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南部の大貴族フェラーラ伯爵家は特殊な貴族だ。領地はほぼ持たず、大商船団と大軍船団を持つ海の貴族なのだ。

元々海を臨む南部には痩せた土地が広がり農耕に不向きな事もあり、船を操り貿易で稼ぐ者が多かった。アンリが失敗した商業都市も南部にあるのもこの海外貿易の産物だ。

セレウコス王国の布、木工品、鉄器、陶器、それらを積み込み南の大陸の国々に売りに行き、南の大陸の小麦、木材、大理石などを買い付ける、セレウコス王国のある北の大陸のほうが技術があり、原材料は南の大陸の方が安い、そうやって貿易が成り立っていたのだが、真面目に小麦を作ったり、木を伐り出したりという労働よりもよりたやすく金を得たい者もいる。

二つの大陸を隔てるのは海だがそれ程離れてはおらず、波が荒いわけでもない、小舟を使っても1週間ほどで行き来ができる、南の大陸から小舟を使って海賊行為をするのは簡単だった。

海賊船はセレウコス王国の船を狙ってくる、その対抗措置が軍船だった。騎士団直轄の海軍は小規模ながらあったが、南の海を守っていたのはフェラーラ伯爵の軍船団だった。



お茶会は王太子宮の庭園で行われた。

最近体調が思わしくないセレスティーナは身体を締め付けるドレスではなくふわりとした白いレースの多いドレスを着てもてなした。

白の庭と名付けられたこの一角は年中白く咲く花が次々と植えられており、庭が白いが故にドレスの色が映えて、特に令嬢達のおしゃれを引き立てた。

マンデラ侯爵令嬢カトリーヌは16歳で社交界デビューしたばかり、王太子妃のお茶会という大舞台で緊張は隠せないが、薄い黄色のドレスとマンデラ侯爵家特有の赤い髪が白い庭では良く似合っていた。


「ご令息の事では色々とお悩みでしょう、身代金交渉でもお役に立てればと殿下とも話しておりますのよ」

セレスティーナは憂わし気にマンデラ侯爵に話し、フェラーラ伯爵も自軍の軍船で役立てればと言葉を添える、しかしマンデラ侯爵は苦い顔を隠す事ができずに

「いえこれ以上我が家の恥をさらすわけにはいきませぬ、とにかく身代金を払って愚息を取り返すのお最優先にいたします、ご厚情は感謝いたしますが、これしきの事代々騎士団長を拝命いたす我家の沽券にかかわりますので」とかたくなな態度だ

「しかしあの金額は異常ですよ、我々は海賊との身代金交渉には慣れていますが、あまりに法外だと時間がかかりすぎますのでお互い落としどころはつかんでおります。騎士団長マンデラ侯爵の跡継ぎと今までにない大物を捕まえたと調子に乗っておるのでしょう、金額に不服を言い、じらして時間を稼ぐのも良い策と思いますが」

フェラーラ伯爵は海の上にいる事が多いせいか、貴族らしくない大声で活舌良くしゃべる。

「なに、人質になるなど、南の海ではよくある事、うちの愚息も1年ほど奴らの船を漕がされておりましたわ」

そう言って隣に座る息子の肩をポンと叩くと、セレスティーナもマンデラ侯爵親子も流石にびっくりした。

肩を叩かれた青年は涼やかに笑っていた。

青年はフェラーラ伯爵の三男ジュリアン20歳、薄い茶色の髪で目は水色、筋肉質だがほっそりとして華奢に見える。

跡継ぎの長男は軍船を指揮し次男は商船団を率いている、ジュリアンは長兄の指揮下での海賊退治に17歳から加わっていたが、運悪く捕虜になってしまった。

彼はまだ若かったので、身分を隠し一兵士として海賊船の魯を漕いだ。

長兄率いる軍船に助け出されこの場にいるという、少しはにかむ様な笑顔でこの出来事を語り

「私を鞭で打っていた海賊を、助けられた時に首を刎ねて海に放り込んだ時は、スッキリとしました、今でも古傷がうずく時はあの首のあほ面を思い出して笑う様にしています」

令嬢カトリーヌは真っ青になり、セレスティーナ妃は扇で口元を隠しレモン水を所望した。

「これは平和な王都の方々には血なまぐさい話でしたな」フェラーラ伯爵は彼らしい大声で笑った。



白の庭の西には赤の庭がある、初秋の今はリコリス、千日紅、サルビアが花壇に咲き、夏から咲いている百日紅がまだきれいだ。

カトリーヌとジュリアンはこの庭を楽しんで来いと親達に促された。

「これはお見合いですよね」まだ顔色のすぐれないカトリーヌは呟いた

「兄はもう見捨てられるのでしょうか、マンデラ侯爵家には兄と私しか子はいません」

カトリーヌは意を決した様にジュリアンを見上げた

「軍というのは指揮官がいないと成り立ちません、指揮官が討たれれば、速やかに次の地位の者が指揮を引き継ぐ、空白は部隊の崩壊につながります。騎士団長の御父上は誰よりもその重要さがわかっておられる、身代金を払おうと急がれるのも、この見合いを考えられるのもその為でしょう」

「兄は最近ずっと何かに焦っているようでした、昔から剣が好きで良く稽古をして、誰よりも強い騎士になろうとしていました。同い年位なら抜きんでて強かったと思います。かれども学院の剣術大会でソロン卿あの先ほどのお茶会でセレスティーナ妃の護衛をされていた方です、あの方に負けて以来何か焦る様な顔をするようになりました。父はお前は指揮官になる身なのだから個人の武勇は気にするなと声をかけていたのですが」

「お兄様がお好きなんですね。負ける姿を人の見られたくないのは男として当然ですよ、私だって鎖につながれて鞭で打たれる姿を、特に気になる女性には絶対にみられたくない。」

ジュリアンはカトリーヌの不安そうな顔を涼やかな笑顔で見つめる

「けれどもそれを耐える気持ちがなければ次の強さにつながらない。時々鏡に背中を映すんですよ、強くなりたい気持ちを確認する為に」

「ジュリアン様、私に背中を見せて下さいませんか」

カトリーヌの申し出にジュリアンも従っていたメイド達も驚いた。けれどもジュリアンは上着をとり、ブラウスの肩そでを脱いでその背中をカトリーヌの目にさらした。傷は何か所もあり、肌の色と同化した古傷もあれば、赤い生々しい新しい傷もあった、カトリーヌは赤い傷の一つにそっと手を当てた

「私は兄の帰りを望んでいます、きっと強くなって帰ってきてくれます、それを強いマンデラ侯爵家で待ちたいのです。」

「この庭は赤い庭と呼ばれる年中赤で彩られるそうです、花の咲かない冬には赤い実で庭を彩るらしい、そして赤い花の咲く春を待つそうです」

ジュリアンはカトリーヌの赤い髪にそっとふれて

「見事な赤い色で、しっかりと目立って兄上が帰ってきやすくなるように、二人で頑張りましょう」

赤い花々に彩られた庭で、若い二人の顔が少し赤らんだ。


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