サイト19編第十章 削られていくもの
SCP-682が、踏み出した。
それだけで、床が割れた。
制御室の壁が悲鳴を上げる。
「散開!!」
俺の叫びと同時に、全員が動いた。
フォックスが、即座にグレネードランチャーを構える。
「喰らえ、トカゲ野郎!!」
炸裂音。
火炎と破片がSCP-682の胴体を包んだ。
――だが。
「……効いてねえ!?」
煙の向こうから現れたSCP-682は、ほとんど無傷だった。
焼け焦げた鱗が、すでに再生している。
次の瞬間。
ドンッ!!
尾が、横薙ぎに振るわれた。
「フォックス!!」
間に合わなかった。
フォックスの身体が、壁に叩きつけられる。
鈍い音。
嫌な角度。
「……っ、が……」
床に落ちたフォックスは、動かない。
胸部装甲が砕け、血が広がっていく。
「フォックス!!」
俺が叫んだ、その直後――
ズンッ!!
天井が、崩れた。
瓦礫の隙間から、SCP-682の頭部が突き出る。
「ファルコン、下がれ!!」
だが、遅かった。
SCP-682の顎が、床を叩き潰す。
爆風のような衝撃。
ファルコンが吹き飛ばされ、制御盤に叩きつけられる。
「――っ!!」
声にならない声。
スナイパーライフルが転がり、
ファルコンは、胸を押さえたまま崩れ落ちた。
「……ハ、ウンド……」
血が、口から溢れる。
「……大丈夫だ、喋るな!」
言いながら、俺は分かっていた。
致命傷だ。
『……確認した』
オーバーウォッチの声が、重く沈む。
『フォックス、ファルコン、戦闘不能』
SCP-682が、再び動いた。
「くそっ……!」
俺はマグナムを撃つ。
ドン!
一発目。
弾かれる。
ドン!
二発目。
鱗にめり込むが、止まらない。
その瞬間――
SCP-682の爪が、俺の腰を掠めた。
ガキン!!
「……っ!」
衝撃で、予備弾倉が砕け散った。
床に転がる、潰れたマガジン。
「……弾が……」
確認する。
残り2発。
そのうち、貫通弾は1発だけ。
「……最悪だ」
背後で、金属音。
シャドウが、SCP-682の脚部に斬りかかった。
「……!」
マチェットが、鱗の隙間に食い込む。
――だが。
SCP-682が、脚を振り上げた。
バキンッ!!
「……っ」
シャドウが、後方に跳ぶ。
床に落ちたのは、
折れたマチェットの刃。
「……一本、やられた」
シャドウの声は、冷静だ。
だが、事実は重い。
戦力は――
フォックス:致命傷
ファルコン:致命傷
弾薬:残り2発
マチェット:1本喪失
そして目の前には、
倒せない怪物。
SCP-682が、俺を見た。
知性のある視線。
まるで――
「次はお前だ」
そう言っているようだった。
俺は、歯を食いしばる。
「……まだだ」
マグナムを握り直す。
「……まだ、終わらせねえ」
シャドウが、俺の横に立つ。
「指示を」
「……時間を稼ぐ」
俺は言った。
「フォックスとファルコンを、ここから出す」
『……ハウンド』
オーバーウォッチの声が、苦渋を含んで響く。
『無理をするな』
「……無理をしなきゃ、全員死ぬ」
SCP-682が、再び踏み出した。
制御室が、完全に崩壊し始める。
残された弾は、2発。
残された刃は、1本。
そして、
残された選択肢は――ほとんどない。




