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四人の姫たち

(まさか父上から強制的にお見合いをさせられるとは……)


お相手が到着したと報を受けたレオニスは、ため息を吐きながらトボトボと応接間に向かった。

正直自分が女性とどうこうなりたいという欲は毛ほどもないのだが、国王である父の顔を立てるためにも適当な対応をすることはできない。

とはいえ脈がないお見合いなんかで時間を奪ってしまうのは申し訳ないし、当たり障りのないお話だけしたら、上手いこと言ってとっととお帰りいただこう。


そう思いながら応接間の前までやってきたところで、部屋の中から話し声が聞こえてきた。

その声に、レオニスはぴたりと足を止めた。


「…………だから、あなた達なんかに王子は渡しませんから!」

「そ、そんなの、私だって本気なんだから……!」

「あー、喧嘩しないでよ……こんなことなら来なきゃよかった」

「あらまぁ、元気な子たちねぇ」


声は四つ。全て女性の声だ。

キャンキャンと響くその華やかな声に、レオニスは固まった。

(…………ま、まさか)

慌てて駆けだし、一度外に回って、窓の外から部屋の中を盗み見る。

案の定、応接間には美しいドレスで着飾った四人の女性が集まっていた。

そういえば父は「嫁候補を呼んだ」とは言っていたが、それが一人だけとは言っていなかった。候補、というくらいなら、人数は多い方が良いとでも考えたらしい。

それぞれ系統の違う容姿をした美女が四人、何やら言い争いをしている。……厳密には言い争いをしているのは二人だけで、残り二人は呆れたり笑ったりしているが。

とにかくその女性だけの空間を外から眺めながら、レオニスは顔を輝かせた。


(ゆ、百合だ!!!!!)


