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SCP:TASK FORCE  作者: YATA0401
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サイト19編第二章 沈黙と警報

サイト19の内部は、異様なほど静かだった。


足音が、やけに大きく響く。

コンクリートの床、無機質な白壁、天井を走る配線。

いつもなら研究員や警備員が忙しなく行き交っているはずの通路に――人影がない。


「……なあ」


フォックスが、声を潜める。


「人、いなくね?」


「……ああ」


俺は周囲を警戒しながら答えた。

血痕もない。争った形跡もない。

ただ、“消えた”ような空白。


ファルコンがゴクリと喉を鳴らす。


「避難、完了してる……とかじゃ、ないよな?」


「それにしちゃ、静かすぎる」


シャドウは何も言わない。

だが、いつもより一歩前に出て、角を切るように動いている。

――嫌な予感が、全員の中で一致していた。


その時だった。


――――――――――

《警告。警告。収容違反を検知》

《複数のSCPオブジェクトが収容違反状態》

――――――――――


耳を裂くようなサイレンが、サイト全体に鳴り響いた。


「……来たか」


フォックスが、いつもの軽さを失った声で呟く。


赤色灯が回転し、通路全体が脈打つように染まる。

“異常事態”が、公式に宣言された瞬間だった。


『ハウンド、聞こえるな』


オーバーウォッチの声が、すぐに割り込んでくる。


「聞こえてる。違反が確定したな」


『ああ。詳細は追って送るが……まず指示だ』

『サイト内に残存しているDクラスは、基本的に“生かしておけ”』


フォックスが、思わず舌打ちした。


「……またそれか」


俺も、歯を食いしばる。


「サイトに放り出しておけ、って意味だな?」


『そうだ』

『意図的に回収はするな。だが、不要な殺害も許可しない』


ファルコンが小さく呟く。


「……使い捨て、か」


『分かっている』

オーバーウォッチの声が、一瞬だけ低くなった。

『俺も、お前たちも、その制度が正しいとは思っていない』


「……了解だ」


命令は命令だ。

だが、納得できないものを抱えたまま戦場に立つのは、いつだって同じだった。


「行くぞ。まずは近場の収容区画を確認する」


その直後――


シャドウが、ピタリと足を止めた。


「……止まれ」


全員が即座に静止する。


俺は、視線の先を追った。


通路の角。

照明の切れた、半暗がり。

そこに――


“立っている”


灰色のコンクリート像。

人型。

異様なほど歪んだ姿勢。


「……まさか」


フォックスが、息を呑む。


「SCP-173……!」


間違いない。

写真で、訓練映像で、嫌というほど見てきた。


「全員、目を離すな!」


俺は叫んだ。


「ファルコン、瞬き管理!フォックス、銃口は下げろ、撃つな!」


「了解!」


「う、うん!」


シャドウは無言で、俺の死角を補う位置に立つ。

こいつは、こういう時こそ頼りになる。


SCP-173は、微動だにしない。

だが、分かっている。


目を離した瞬間、終わりだ。


『……確認した』


オーバーウォッチの声が、緊張を含んで響く。


『SCP-173との接触を確認。無理に排除するな』

『その場で拘束、もしくは迂回しろ』


「了解だ」


俺は、マグナムを構えながら、息を整えた。


「いいか、全員。こいつは“見ている限り”動かない」


フォックスが苦笑する。


「逆に言えば、見てないと死ぬってことだな」


「その通りだ」


赤色灯の光が、SCP-173の影を不気味に伸ばす。


サイト19は、もう安全な施設じゃない。

ここは――

異常が、解き放たれた迷宮だ。


「……進むぞ。目を逸らすな」


俺たちは、最初の異常と向き合った。


そしてこれは、

ほんの始まりに過ぎなかった。

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