サイト19編第四章 暗転
「次の区画へ――」
俺がそう言いかけた、その時だった。
『待て、ハウンド』
オーバーウォッチの声が、鋭く割り込む。
「どうした?」
『重要な注意だ。収容レーザーは、外部電源に依存している』
『ジェネレーターがダウンした場合――レーザーは起動しない』
俺は、一瞬で理解した。
「……つまり、停電=解除か」
『その通りだ。電力状況に注意しろ』
フォックスが眉をひそめる。
「このタイミングで言うなよ、嫌な予感しかしねえ」
その言葉が終わるより早く――
――――――――――
ブツン。
――――――――――
サイト19全体の照明が、一斉に落ちた。
「ッ――!」
非常灯すら、点かない。
完全な暗闇。
「停電だ!」
俺は即座に叫ぶ。
その直後、耳障りな――
コンクリートが削れる音が響いた。
「……動いた!」
ファルコンの悲鳴に近い声。
俺はフラッシュライトを点灯させ、前方を照らす。
――そこには。
さっきまでレーザーの中心にあったはずのSCP-173が、
半身を外に出した状態で止まっていた。
「……くそっ」
レーザーは、完全に沈黙している。
「全員、見るなよ!絶対に目を離すな!」
フォックスが歯を食いしばる。
「ちっ……最悪の展開だな!」
『状況は把握している』
オーバーウォッチの声が、重く響く。
『ハウンド、判断しろ』
俺は一瞬、考えた。
このままでは、全員が張り付いて動けない。
レーザーは無効。
電力復旧が最優先だ。
「……役割を分ける」
俺は即断した。
「俺とフォックスで、ジェネレーターを直しに行く」
「ハウンド!?」
ファルコンが声を上げる。
「ファルコン、シャドウ。お前たちはここに残れ」
俺は、SCP-173から視線を逸らさずに言った。
「瞬き管理を徹底しろ。絶対に一人で見ないな」
シャドウが短く言う。
「了解だ」
表情一つ変えない。
だが、その声には覚悟があった。
フォックスが、俺を見てニヤッとする。
「重収容区域のコントロールルーム、だよな?」
「ああ。ジェネレーターはそこだ」
『判断は妥当だ』
オーバーウォッチが続ける。
『ハウンド、フォックス。ジェネレーターを再起動しろ』
『ファルコン、シャドウ。SCP-173を監視し続けろ』
『復旧次第、合流だ』
「了解」
ファルコンが、必死に瞬きを抑えながら言う。
「は、早く戻ってきてくれ……!」
「必ず戻る」
俺は言い切った。
フォックスが、ゆっくりと後退しながらSCP-173から距離を取る。
「瞬き交代、今だ!」
一瞬。
その隙に、俺とフォックスは通路を駆け出した。
背中に感じるのは、
“見られていないときにだけ動く怪物”の存在感。
「……なあ、ハウンド」
走りながら、フォックスが言う。
「今回の任務、導入にしちゃ重すぎじゃねえか?」
「財団の仕事は、いつもそうだ」
俺は答えた。
「だが――」
暗闇の先に、重収容区域へのゲートが見える。
「ここからが、本番だ」
背後では、
ファルコンとシャドウが、
一瞬の瞬きすら許されない地獄に立ち向かっている。
そして俺たちは、
サイト19の心臓部へと踏み込んだ。