百合ではない、というツッコミをする者は残念ながらこの場にはいない。

ただ女性が四人、同じ空間にいるだけだ。

でも重度の百合オタクのレオニスにとって、蝶や花のように美しい女性が同じ空間にいれば、それすなわち百合というトンデモ方程式が成立している。

レオニスは窓の外でしゃがみ込みながら、キャーと声にならない声で叫んで、熱くなる頬を両手で抑えた。

興奮のあまりその瞳はキラキラと輝き、めったにない三次元での百合供給に感動の涙すら滲んでいる。

密かに存在するレオニス王子ファンクラブの人々が見たら幻滅するであろうオタク全開のリアクションだったが、いつまでもこうしているわけにはいかない。

そう思い直したレオニスは、一度深呼吸して気持ちを落ち着けると、改めて応接間の扉の前に駆け戻った。




これまで培ってきた完璧な王子様モードに切り替えてから、ノックと共にそっと扉を開く。

途端に、部屋の中にいた四人の瞳が一斉にレオニスに向いた。

「! レオニス様!」

「は、初めまして! お会いできて光栄です! 私……!」

「皆さん、お待たせしてしまってすみません。どうぞおかけになってください。順番にご挨拶をさせていただいても?」

ニコッと王子様スマイルを浮かべると、先ほどから言い争っていた二人が恥ずかしそうに着席した。

残る二人も相変わらずの呆れ顔と微笑みのまま、応接間の真ん中にある大きなテーブルを囲むように腰を下ろす。


そうして四人の姫、そしてレオニス王子の五人が一つのテーブルを囲んだ。

「ええと、では改めて。今日はわざわざお集まりいただきありがとうございます。私はレオニス・アウーム。このアウーム国の第二王子です」

当たり障りない自己紹介をしながら、レオニスが彼女たちを見回す。

「ひとまずお名前をお聞きしてもいいでしょうか? ……貴女から」


ちょうど目が合った自分の右隣の女性──ピンクのドレスを着た、ブロンドの髪が美しい少女に目を向ける。

彼女は先ほど言い争いをしていたうちの一人だ。

レオニスに見つめられた途端、彼女はピンと背筋を伸ばしながら、緊張した面持ちで話し始めた。

「は、はい! 初めまして、アゼリア国から参りました、リリアーナ・フィーノと申します」

リリアーナの口調は、まるで面接会場に訪れた人のように固く緊張している。

彼女はその晴れた空色の瞳をぐるぐるさせながら、一生懸命に話し始めた。

「えっと、年はレオニス様と同じ二十歳で、趣味はお裁縫で、特技は、えっと……」


「ちょっと、王子は名前を聞いただけなんですけど。勝手にべらべら喋り出さないでくれます?」

リリアーナの言葉を遮るように、彼女の右隣にいる少女が口を開いた。

彼女はここにいる中で最も幼い容姿をしていたが、ツンと澄ました表情がどことなくお姉さんぶっている感じがして……逆に幼さを強調している気がする。

黒と紺色が混ざったような真っ直ぐな髪はボブヘアで、瞳もお揃いの夜空色だ。その瞳をキュッとすがめながら、彼女はリリアーナを睨んだ。

……もちろん、彼女こそが先ほど言い争いをしていたもう一人の人物である。

自分よりも幼い子に睨まれて、リリアーナの瞳が潤む。

また喧嘩が始まってしまいそうな空気を察知して、レオニスは慌てて仲裁に入った。

「ま、まあまあ。それより、貴女のお名前を伺っても?」

「! 失礼しました」

パッと笑顔を浮かべた彼女が、大人びた口調であいさつを始めた。

「私はフィオ・セレス。リト国の第一王女で、今年十四歳になります。今日は王子にお目にかかれるのをとても楽しみにしていました。そうだ、お土産に我が国の……」

「あんたも喋ってんじゃん」

「!」


フィオの言葉を呆れた声で遮ったのは、さらにその右隣、鮮やかなオレンジ色の髪の姫だった。

「な、何ですかっ? 別にこれくらい……!」

「……あれ?」

さっそく顔を赤らめて反論しかけたフィオをよそに、レオニスはオレンジ髪の彼女の、ぱっちりとした瞳が特徴の猫顔を見つめながら声を漏らした。

「もしかして……ヴィーナさん? ギナム国の?」

「あ、覚えててくれました?」

レオニスの言葉にパッと顔を輝かせながら、彼女が人懐っこく微笑んだ。その拍子に、彼女の高い位置で結んだ長いポニーテールがきゅるんと揺れる。

「そうです、ヴィーナ・クラリスです。小さい頃……六、七歳だったかな? 一度だけこの国主催のパーティーでお会いしましたよね。同い年だからって、一緒に遊んだりして」

「ああ、やっぱり! 覚えていますよ。僕より足が速くて、追いかけっこで負けた僕が泣いてしまって……」

「あはは! そうそう。私が困ってたらレオニス様のお兄様が間を取り持ってくれて、最後は三人で一緒にケーキを食べましたよね。あの時は泣かせちゃってごめんなさい」

「はは、懐かしい。こちらこそ、あの時は恥ずかしいところをお見せしてしまって……」

懐かしい記憶に笑い合っていたところで、突き刺さる視線にハッとした。

三人の姫たちが、こちらを見つめている。

じっとりとした視線を送るリリアーナとフィオから逃げるように、レオニスは残るもう一人へと慌てて視線を向けた。


「し、失礼。最後は貴女ですね」

他二人と違ってニコニコしていた彼女はレオニスと目が合うと、さらに微笑みながら小さく首を傾げた。

その拍子にウェーブのかかった艶やかな黒髪が揺れ、襟の開いたドレスの、その白い胸元にさらりと流れ落ちる。

「ええ。私はイリス・ノクターン。デュール国から参りました。年は二十二歳だから……ここでは一番お姉さんかしら?」

おっとりとした口調は、それだけでどこか色気が感じられた。

イリスがふふ、と笑いながら、零れた髪の毛を耳にかける。

「よろしくね」

そのうっとりするようなイリスの美貌に、リリアーナとヴィーナがぽっと頬を染める。

そんな二人の様子を目敏く見つけたレオニスが、目の前で発生した百合展開にぽっと頬を染める。

唯一フィオだけは、背伸びをした大人っぽさとは違う『本物』を見せつけられた心地で、ぐぬぬと小さく唸っていた。


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