよね?」
あまりの迫力に頷くしかない二人であった。
何とか後半半分も載せましたが何か微妙に納得出来ない感じに……
もしかしたら後ほど修正するかも。
楠葉でした。