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エルミーネは実は後悔していた、ヘンダーソン辺境伯領が本当に辺境である事がわかったからだ。

広い平原に深い森しかない、エルミーネは嫁ぐ事が前提の娘なので遠距離にあるボグラム侯爵領に行った事がなく、ほぼ王都以外を知らなかった。


人づてに聞く田舎暮らしに憧れる気持ちもあり、何より婚約破棄したガストンを見返す為にこの縁談を望んだのだ、泣き言は言いたくないが、ため息は出てしまう。


瀟洒なカフェで、流行のドレスを見せびらかしながら、繊細な飾りつけをされたお菓子と、厳選された茶葉で優雅に時間を楽しむ、そんな場所は広い辺境伯領のどこにもない。

もっとも甘味は十分にあった、何しろへンダーソン伯爵家は養蜂が重要な家業で蜂蜜はふんだんに食べれた。

高級な茶葉は手に入れづらかったが、香りのいい新鮮なハーブをブレンドしたお茶は香りがよく、その上薬効のある物も多く楽しめる。

何より辺境には珍しい中央からの花嫁なので、伯爵家の人々は気を使って優しくしてくれるがそれがかえって居心地の悪さにつながっていた。


「エルミーネさんは、やはりこのお茶はお口に合わなかったかしら、ありきたりの茶葉だったからレモングラスを加えて香りを付けたのは雑味が出たかしら、ごめんなさい私の実家ではよく入れていたので貴女にも出してしまって」

姑である伯爵夫人は、嫁の顔色を伺いながら茶会のテーブルについている。

今日は内輪の集まりで、アンドレイの母マリアと、寄子で伯領の中に領地を持つ子爵家に嫁いだ姉アデレード、まだ嫁がぬ妹のエリザベートの4人でテーブルを囲んでいる。

アンドレイの母マリアはへンダーソン家の家臣の娘なので、出自としてはエルミーネよりもかなり下になるので、結婚当初から気を使い、びくびくしてしまうのだ

「お母様ったらまた高級茶葉の節約にハーブを入れたのね、こんな時には贅沢に茶葉を使ってくれたらいいのに、倹約ばかりしていたら王都の人達に笑われるわ」

「そう言っても、軍を動かしたらお金がかかるのよ、この前の戦役はうちの兵たちを動かしたのだから、うちが負担しなければいけないからね、でも節約でしたのではなくてよ、エルミーネさんにこの領を色々知ってもらいたかったから」

マリア伯爵夫人はあわてて言い訳する

「王都のお茶はどんな香りがするのかしら、ミルフィーユというお菓子も食べてみたいわ」

妹のエリザベートは特に王都の話を聞きたがった。


辺境伯領から王都までは馬車で3週間ほどかかる。舗装されていな道もあり、エルミーネの花嫁道中は思ったよりも過酷で、ついてきたメイド達が嫌がって帰りたがり人数が少し減る位だった。

そんなわけで昔から王都との交流も少なく、領地内で社交も結婚もすましてしまい中央貴族との繋がりが薄い。

マグワイア軍の侵攻を契機に互いに連携をとる必要を意識し始め、そんな中でのエルミーネの縁組は中央と辺境伯領の繋がりを深めるいい機会だった。

春に始まる社交シーズンにエルミーネ夫妻が王都に行き、中央貴族と社交をし、辺境伯領の事を知ってもらう。

妹のエリザベートも同行し、エルミーネの実家のボグラム侯爵家に滞在し、翌年に入学する貴族学院の準備をする事になっている。

タウンハウスを持ってないヘンダーソン辺境伯家もこの機会に持つ事になり、その選定もしなければならない。

「あー早く王都に行きたいわ、エルミーネお姉さま、色んなお店に連れて行ってくださいね」

エリザベートは嬉しくてしかたがないのか指折り数えて出発を待っている。

エルミーネ夫妻の住む館と伯爵一家の住む館は馬で駆けて1時間くらいかかるのだが、エリザベートはしょっちゅう馬を走らせ、護衛を置いてきぼりにする勢いでやってきて、エルミーネから王都のドレスの流行やきれいなお菓子の話を聞きにきた。

多少乗馬はできるエルミーネだったが、辺境育ちの妹の乗馬技術には驚いてしまった、貴族学院の騎士科をはるかに超えるものなのだ。


「私が王都で宣伝をするのは、ムンクの毛皮とローヤルゼリーでよろしいかしら」

今回の王都行きにはもう一つ、ヘンダーソン辺境伯領の産物の宣伝もあった。

これはエルミーネの発案で、この地方には王都の貴婦人が喜ぶ品物が以外とあるのを発見したからだ。

毎朝出てくるちょっと酸味の強い蜂蜜が、女王蜂しか食べない特別な物で、美容や薬効に優れていると知って驚いた、新妻の美容と健康の為と食卓に出してくれていたのだ、こんな食品は王都で見たことがなく、女王蜂の食べ物という特殊性に貴族夫人は憧れるだろう、まずは王太子妃に献上してとエルミーネは策を考えている。

ムンクは狸に似た小型の動物でこの地方に生息している、狩ろうとすると強烈な臭いを出すので嫌われ者だが、その毛皮の光沢の美しさは狐をはるかに超える、これも王都ではない商品なので高値で売れるだろう。

財務系の派閥の長であるボグラム侯爵の娘であるエルミーネは、商魂もたくましかったのだ。


「本当にこんなのが珍しいのですね、見慣れているから不思議だわ」

伯爵領から出た事のないマリア夫人は懐疑的だ

「でもこれらが高値で売れる様になったら、王都のドレスやアクセサリーも手にはいり易くなるのよね」

アデレードとエリザベートは期待に胸を膨らませているが

「だめですよ、お金は軍備に使うのですからね」

母は娘達の希望を砕く

「お母様、今回の王都行は国からヘンダーソン辺境伯領への軍事費の援助も交渉するつもりですわ、任せてくださいね」

娘達の瞳がまた輝く

「ところで皆さんに相談があるのですが」

エルミーネは最近夫アンドレイの事で悩んでいた。

一緒にいる時は、彼は優しく接してくれるし、大事にしてくれているのも感じている。

けれども、最近、朝早くから出かけて行き、帰りも遅い。そして身体を使ったのかとても疲れて帰ってくるのだ。

この地方の男性貴族はこんな日常を送っているのだろうか、実家から連れてきた侍女や侍従にはわからないらしい。

この話を聞いて伯爵家の親子3人ははっとして顔を見合わすと

「だめだわ、これは内緒とお兄様に言われてますの」

「驚かせたいのですよ、安心してくださいね」

「今度の王都行でわかりますわ」

そう笑顔で言われてしまった。


そして、王都出発の日、嫁いで来た時の王都への道が、きれいに舗装されているのを見て、夫の愛情の深さをエルミーネは知ったのだった。


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