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第1話- 目的と結論 -

冥府へと続く暗い道。

黒色のマントを靡かせた短い髭の男が一人、音もなく降りてきた。


時々捲れるマントから見える体は肋骨がはっきり見えるほどガリガリで、何日も絶食したのが見てとれる。

食べ物を探しているのか、頼れる明かりがないのか、ふらふらとするその足元に、あるべき足がない。


やがて小さな光が幾つも浮かぶ場所に辿り着いた男の顔に、片目がなかった。

異形ともいえる来訪者を、知っているのか知らないのか、小さな光がすーっと通り過ぎようとした、が。


「おおおぉぉぉ……!!これこそ、求めた知識!!!」


目の前のそれを、ぐっと掴んだ。

その瞬間。

冥府の世界を狂暴な風が吹き荒れる。

さらに目の前の小さな光も、男は掴む。


「言葉が浮かぶぞ……イサ!!」


今度は分厚い氷が死者の世界を銀色に包んだ。

小さな光たちは仲間が捕まる異常事態に、起き、逃げようとした。

しかし小さな悲鳴が1つ、また1つと男の手に落ちていく。

そして24個目を手にした時、霊体であった男の体が元に戻り始めた。


「口惜しいがここまでか……、まぁ良い。これがあれば、ワシの思うままであろう。」


時はミドガル歴9年。

冥府から神の魔法を苦労の末に持ち帰った男、ヴォルダは24字を使い世界を書換え始める。


まず大きな国へと足を進めた。

見窄らしいこの男に、当然兵士達は槍を向ける。

だが。


「貫けるものなら、貫いてみせよ。「防御エオル」。」


見えない壁に阻まれた槍は、男の手前で虚しく落ちる。

そして男は砕けた石を払い落とし、おもむろにまた1つ拾う。

この事変に力の強そうな大尉がズカズカと男に詰め寄り、腕を掴み、そして両腕の力で押し潰そうとした。

枯れた枝のような男は、簡単に折れるものだと誰もが思っていた。

ところが、先にボキッと音を立てたのは大尉の腕だ。


「ひいっっ……」

「ば、化物だぁ!」


侵入を拒んでいたはずの兵士たちは腰を抜かす者や、祈り出す者、逃走する者と、もはや役目を全うすることができずにいた。

非常事態に、この国の王は男の前に姿を現さざるを得なかった。


「……何が望みだ。」


「王女をワシの妻に差し出せ。無論、タダでとは言わん。そちらの条件を、3つ叶えてみせよう。」


「条件……何でもいいのだな?ならば、今すぐ金貨5千枚を用意してみせよ。」


本来であれば、用意など不可能といえる金額。

国王は、男がぐうの音を上げ引き返すと思っていたが結果は違った。


不敵に笑みを浮かべた男が地面に手を付けた瞬間、金貨がまるで湧き水のように吹き出す。

目の前の放浪者はただ者ではない。

気づいた国王は、さらに難題をつきつける。


「……この国から58ミル離れたところに、敵国がある。それを2日で落城させよ。」


1ミルですら村1つ分。

それを58移動するには少なくても馬で8日、徒歩で15日はかかる。

しかし男は不敵に笑うと落ちていた枝を1つ拾い、顎に手を当て言った。


「ふむ、確認は……貴殿で良かろう。前進ラドエワズ


折れた枝を投げ捨てた男はまた1個石を拾って国王の腕をぐっと掴むと、現れた馬に乗せ疾風のように駆けると、瞬く間に敵国に着いてしまった。


そして男は2つの文字を合わせ、天変地異を起こしたのだ。

降り注いだ雷と雹に、真下の人間は何が起きたのさえ理解できなかったであろう。

