九話 夕食と夢魔
またちょっとシリアス?
今日、夜風家の食卓に並んだ夕食は煮込みハンバーグにニンジンのグラッセ。グラッセには色合いも考慮してインゲンも添えられている。
副菜にはポテトサラダと汁ものとして野菜スープを用意した。
「うわ~……これお兄ちゃんが作ったの?」
「正直言うと私も少し驚いてます。主がここまで料理に慣れてらっしゃるとは……」
「いやいや、いつもこんなのばっかり作っているわけじゃないし。それに今回はシエルが盛り付けをしてるから綺麗に見えるだけだって」
メアは目を丸くしながら料理を眺めている。正直なところ、久しぶりに自分以外の誰かに料理を作ったので気合の入り方が違うのはあるかも知れない。
何だかんだ言っても、一人での食事というのは心を侘びしくさせてしまうものだ。
「それじゃ、冷めないうちに食べようか?」
「は~い!」
「はい、頂きましょう」
皆で手を合わせ、食事を始める。
「美味しい!お兄ちゃん、このニンジン美味しいよ!」
「あら、メア。貴女ニンジン苦手じゃなかった?」
「甘くて美味しい!ふにゃ~、幸せ……」
「主の前でだらしない顔しないの」
テレビの音とも違うこういう会話のある食事は久しくしていなかった気がして、歩夢は思わず頬が緩むのがわかった。
何か特別な事をするでもないのに、いつもより食事が美味しく感じる。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!またこれ食べたい!」
「わかった。気が向いたら作るよ」
「やった!」
嬉しそうに万歳するメアに「行儀が悪い」と肘で小突くシエル。
そんなやり取りさえも楽しかった。
食事を終え、歩夢とメアは再び炬燵で向かい合っていた。
歩夢が皿洗いを始めようとしたところシエルが、
『後片付けは私がやるのでメアからさっきの説明を聞いてきて下さい』
と、言われてしまったからだ。
確かに夢の世界から召喚等、気になる話ではあった。
まぁ、正直なところ話題を逸らす為に言っただけだったので半ば忘れていたのだが。
ちなみに現在はお風呂が沸くのを待っているところである。
「それで?夢の世界から召喚したとか言ってたけど、あれってどういう意味?」
「ん~と。そだね~……」
メアは右手の人差指をピンと伸ばし、顎に添えながら考える仕草をした。
そして考えがまとまったのか口を開いた。
「使い魔っていうのは契約の内容や儀式の違いで持っている力や能力は全然違ってくるんだけどそれはお姉ちゃんから聞いたかな?」
「ん?あぁ、それならシエルが千差万別だとかどうとかって言ってたな」
「うん、それでね。ボク達は使い魔の中でも“夢魔”って呼ばれる種族の使い魔なの」
「……夢魔?」
聞きなれない単語が出てきて歩夢は首を傾げた。
「うん、夢魔。人の深層心理……つまり心とか夢に干渉する力に特化してる種族なの。お母さんが得意にしていた魔法系統だったっていうのも関係してると思う」
「……母さんが」
一瞬心臓が高鳴る。メアの説明にあった「人の心や夢に干渉する」という力、それは自分が普段見ている「人の夢を見る力」と酷似していた。
母はその系統の魔法を得意としていて、自分はその人の息子。これは偶然で済ませていい事なのだろうか?
「……どうしたのお兄ちゃん?」
「え?ああ、いや……」
メアの問いかけに「何でもない」と答えようとして思い止まる。
これは確認した方がいい事柄だろう。少なくとも彼女達と知り合ってしまったのだから。
「メア、例えばその力って“夢を見ている人の視点”から干渉することは出来るのか?」
「……え?」
メアは一瞬戸惑った表情を浮かべ、そのあと首を横に振った。
「無理……だと思う。それは夢を見ている人に干渉するというよりは同調するような特殊なパターンだから、少なくともボクやお姉ちゃんには出来ない」
「そうか……」
「ねぇ、お兄ちゃん?どうしてそんなこと聞くの……?」
歩夢の質問に違和感を感じたらしい、メアの表情が変わった。
「いや、別に……」
「答えて」
簡潔な問い。その言葉には有無を言わさぬ迫力があった。
「……見たの?お兄ちゃん」
「え……?」
「…………」
戸惑う歩夢の目をメアは真っ直ぐ見つめる。歩夢もまた目を逸らす事が出来なった。
数秒の沈黙。先に目を逸らしたのはメアだった。
「……ごめん、お兄ちゃん」
「えっと……何が?」
「ごめん」
言い置いてメアはリビングを出て行ってしまう。
歩夢はわけがわからず、その背中を見送る事しか出来なかった。
次の話はまた明るく(お馬鹿に)騒ぐようなイベントにしようかと思ってます。
では、楠葉でした。