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王太子の王子はフィリップと名付けられ、すくすと育っていた。

乳母は高位貴族夫人からと、乳を与える為に出産を何度か経験した、健康な平民から選ばれた。

セレスティーナは初めての子育てを熱心にやっていたが、父親のオーガストはまだ赤ん坊の扱いが慣れづ時々顔を見に来る程度、本当の母親のミランダは寝室の秘密を隠す為にもあまり近づかない方がいいと言われ、また子育てよりも、オーガストの寵愛を求めるのに夢中でフィリップ王子には関心が無くなっていった。



オーガストは決して暗愚ではない、学業成績は平均よりも上で、剣や馬術もそれなりにできる、立ち居振る舞いは幼少からの訓練の賜物で王族らしかったし、金髪碧眼の容姿は王子らしく美しかった。

全てが優秀なセレスティーナに比べると物足りなく感じてしまうが、十分及第点な王子と言える。

それに、国王が全ての事を全ての人より優れる必要などないのだ、王の資質とはそんなものではない。

セレスティーナはそれがわかっていたから、オーガストと婚約し親しく交流しながら、自分は彼を支え、補い、共に歩んでいけると思っていた。その為に学業や教養や礼儀作法を学ぶ事が嬉しかった。


しかし、オーガストの方が王の資質に迷いがあったのだ.。

セレスティーナとの交流は最初は楽しかったが、共に何かすれば彼女の方が優れているのがわかってくる、自分よりも多くの知識があり、礼儀を知り、優雅な作法ができる。自分よりも優れていると感じ始めると、セレスティーナを疎ましく思い始めていた。


15歳になり貴族学院に入ると、セレスティーナの優秀さが尚更周りにもわかってくる、苛立ち始めた王太子にあまり礼儀を知らない平民に近い男爵令嬢ミランダの接近は、新鮮で楽しかった。

セレスティーナのはしたないという言葉が嫉妬されている様で心地良く余計にミランダにのめり込んでいった。

側近のアンリとガストンも気安く身を寄せてくるミランダに魅力を感じていた、高位貴族令嬢の婚約者の取り澄ました態度が物足りなかったのだ、また彼女らの不服顔に嫉妬だと優越感を感じるのも王太子と同じだった。

しかし、王太子の側近の中で伯爵令息カールだけはミランダに魅力を感じなかった。

商会を経営するカールにとって平民との交わりはよくあるのでミランダの様に身を寄せて気を引こうとする娘には慣れていたのだ。

だからカールは婚約者のマーガレット・フォンブルク侯爵令嬢を尊重し蔑ろにする事はなかった。

「格上の侯爵家だから大変だな」

アンリやガストンからは揶揄する様に言われたが、カールにとって閨閥という高位貴族にとって大事な事柄を粗末に扱うアンリ達の方が理解できなかった。

アンリやガストンは共に政治軍事の頂点に近かった、それが貴族の貴い仕事で、商売という下賤な仕事をやっているクレイマン伯爵家を常に下に見ているのにカールは不満だった。


セレスティーナはカールからオーガストの娼館遊びの報告を聞いていた。

貴族学院の頃からカールの気持ちは固まっていたのだ

「私の忠誠心はセレウコス王国にありますので」

カールはそう言ってセレスティーナの側に立っていたのだ。


フィリップ王子の体調が急変した、生後半年を過ぎた頃で少し前から乳を飲む量が減り、セレスティーナが執務の間に何度も様子を見に行き心配していたのだが、急に熱を出して小さな身体を苦しそうに悶え、明け方にあっけなく亡くなった。

一晩中王子に付き添っていたセレスティーナは、王子の亡骸を抱きしめ淑女の振る舞いとはかけ離れた姿で泣き崩れた。

「私のせいよ、私が悪いのよ」

亡骸を離さずそう呟き続けるセレスティーナに周りの侍女達は

「赤子が無事に大きくなるのはたとえ王子や王女でも難しいのです、大人には風邪は命に関わりませんが、こんな小さな身体には熱に耐えられなかったのでしょう」

「あの夜に王太子殿下がお酒を召されてフィリップ様のお顔を見に来られなければ、お風邪をうつされる事もありませんだのに」残念そうにそう慰めていた。

たとえ王子でも乳児の葬式は小さなものになる、霊廟に運ばれていく小さな行列をセレスティーナはいつまでも見送っていた。



その頃、海賊退治に南部の海軍に派遣されていたガストンが、追い回すはずの海賊に逆に捕まったとの連絡が騎士団長の元に入った。

少数の軍船で航行していたのを数十隻の小型の海賊船に囲まれたのだ。


厄介な事に捕まったガストンは自分はセレウコス王国の騎士団長の息子だと身分を明かして人質としての金銭交渉をしてしまった。

海賊は軍人を捕らえたら全て自分達の海賊船の漕ぎ手として鎖につなぎ鞭を振り下ろしてオールを漕がせる、騎士団長の息子のプライドがそれをしたくないばかりに身分を明かして特別待遇を受けようとしたのだろう。


騎士団長マンデラ侯爵は苦り切った顔を隠せなかった。捕縛という屈辱と法外な身代金に胃がキリキリと痛む毎日だ、身代金の額はマンデラ侯爵領の年収にも匹敵する額なのだ。


そんな騎士団長を慰労する為に王太子妃は茶会に侯爵夫妻と令嬢のカトリーヌを招いた。そしてそこには南部の大貴族フェラーラ伯爵とその令息も招待されていた。



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