気づいた時にはすでに、国が落ちていたのだから。

この光景に震え上がったのは、国王でもある。


「さて、最後はなんじゃ?」


「……縄と、錠をお前につける。抵抗するでない。」


「良かろう。監禁から抜け出せば、約束を叶えてくれるのならばな。」


頷いた国王は何重にも縄をかけ、錠をし、地下の奥深くの牢へ男を閉じ込めた。

牢に続くいくつもの扉も、鍵をかけ、釘をうち、絶対に開かないようにした。

それでもヴォルダはルーン文字を使い、拘束を粉々に砕き脱出。

とうとうこの国の王として、君臨した。


神の魔法は凄まじく、戦争で死んだ戦士たちを蘇らせた。

無敵の軍団に炎で対抗しようものなら簡単に鎮火され、相手は足並みが揃わず全滅していった。

もはや、止めるものは誰もいなかった。

神の魔法で思うままに操作し、己の命も「再生」で書換えた強欲王による、暗黒の独占時代。

しかし……100年が過ぎた頃。


突然その時は訪れた。


イサハガルが暴れ出したのだ。


「ぬっ?!何をしている!お前たちはワシの、道具なのだ!!」


その言葉が逆鱗に触れたか、凄まじい冬が3年続くことになった。

飢えと寒さ、そして怪異たちが解き放たれ、長き冬が終えた後のヴォルダ王の国はボロボロだった。

何より魔法暴走は強欲王の体を蝕み、強烈な痛みに耐えかねミスリルや金剛石などに神の魔法を入れて魔法道具とした。

それでもなお襲う苦しみに王は知った知識を配下に教えたが、それが仇となり2年後に惨めな死をとげた。


王がミスをしたとするならば、彼への裏切りではない。

『運命の目』が意図的に隠した文字がまだ冥府にあったことである。

時は少し遡り、ミドガル歴59年。


泣きじゃくり、震えていた魔法たちもようやく落ち着き、冥府に静けさが戻っていた。

しかし文字たちは眠れず、暇で暇で仕方なかった。


王が「眠り」のルーン文字を持ち出したのも影響しているが、またあのような人間が現れるのではないかと不安だったのだ。


冥府と言うと、いわばあの世。

ひょいひょい来られる者などないので、取り越し苦労だったわけだが。


持て余す、長い時間……………


《キャーキャー》


《捕まえた!》


追いかけっこをしたり、しりとりやクイズを出し合ったり。


《次はー、家の形!》


文字同士で組み競争をしたりと時間を潰してみたが、50年経っていい加減飽きてきた魔法たちは言った。


《外の世界を見てみたい〜!》

《もう大丈夫そうだし寝よ〜?》


外に出る派と残る派に分かれ、無邪気な文字たちははしゃぎながら他の文字たちに《出よ〜》と声をかける。


《出るなら、回復ベルカナ姉を探したい。》


《儂も大地オシラがおらんと、落ち着かんの。》


いくつかの文字たちは、探し文字のために覚悟を決めた。


《されど、如何様にして外へ出る?》


魔法の文字は実体がない。

石や骨、枝などにその力を宿す入れ物。

依り代が必要だが、動かない物はダメだ。

少なくても、歩くか、泳ぐか、飛ぶことのできる生き物。

程よく生きれて、自由がきき、紛れられるもの。


《ケヒヒ、狼なんか強そうじゃん!》


《ミーは目の効く猫をススメるよ。》


《長く生きる生物、それは鯨。》


多種多様の動物の名が上がったが、短命だったり、行ける場所が限定的な動物ばかりだ。


《ソシタラ、人間なんてドォー?》


《此れは知る。かの者は常変化し揺れ動く不完全なる者なり。》


