表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SCP:TASK FORCE  作者: YATA0401
5/15

サイト19編第五章 ぜんまいの罠

重収容区域のコントロールルーム前で、俺とフォックスは足を止めた。


分厚い隔壁。

赤いランプ。

端末には、無慈悲な文字。


《アクセス拒否:レベル5キーカードが必要です》


「……」


俺は無言で端末を見つめた。


「……あー」


フォックスが、気まずそうに頭を掻く。


「これ、俺たちじゃ無理なやつだな?」


「無理だ」


俺は即答した。

俺たちモバイルタスクフォースの標準はレベル3。

イプシロン11だけが、例外的にレベル4を許可されている。


――だが、レベル5は違う。


「オーバーウォッチ」


俺は通信を開く。


「コントロールルームがレベル5だ。進めない」


少しの間。

向こうで、何かを確認する音。


『……了解した』


オーバーウォッチの声が、淡々と返ってくる。


『近くのSCP-914を使え』

『レベル4キーカードを、レベル5に昇格させる許可を出す』


俺は一瞬、言葉を失った。


「……本気か?」


『非常事態だ』

『責任は俺が取る』


フォックスが、目を輝かせる。


「おお!あの“何が起きるか分からない箱”か!」


「喜ぶな」


俺は即座に釘を刺した。


SCP-914。

“精密機械”。

入れたものを、設定次第で別物に作り替える悪魔の装置。


俺たちは急ぎ、914の収容区画へ向かった。


巨大な歯車音が、暗闇の中で低く唸っている。


SCP-914は、変わらずそこにあった。


「設定は……」


俺はダイヤルを見る。


「Rough、Coarse、1:1、Fine、Very Fine……」


『ハウンド』


オーバーウォッチの声が、いつになく強くなる。


『よく聞け』


「……ああ」


『レベル5キーカードはいい』

『だが、絶対に管理者キーカードにするな』


フォックスが首を傾げる。


「管理者?」


「財団の最上位権限だ」


俺が答える。


「持っていいのは、管理者、倫理委員会、O5評議会だけだ」


『その通りだ』


オーバーウォッチが続ける。


『Very Fineは使うな』

『Fineで止めろ。いいな、フォックス』


「お、おう。分かってるって」


――この時点で、嫌な予感はしていた。


俺はレベル4キーカードをトレイに置いた。


「設定は“Fine”だ。確認しろ」


「Fine、な。Fine」


フォックスが、操作パネルに手を伸ばす。


……そして。


カチッ


嫌に軽い音。


俺の視線が、ゆっくりとダイヤルを見る。


――Very Fine


「……」


「……」


空気が、凍りついた。


「フォックス」


俺は、低い声で名前を呼んだ。


「……あ」


フォックスの顔が、引きつる。


「手、滑った」


『…………』


通信の向こうで、オーバーウォッチが完全に黙った。


SCP-914が、轟音を立てて動き出す。


歯車が回り、金属が削れ、

数秒後――


カタン


トレイに落ちてきたのは。


黒地に、金色の紋章。

明らかに“格”が違うカード。


画面表示。


《管理者キーカード》


「……」


フォックスが、震える声で言った。


「えーと……ハウンド?」


「見るな」


俺は即答した。


『……ハウンド』


オーバーウォッチの声が、異様に静かだった。


『確認した』


「……ああ」


『管理者キーカードの不正生成、不正所持、不正使用未遂』


フォックスが、完全に青ざめる。


「ちょ、ちょっと待て!事故だ!これは事故――」


『言い訳は不要だ』


オーバーウォッチが、淡々と言い切る。


『始末書提出、確定』


「……やっぱりか」


俺は、天井を仰いだ。


『ハウンド、お前もだ』


「分かってる」


許可を出した上司。

実行した現場指揮官。

やらかした爆破担当。


全員、連帯責任。


フォックスが、弱々しく笑う。


「なあ……生き残ったらさ」


「なんだ」


「始末書、何枚になると思う?」


「……数えるな」


赤色灯が、再び点滅する。


忘れてはいけない。

サイト19は、今この瞬間も崩壊している。


俺は管理者キーカードを掴んだ。


「行くぞ。ジェネレーターを直す」


「了解……」


フォックスの声は、完全に死んでいた。


始末書地獄が確定しようと、

今は生き延びることが最優先だ。


その背後で――

まだ、SCP-173は“見られ続けて”いる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