サイト19編第十一章 最後の一撃
SCP-682が、ゆっくりと体勢を低くした。
狙いは――俺たちだ。
「……シャドウ」
「分かっている」
シャドウは、残った1本のマチェットを逆手に握りしめた。
俺は、マグナムの弾倉を確認する。
残り:2発
そのうち――
貫通弾は1発だけ。
「……この1発、外せない」
深呼吸。
SCP-682が、喉の奥で低く唸る。
理解している。
銃が、効かないとわかっている。
だからこそ――
撃ち抜く場所はひとつしかない。
「……狙いは目だ」
シャドウが、一歩前へ出る。
「俺が隙を作る」
「頼む」
SCP-682が吠えた。
ドォン!!
咆哮そのものが衝撃波。
視界が揺れる。
だが、シャドウは迷わない。
ステルス機能を起動し、一瞬姿が霞む。
「こっちだ、爬虫類」
わずかな挑発。
SCP-682が顔を向け――
隙。
俺は、息を止めた。
照準が、SCP-682の右目の黒い中心へ吸い寄せられる。
一発だけだ。
「……死ね」
――ドンッ!!
貫通弾が、一直線に放たれた。
ズバァッ!!!
SCP-682の右目を、完全に貫通。
奥の骨まで砕き、血と眼球片が飛び散る。
怪物が、悲鳴を上げた。
耳を裂くような怒号。
「今だ、シャドウ!!」
俺が叫ぶと同時に――
シャドウが、SCP-682の顎下へ飛び込む。
「……終われ」
ガンッ!!
急所――脳への最短ルートへ、マチェットが突き立つ。
その刹那。
SCP-682の動きが、完全に止まった。
巨体が、ゆっくりと崩れていく。
床が、崩壊するほどの重み。
その振動が収まるまで、俺たちは動けなかった。
『……確認した』
オーバーウォッチの声が、小さく震えているように聞こえた。
『SCP-682、完全停止。生体反応なし』
シャドウは無言のまま、血の滴るマチェットを引き抜く。
俺は、全身の力が抜けていくのを感じた。
「……やった……のか」
『やったぞ、ハウンド』
オーバーウォッチの声が、少しだけ優しくなる。
『本当によくやった』
俺は、崩れ落ちた床の向こうに倒れている
フォックスとファルコンへと向かった。
「待ってろ……まだ終わってねえ」
救急用ナイフで簡易止血。
フォックスの胸元に酸素を送り、ファルコンの脈を確認する。
「生きてる……!」
フォックスもファルコンも、まだ戦えるだけの命は残っていた。
シャドウが言う。
「救護班を呼んでいる。すぐ来る」
「……良かった」
力なく笑う。
その瞬間だけは、
戦場の音が消えた気がした。