《……でも、美味しい物食べれるって……聞いたよ?》


《なにそれ!なにそれ!どんなのかな?ワクワクする、気になる!》


小さく呟くように、一つの文字は人間には味覚というのが存在して「甘い」と「塩っぱい」と「酸っぱい」と「苦い」と「美味い」があると答えた。


《摩訶不思議で、興味。》


《ねぇねぇ、人間って色彩豊かなんだよね?触覚も広がってすごいらしいよ!》


元気よく答えた別の文字が、色彩は「赤」「青」「緑」を中心に多彩。

触覚は「押された」とか「温かい」とかきめ細やかに感じるんだと言った。

相談の結果、文字たちは人間に1番興味を持つ。


《でも、人間になれそうな仲間は持ち出されちゃったんだよね……》


《ん〜、そうだ!「転生」はどう〜?》


そうして幾つかの文字たちはわらわら纏まると、「転生」のルーンを捕まえ、言った。


《ね〜ね〜行こうよ〜》

《一緒に来てくれたら…嬉しい…》

《お願い、したいの。》

《後生じゃ、頼む!》


兄弟たちに強く言われ、少し飽きれた様子を見せた「転生」だったが根負けして頷いた。


そして文字たちは、人間に産まれ変わったのである。

数年の時が経ち、ミドガル251年の小さな村。


「はい。お婆さん、治療終わったよ。」


「治癒」のルーンを使い、一人の神官が最前列の老婆に手を差し伸べた。


青空治療院とも言うべきか。

腰掛ける程度の小さな丸い椅子が向かい合わせにあり、人目を避ける衝立が申し訳無さそうに立っている。


「ありがとうよぉ、薬草じゃあ治りが悪くてねぇ…。」


神官の手をかり、重い腰を上げた老婆は持ってきた太めの杖に自重を預けながらゆっくりと去っていく。

その背を、珍しそうな顔で見つめるガタイのいい男が入れ替わりに椅子へズカッと腰掛けた。


「へぇ~、最近のあんたらは腕が落ちたって噂だったが。そうでもねぇんだな。」


「自分なんて、まだまだですよ……」


まだ幼さが残る清楚な顔立ちの青年は、苦笑いを浮かべ言った。

簡素な黒の長袖を袖まで捲り、茶色のズボンの裾は少し汚れている。

傷を塞ぎ終わった男を見送ると、小さな声がポツリと言った。


転生ルソ兄。あの人、ちゃんと治さなくていいの?》


次の患者の手当てをしながらルソと呼ばれた青年は、小さな声の主「治癒」のルーンであるリヴに心の中で答える。


『あの人が言ったように、他の人が使う回復のルーンは「複製」だからね。それに、治癒の君と活力は違うから少し合わせないと、バレちゃうよ。』


ルソは、ニつの工夫を凝らしていた。

一つは、自身の魔力と波長の合う「波動」による他の文字たちとの調律。

もう一つは「疑似」で、自身の使う本物の輝きを「複製」に似せているのだ。


強欲王ヴォルダがかつて持ち出したルーン文字は、今や「複製コピー」としてミドガルに普及している。

なぜなら文字たちが人間として生まれたのは、強欲王が死去してから120年後だからだ。


しかし、ルソは複製の力を使うことができない。


それはルソたちが「本質オリジナル」のルーンそのものだからでもある。

世間に広まるコピーの文字は、いわば本物の概念を薄く写し取っただけの、「決まった現象を起こす記号」に過ぎない。

偽物の力を本物の彼らが真似をすると、世界がパニックを起こして拒絶されるのだ。


それだけに、持ち出された24文字のルーンを使うには元のルーン。

すなわち、「本質」のオリジナルを回収しなければならない。


《ねぇねぇ、そろそろお腹減ったんだ。だよね?》


