サイト51編第二章 地獄の四重奏
廊下の奥から、ひどく不気味な声がした。
「たすけて……」
「こっち……こっち……」
それは人間の悲鳴そっくりの声。
だがその正体は――
「来るぞッ!!」
赤い鱗、裂けた顎、肉食獣のような四足。
SCP939 が一斉に姿を現した。ざっと数えて……12体。
「俺とハウンドとアルトで939を落とす! 正面突破だッ!」
コマンダーが咆哮し、レーザーガンを構える。
銃声と咆哮がぶつかり合う寸前――
背後の闇が動いた。
黒いシルエット。
影そのものが実体を持った異常存在。
SCP280。
「ファルコン! シャドウ! 280は任せた!」
「了解!!」
さらに、肉片が蠢く音。
赤黒い感染者が壁を破って溢れ出す。
SCP610だ。
フォックスが叫ぶ。
「悪いな! 残ってるの全部俺らで受け持つ!!」
ブライドがミニガンを回す。
「焼き払ってやるぜェェッ!!」
フェニックスはロケランの装填完了。
タイタンは既に偵察ラインを築いていた。
――戦闘区域が三つに分断。
全員の戦闘が同時に始まる。
どれほど斬り伏せても、939は止まらない。
一匹が倒れれば二匹が飛びかかる。
アルトが弾倉を叩きつけながら叫ぶ。
「ハウンド!! 左!!」
俺はマグナムを至近距離で叩き込み、939の頭蓋を吹き飛ばす。
同時にコマンダーがレーザーガンで貫通させ、肉を焦がした。
その最中、耳を劈くように通信が割り込む。
『全隊員、聞け。今回の収容違反――カオス・インサージェンシーの関与が濃厚だ』
「またあいつらか……!」
『お前らは惑わされるな。だが……』
声のトーンが低くなる。
『貴様、コマンダー。無駄な突撃でまた死者を増やすなよ』
コマンダーは舌打ちしながら、939を蹴り飛ばした。
「誰が増やすかよ。こっちは一人も死なせねぇ」
『口だけは一人前だな、貴様は』
「なら結果を見ろ。俺の弟子は強いんだよ」
俺を見るコマンダーの視線は熱かった。
『……ハウンド。お前だけは絶対に死ぬな』
「了解、オーバーウォッチ」
通信が切れた瞬間だった。
廊下を走る風。
誰かの「助けて」という声。
だが、その声は明らかに――
人間の声真似が上手すぎた。
コマンダーが低く呟く。
「まだ来る……全員、構えろ」
闇の奥で白い牙が煌く。
血の匂いが濃くなる。
SCP939の第二波だ。
各戦闘地域から、仲間の怒号、銃声、悲鳴に似た咆哮が響き続ける。
戦況は――まだ始まったばかり。
SCP076はまだ姿を見せていない。
それが恐ろしくてたまらなかった。
しかし、立ち止まる余裕はない。
俺たちは、闇の向こうから走り来る牙へ
再び引き金を引いた。




