十話 目のやり場に困ります ~沈む気持ち~
今回は話の予定が変わった上に普段にも増して短いです
「ふう……」
風呂のお湯に肩までつかり、歩夢はため息をついた。
今までと同じ、何も変わらない一人での入浴。
換気扇の音が妙に五月蝿く感じる。
「……」
さらに顔半分をお湯に沈めブクブクと息を吹き出す。
浴槽に張られたお湯の表面に波紋が広がっていく。
「ブクブクブクブク……」
段々呼吸が苦しくなりお湯から顔を上げた。
先ほどから胸の奥につっかえるモヤモヤはなかなか消えない。
理由はわかっていた。
『ごめん』
リビングを出て行く前のメアの言葉と表情を思い出す。
理由はわからなかったがあの悲しそうな顔は自分がさせたのだと考えると気分も沈んだ。
今度は顔ごとお湯に沈む。耳にもお湯が入ってきたが、気にせずそのまま目も瞑った。
「……」
メアが気ああいう態度を取ったのは間違いなく自分の問いが原因だ。
『他人の夢を見る力』というわけのわからない力がまさかこんなところでも足を引っ張るなんて思ってもみなかった。
思わず毒づきたいような気分になる。だけどそんな状態でシエルやメアと顔を合わせるわけにはいかないとも思う。
あの二人はすぐそういうのに気付くから……。
まだ今日会ったばかりなのに、そんな確信めいた何かがあった。
ゆっくりとお湯から頭を上げる。前髪からポタポタと水滴が落ちる。
「やっぱりあとで聞くしか――」
「お・に・い・ちゃ~ん!!」
バーン、と浴室の扉が勢いよく開いた。というか問題はそこじゃない。
「メア!?」
「お兄ちゃん一緒に入ろう~!」
メアが浴室に飛び込んで来た。無論、全裸で。
その手にタオルこそ持ってはいるが、それも体に巻けるような大きなバスタオルではなくハンドタオル。
せいぜい体の前半分しか隠せていない(幸い長い髪が腰の下まで伸びていてお尻が丸見えとまではいかないが)。
「ちょっと待って!?何!?一体何!?」
「えっと……一緒に入ろ?」
突然の出来事に歩夢は狼狽する。
ただでさえ免疫がないのに、いきなり女の子の裸が現れて平然としてられるはずがない。
しかしメアは入ってきたときとは違う小さな声でもう一度呟いた。
「ダメ……かな?」
「う……」
断るのも、追い出すのも簡単だ。だがそうしてしまっていいのだろうか?
いつもの子供っぽい仕草に隠れてはいるがその表情は不安そうだった。
まだ今日会ったばかりのはずなのに、そんな事を思った。
何故だろう?一瞬、そんな事を考えて……やめた。
「い……いい、よ」
擦れそうな声で。でも確かに歩夢はそう答えていた。
全部書こうかと思いましたが前半半分だけ置いていきます。
不甲斐無くて申し訳ないorz
楠葉でした。