ぐぅ〜と言う音が小さな声に答え、ふぅとひと息ついたルソは軽く頷いた。

宿は少し離れているので、事前に持参したものを鞄から取り出す。

粗挽きの小麦を使った黒いパンの、香ばしいというより苦味が口に広がる。

そして皮袋から、ほんの少しだけアルコールを混ぜた水を注ぎだしゴクンと飲み干した。


《エールはないのかの?あの味が忘れられんのじゃが。》


『クロム、君も自分たちも酔いつぶれたんだ……エールは勘弁して……』


栄養価が高いと聞いて一度だけ飲んだ、いわばお酒。

村々の施しで旅をしている身には、そもそも手が出ない代物だが。

あれを飲んだ時の、世界がグワンと歪む感覚は苦い思い出でもある。


《やっぱり岩はさ〜、ゲット・ドランクがいいんじゃない?》


《なんじゃ翼、そのセンスのない呼名は……!そういうお主こそ、エゼからリトル・シップにしたらどうじゃ!》


脳内で追いかけっこしだす、エゼとクロムに『まだ呼名こだわってるんだ…』と呆れ混じりのため息を零す。

文字たちが人間に産まれる時、「転生」にはルソと両親が名付けてくれた、が。


《あ〜、ズルい〜!ぼくもスカイスって呼んでぇ〜!もしくは、スカイ・ハイ・フェア!!》


《えっとね……わたしは……バブルで……いいよ?》


《ケヒヒ、センスねェな。オレは疑似フォウシアな!》


似合わない〜と、笑い出す魔法たち。

彼らにはそれぞれの形と、触れた者が名を呼ぶか己で名乗る呼名が存在する。

転生のルーンに「ルソ」と名前がついて、よっぽど羨ましかったんだろうが。

当の本人は呼ばれたのが依代か、魔法かで、困惑することもまれにある。


「ああルソさん、ここにいたんですね。救済の依頼がきているのですが…」


「き、き、救済!!?あの、えっと、いつまでに……」


「5日後までにだそうです。無理そうなら村長に言ってください。」


それじゃあと、忙しそうに手を振り畑仕事に戻る村民を見ながらルソは青い顔をした。


救済の依頼。

すなわち、幽霊退治のことである。


文字たちの中に、浄化のルーンは……

存在していた。

「浄化」のルーンは、強欲王に持ち出されていたのだが。


《私も回復ベルカナもヤツの内部損傷は癒せなくてね、【いらぬ!】って言われたわ。》


そうして捨てられたと語り、転生した文字たちと一緒に旅する仲である。


そのため、無理ということはない。


ただ、元々文字だった魔法たちにとって幽霊は近い存在。

普通の人間にとってぼんやりとした霧程度が、透けて足が無い以外はしっかり、ガッツリと見える。

それはもう、言葉で表したくないような状態なものすらも、だ。


だから苦手もあるのだが、決定的な苦手意識。

トラウマというものがある。


それは、人間に転生する前の文字だった時に下りて来た強欲王ヴォルダの()()()()だ。

思い出しただけで、ルソは身が震えるのを感じた。


とはいえ、神官を名乗る以上この仕事はしなければならない……


なぜなら。


初めてこの依頼を受け、断ろうとして、疑いの目で見られたからでもある。


『い、イヤだな〜。冗談ですよ、冗談。ハハハ……』


笑って誤魔化したが、表情に出ていたので『お化けが苦手な神官』のレッテルを貼られてしまったのだ。


このまま無視したら、他の聖職者を呼ばれるかもしれない。

それは、文字たちにとって困ることだ。

神官は名乗っているが、ルソ自身はどこにも属していない。


いわば[無所属]


