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ヨハン マルティンは子爵家の息子だが、貴族学院には通っていない。

マルティン子爵家は北部の小さな豪族で、北部僻地に領地があるだけで王都にタウンハウスなど持っていない、長男だけは寮に入って貴族学院にやったが次男三男は領地経営の手伝いをするくらいの仕事しかないので、安い家庭教師と独学で学んだ。

正統派の教育を受けなかったからか、ヨハンの発想は貴族の常識を外れていた。

ヨハンが名を挙げた湿地帯の干拓は、北部に流れるアルべ川の護岸工事がきっかけだった。

マルティン子爵家の領地内の工事で国から派遣された行政官が主になり、ヨハンが現地の実務を行うのだが、蛇行する川の流れを補強するだけの工事を運河を掘って流れを短縮し、蛇行部分を耕地にするという案をヨハンは提案した。

行政官には破天荒な計画に思えたがヨハンは工事に係る金額、工事に携わる人数、工期を具体的に計算して示し、出来上がる耕地からの収穫量も概算した。

行政官は公明正大な人物だった、この計画を王都に掛け合い了承させると、ヨハンと共に工事に取り掛かり、見事に成功させた時にはこの人物を僻地に燻ぶらせるのはもったいないと王都に推薦した。

この行政官がバーナード公爵の派閥であったので、ヨハンは王太子宮の文官になったのだ。


北部訛りを隠そうともせず、始終にこやかな笑顔で誰とでも付き合おうとするヨハンの態度にアンリはイラついた。

たかが一度の偶然の様な成功で中央で大きな顔をする田舎者、ヨハンはもちろんアンリにも他の人と変わらずに接したが、明らかに不機嫌なアンリにへりくだって接する事はしなかった。


今まで金も地位もない辺境で、出来る範囲のアイデアで領地の発展に尽くしてきたが、(このおかげでマルティン子爵領は豊かな領地になっていた)中央に来ればもっと大きな仕事ができる、思いつくアイデアを王太子宮の中で検討してもらえる、ヨハンの笑顔は消えることはない。

「田舎ではそんな話は通るだろうが、中央では無理だよ」

商人から新しく税金を取る法案はいくつか出され、ヨハンも自分の考えを述べると、すぐさまアンリは否定した

「店の広さで税を決めるより利益を報告させて税を決める方が公平やと思いますけど」

「商人に報告など、嘘をつくに決まっている」

「ですからこの複式帳簿でやるんですやん」

新しい複式簿記を使って商人の利益をわかりやすくしようとするヨハンに、アンリはそんなまどろこしいやり方より店の広さという簡単な方法で徴税すればいいんだと言い張る。

宰相の息子の権威でヨハンを言い負かせた姿を、ラミレスは会議のお茶を配りながら見ていた。

アンリの強い物言いは元婚約者を意識したものかもしれない。


ラミレスはその後肩を落として書類を抱えるヨハンに声をかけた。

さっきの税制の話でヨハンの案が貴族が持つ商売に関する法律に引っかかる事を教えたかったのだ、ここを修正しないと財務大臣に法案を持っていったらきっと指摘されるはずだ

「なるほど、俺は不勉強でしたわ、貴族が関わるとこの法律に反してしもて、えらい目にあうとこでしたわ、おおきに」

聞きなれない北部訛りについ吹き出しそうになりながらラミレスは説明した

「すんまへん侍女さんがこんなに法律に詳しいとは思いまへんでしたわ、やっぱり都会はちがいますな」ヨハンは目をキラキラさせながら褒めてくる

「私は父が法律に詳しいので、ちょっと特別なんです、偉そうな事を言って女らしくないですよね」

少し引き気味なラミレスに、ヨハンはぐっと近寄ると

「俺は他にも政策案があるんですけど思いつきみたいなもんで、法律にどう引っかかるか分かりまへんね、良かったらいっぺんみてもらえまへんか」

ヨハンは上着の中から使い古された手帳を取り出した。


実はラミレスはアンリとの婚約が終わってしまったとは考えてなかった。父のクシュナ伯爵もアンリのミランダへの関心も愛妾という地位になった事で冷静になり、将来の事を考えてラミレスへの冷たい考えも改まるだろう、アンリが反省して復縁を求めてくれば再考の余地があると娘にも言っていた。

ラミレスも昔のアンリに戻ってくれればと考える事もあった、だからアンリのいる政策案の会議に顔を出していたのだが、訛りのきつい、いつも笑顔のヨハンがアンリに目の敵にされているのを見て、なんとなく味方したくなったのはアンリと関わりたいという少しひねくれた女心だったかもしれない。


しかし、ヨハンの手帳の中のアイデアを知って、ラミレスは今まで知らなかった政策という世界の面白さを知った。

そしてそこに自分の法律の知識が役立つ事を知った。

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