当選
随分間が空いてしまい、申し訳ありません・・・。
よろしければ、どうぞ><
まるで宗教のような授業は地獄でしかなかったが、その後のことを思えば、まだ可愛いものだったのかもしれない。
帰宅部といえば聞こえはいいが、放課後特に何もすることがない俺たちはちりじりと自宅へと解散した。
俺の家ではドアを開けた途端、いつもは声を荒げない母さんが怒鳴るような声が俺の耳へと伝わった。
足元を見れば、弟や母、父の靴ではない見慣れない靴が鎮座している。
それも、綺麗に磨かれた革靴だ。
俺は密かに眉間に皺をよせたが、仕方なくそこで靴を脱いで未だに怒鳴る母の声が聞こえる方向に足を向けた。
「・・・ただいま。」
あえていつもよりも乱暴にドアを開けて、居間に入るとそこには俺の方に振り向いたら二人ぶんの眼が俺の方をぎょろりと見据えた。
奥に見える母さんに目をやり、手前のほうの男性を次に見た。
綺麗な黒のスーツに身を包み、手には黒いアタッシュケースを持っており、顔はどこかピーナッツを思わせるような輪郭に正しい位置に正しいものが配置されたとても美しい顔立ちをした、いかにもビジネスマンな青年といった印象だ。
俺は不自然な沈黙が流れる部屋のなかをつとめて自然に歩き、母さんの目の前に体を滑らせた。
男と俺が丁度向かい合うような体制で、母さんが俺の後ろにいる、そこでその場の空気はようやっと動きだした。
母さんはしきりに俺に向かって部屋に行ってなさいと俺の腕を引いたが、母さんを置いて知らない、しかもどこか怪しい男性と二人きりになんてしたらそれこそ父さんに何を言われるか分からない。
母さんはだんだん懇願するように腕をひいてきているが、男としてここまでしているのだから、引けるわけがない。
やがて俺とにらみ合っていた男性が先ほどまでの驚愕の表情から一息に顔をくしゃりと笑んで見せると俺の手を無理やり握り握手してきた。
なんだ、なんだ?!
男は困惑している俺をよそに、素晴らしい! 君は幸運だ! エクセレント! としきりに感動している。
どういうことだと母を振り向いたが、そこには瞳を揺らしながらどこか戸惑ったような姿があるだけで、やがて母は首を緩やかに振った。
母さんにも訳が分からない、ということか。
男は握手をひとしきり終えた後に、恭しくおじきをしてみせてアタッシュケースをその場で開いて見せた。
そこには灰色のスポンジに守られた、時計のようなものが真ん中に置かれていた。
男は俺が唖然とそれを見ていることを特に気にすることもなく、嬉々としていいはなった。
「おめでとうございます! 国民の中から当たりました、試作プレーヤーの権利でございます! こちらを身に付けて頂き、会場のほうへどうぞ!」
「は? 何を言って・・・ちょ、おい!」
いつのまに入ってきたのか、男と同じ服装のしかし体格は男の倍はありそうなガチムチ系の男が俺の肩をがしりと掴んでそのまま無理やり担がれてしまう。
「やめなさい! 私の息子なのよっ!」
母が若干ヒステリー気味にガチムチの肩を叩いたが、全くきにすることなく、その足は玄関へと向かってしまう。
俺を追いかけて踏み出した母の前に、男がそれをさえぎった。
俺も何とか抜け出そうともがくものの、全く抜け出せず、母の前までいけない。
男は母の前で、先ほどの嬉々とした声音のままに、「お子さんはお預かりします。」とだけ言い残し、母の鳩尾に拳を埋めた。
短い悲鳴のあとに、くずれ落ちる母を見ながら、俺は後頭部に熱い衝撃を感じた。
「少し、眠っていてください。」
それは、やはり嬉々とした声音の、あの男から発されるそれだった。最後に神経を母に向けたところで、俺の意識は闇に解けた。
読んでいただきありがとうございました!
本当に、どんだけ間開けてるんだという感じですが、これからは小まめに更新しようと考えておりますのでよろしくお願いします><