ルソの父が聖職者で「見聞を広めたい」と説得し、15歳の時にようやく承諾してもらい2年経つ。

旅に出る前に、父が聖書と白いストール、必要な物を手渡してくれたのが懐かしい……

それが、トールという徴税所を通る時助けになった際は感謝の気持ちでいっぱいだった。

けれど他の聖職者が来て「所属がない」と知れたら、仕事ができなくなる恐れもある。


『イヤだけど、やるしかない……か。』


治療を求め並んだ人の列が、ようやく1桁になった4日目の昼下がり。

ルソはいやいやながらも、依頼の場所の古城へやって来た。


まだ日が高いというのに、生い茂る木々や古城のレンガを這って伸びた野薔薇のせいで、ここ一帯だけどんよりと暗い。


いや、大元の原因は木々や野薔薇ではなく彷徨う幽霊にある。

幽霊は放置すると悪霊になって村や街を襲ったり、他のアンデッドを呼び寄せたりする。


救済の依頼とは、その原因と必要であればゾンビも除去の対処であることを意味していた。

そして案の定というべきか、古城の回りには16体のゾンビが彷徨いていた。

そのうちの3体がルソに気づき、新鮮な肉に齧り付くように襲いかかってきた。


「「波動」、現象を紡ぎノイズを整える。頼むよ。」


自分たちが混ざることで発生する「ノイズ」という、不調和。

その摩擦を「波動」のルーンを自身に紡ぐことで、一時的にエネルギーを整え緩和する。

そして、黄金の光を放つ魔法の文字を3つ。


浄化ラーグ。」


宙に紡ぐと柔らかな光が現れ、触れたゾンビたちは忽ちボロっと崩れた。

仲間を消され怒ったのか、はたまた横取りを恐れたのか2体の生ける屍がルソを狙う。


「遅いよ。」


金色の文字が強く輝くのと同時に、屍たちは彼の白いストールに手を触ることすらなく土へ還った。

そんな中、背後から迫った亡者1体。


《「転生」、背ががら空きぞ!》


《え〜い、転ばせちゃえ〜!》


スキルド」が己の力を微小使い最初の攻撃を。

さらにその後ろからドミノ倒し如くのしかかってきた1体は、エゼが微小に力を発動させ転ばしそこを浄化した。


「ありがとう、助かる。」


調律のあった波長は、お互いの摩擦もゼロにする。

8歳の時に知らず使い、指先の痺れや強い眠気も、今はない。


魔力配分も意識しながらここまでに、10分。

残り8体だが、まだ幽霊がどれほどいるかわからない。


「あまり時間も魔力も使いたくないし……よし集約ソム。」


あちこちにいた化物が5体、まるで整理でもされるように空に浮かんだ文字へ吸い寄せられる。


浄化ラーグ治癒リヴ頼む。」


2つの文字を重ねることで、浄化の力が増幅。

アンデッドたちは、光に溶かされるように消えた。


「ふぅ。幽霊と、ゾンビ。なんか違うんだよね……」


ルソは残りの3体も、ものの数分で浄化した。

実体のある亡者は、幽霊と脳内で別物となってるらしい。

ため息を一つこぼして服やストールの埃を払うと、城の入口。

重厚な黒鉄製の門に絡みつく野薔薇を退かそうと、手を伸ばした。


すると。


最頂点に鎮座したオーブと野薔薇が、淡く光り出したのだ。


「え?な、え?えぇー!?!」


一瞬なにが起きたのか分からず慌てふためくルソをよそに、野薔薇は一つの球体状に纏まると伸ばした手に吸収されるように沈み消えた。


「……これは、共鳴??」


本質の文字同士、強く引き合う現象。

球体が沈み消えた手を見たが、何の変化もない。

そのかわりに、門の頂点のオーブはガラス玉のような無機質へと変わり、古城を覆っていた野薔薇も綺麗さっぱりなくなっていた。


《……この文字、ソーンにぃ……?》


《寝てる、みたい。》


どうやらオリジナルなのは間違いないらしい。

ルソの魂の奥底、文字たちが一時的に集合している『家』ともいえる場所に、ストンと落ちてきて合流したようだった。


『でも、なんでオリジナルがここに?』


ルソは首をかしげながら、城内をビクビク怯えながら幽霊が居ないか見て回った。

シンと静まり返る城内は、不思議なほど幽霊やゾンビの姿はない。


「あの野薔薇が、侵入を防いでいたのかな⋯?」


もしかしたら、村民の誰かがゾンビを見て幽霊が居ると思い込んだだけなのかもしれない。

ルソは微かな安堵を覚えつつ、古城の一番上の部屋に来た。

この部屋に何も居なければ、依頼終了である。


「どうか、居ませんように⋯⋯っ!!?」


ルソの祈りは、脆くも崩れた。

そこには、白いドレスを来た少女の幽霊が佇んでいる。


〘あなた、使用人ではないわよね?どちら様かしら?〙


やけに落ち着き、透き通った声で聞かれルソは固まってしまう。


〘ああ、もしかして案内の方かしら?ここから出られなくて退屈してたのよ。〙


「あ、案内じゃないよ。それに、侵入を拒んでいた野薔薇は消えたし好きにしたらいいんじゃない?」


退屈。

その単語で我に返ったルソだったが、自分で放った言葉に驚いた。

除霊に来たのに、案内じゃないなんて。

けど。


『⋯⋯なんか他人と思えないんだよ。』


暇で、自由に生きたいと出てきた彼らにとって、少女は自分と同じような気がした。

それに、この少女の幽霊はプラチナ・ブロンドの髪を丁寧に三つ編みにして、いくつかの装飾を着けているのに外傷が無い。

綺麗過ぎるぐらい綺麗だ。


〘野薔薇を消した⁉お父様が使った棘のルーンを解いたのですか⋯!あなたは凄い人なのですね。〙


「え⋯⋯今、なんて?」


〘棘のルーンです。私の家系では代々伝え使っていましたが⋯…ご存知ありませんでしたか。〙


ルソは心の中で知ってると叫んでいた。

まさかあの本質がある理由が、代々伝わっていたものだとは……

オリジナルは「あの王」が持ち出した物。

だとすれば、彼女はその血を継いでいるのだろうか……

それにしては、禍々しいとは程遠い雰囲気がある。

そして、ある予感が過った。


「ね、ねぇ、君みたいに代々文字を受け継いでる人っていたりするのかな?」


〘隣の領地の方と交易相手がそうだったかと。あとは……舞踏会で同じ不思議な光を持っている知らない貴族の方を、2人見かけましたが。〙


「つまりは……4人でいいのかな?」


〘はいっ!私が知る限りでは4人で合ってます!〙


そう聞いて、文字たちは内心で会議を始める。

残りの文字を集めるか、否か。


《凡その入手可能性、47.6パーセント。》

《たしかたしか、不死が悲しんでたんだよね。》

《怒っても……いたよ⋯…》


転生前、文字たちは残ると言ったいくつかの文字に声をかけていた。

その内の一つ、不死のルーンは強欲王ヴォルダにしつこく探されたこともあり、人間嫌いになっていた。

同じ文字たちが人間になると聞いただけでそっぽを向き、黙りを決め込み、いよいよ転生となった時こう言った。


《人間になるアナタたちと、話したくもない!人間に無敵もわらわたちも過ぎた力なの!神の魔法だと露呈したら、その命は狙われて扱き使われるだけよ!》


しばらく人間として遊び歩くつもりなので、直ぐ帰るつもりはなかったが。

不死の言い分も、一利ある。


『目標はあってもいいかもしれないし⋯…出来る限りやってみようか。』


前線向きの文字が居ないし、今死ぬのはごめんだし、面倒ではある。

必ず均一に渡されていたかは不明だが、およそ半分の確率だ。


それでも冥府に戻った時手ぶらだったら、不死が何を言うか分からない。


結論。


無敵が帰れば、不死の機嫌も良くなって愚痴を言わないだろうと合致した。


「えっと⋯知ってる2人の名前と、所在地を教えてくれる?君を冥府に送ったら、訪ねたいんだけど。」


〘その必要はありませんわ。私もついて行きますもの。〙


「つ、ついてって⋯来ちゃ駄目でしょ⁉」


〘あら、あなたは好きにしていいって言ったけど?嘘なのかしら?〙


言った、確かに言った。

ただ、それは自分について来るなど思っていなかったからでもある。

ただでさえ幽霊は怖いのに、それが四六時中となるなど⋯

想像しただけで、冷や汗が流れた。

それに。


「幽霊の君が⋯その、自分とかについて来たらいつ悪霊になるか分からない。そしたら痛くて苦しいんだよ?」


ルソは怖いながらも、悪霊の除霊もしたことがあった。

その経験上、悪霊は苦しみや憎しみといった魂の混合物。

見るのもそうだが、負の感情の重さが尋常ではなく、魔法の文字としても手強いと感じるほどだ。


そんな者に、なってほしくはない。


〘それなら大丈夫、あなたがいるもの。あなた、ただ者じゃない。そうでしょ?〙


「そうでしょ⋯って!⁉」


文字たちは、ドキッとした。

バレていない、バレていない⋯はずと。

しかしよくよく考えれば、自分は顔に出るタイプなので気づかれたのかもしれない。


「とにかく、悪霊化したら君も自分も大変なんだし、逝ったほうがいいよ。」


〘⋯私、どうしても外を見て回りたかったのです。17年ずっと、書物でしか世界を知りませんでしたから⋯でも⋯仕方ありませんよね。〙


物悲しい顔の少女は、スイッーとルソに寄りながら言う。


「うぐっっ⋯っ、わかった、わかったから。顔近いし、いったん離れて⋯っ!」


さすがの文字たちも、根負けした。

一方的に除霊という方法もあるが、ここまで事情を知ってしまった以上それもできない。

それに、情報も手に入らなくなる。

ドキドキする鼓動を抑え、呼吸を整えて言った。


「さっきの棘の文字⋯⋯、あれを使うよ。あれなら、他の霊を退けてくれるから。」


ルソは、少女の首元にあるブローチに手をかざす。

そして、「棘」のルーンを刻んだ。


《ふぁああ、ん?何だったお前ら?》


ソーン久しぶり、でいいのかな?君の力を使わせて。』


「棘」のオリジナルが加わったことでその「核」から引き出せる。

そして本質をブローチに刻むことで、永続的に「魔除け」であると示した。


〘まぁ、これで外に行けるのですね!ありがとうございます!〙


せっかく距離をとったのに、少女の幽霊は勢いよくルソに抱きついた。


「ちょ、ちょと、ちょと待って!ちょっと待ってって⋯⋯!!」


幽霊でもそうだが、異性に抱きつかれたことなど母親以外なかった。

そのため、文字たちは大パニックを起こし身体が熱を帯びてその場にぺったんと座り込んでしまう。


〘あの、大丈夫ですか?〙


誰のせいだと言いたかったが、ルソは鼻血を抑えるのが精一杯だった。

心配そうな少女を、片手を広げ止まるよう身振りで伝え言う。


「⋯自分はね、幽霊が苦手なんだよ。だから、あまり距離を縮めないで。」


そうじゃないと心臓に悪いし、とてもじゃないが身が持たない。


〘そうでしたの。珍しい方もいたのですね⋯…気をつけますわ。〙


しゅんとする少女を見ると、なんか悪い事をした気持ちになる。

しかし、トラウマは今直ぐ無くなるものではないし、どうしようもない。


「手⋯ぐらいは繋げるから、さ。案内頼める?自分はルソ、君は?」


〘ルソ様、私はミコと申しますわ。どうぞ、末永くよろしくお願いします。〙


柔らかい素振りで返された握手は、スッと手を貫通した。

しかし、それどこではない。


『死んでるのに、末()()()って⋯…!?!』


内心ツッコミをいれていた。

少女はすでに死者であるのに!

混乱していた脳内に、一つの予感が過ぎる。

⋯⋯まさか。


「ず、ず、ずっと憑いてくるってことじゃ⋯⋯っっ!⁉」

〘行きましょうか、ルソ様♪〙


グイッと身を寄せ抱きつくミコに、ルソはもう言葉を発することができなかった。


完全に諦めモードのまま、階段を降りながら思う。


これは前途多難だな、と……


その予感が的中することを、まだルソは知らない。


―続く―

─断章:父親の呟き─


眠っているルソの枕元で、わたしはそっとあの子の小さな手を握りしめていた。

わたしの息子は、ルソは……

時折、わたしには見えない何かを見ている。

わたしが知らない文字をその指先でなぞり、時折その小さな手をズタズタにして帰ってくる。

そしてルソが8歳の時、あることを聞かれた。


『父さん、たとえば……お互い嫌いじゃないのに、喧嘩しちゃわないようにするにはどうすればいいのかな……』


誰と、いつ、そうなったか、息子は語らなかった。

何かの秘密を抱え、苦しんでいる……わたしにはそう見えた。


『そうですね……ルソ、あなたがその喧嘩を止めるならどうします?』


『自分なら?自分なら間に入って仲裁する……あっ!お互いの音を、調律を合わせればいいんだ!』


それから、この子はわたしにあれこれ聞くようになった。

まるでスポンジが水を吸うように、知識を吸収していった。

あまりにも危うすぎる小さな息子に……せめて今は、可能な限り学びを与えたい。

──あの子の力がどんなに異質であったとしても。

わたしの息子に変わりはないのだから。

たとえ世界がこの子を拒絶しても、わたしはこの小さな手を守り抜こう。

いつか……この子が村を離れるその日まで。

-終わり-


─第1話を読んでくださりありがとうございます。〘ルーン文字が人間になったら〙という案は前々からあったものの「無双話は…」と書けずのままでした。あるラノベ作品の〘幽霊を神官が怖がるわけない〙というフレーズにインスピレーションを受け、この作品が誕生することになった次第です。書き出し当初、ただのモブだった父親を始め、ワイワイしだす文字たちに、私自身が笑ってしまう今日この頃ですが。これからの彼らの歩みを楽しみながら、見ていただければ嬉しいです。─



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