⑲
アグネスが自分の出生に疑問を持つかもしれない、それは赤い髪で生まれた時から恐れていた事だった。
赤毛を母の黒髪に似せる様に染めながら、セレスティーナはできるだけアグネスに優しく接する様にしてきた。
末っ子だから余計に可愛がるのだと姉のジュディスが怒る事もあった。
甘やかしすぎると思ったりもしたが、自分が本当に産んだ子供達と会う事が難しかったのもあって、愛情のはけ口になってしまった。
甘やかされてもアグネスは我儘に育つ事はなかった、天真爛漫な姉をいさめたり、侍女やメイドにもきを配れる優しい子だった
「アグネスが貴女にそんな相談をしたの」
「いえ、その様な事を口にされるたりはいたしません、ただ、周囲の赤毛の男性を探そうとなされるのを気づきました、また、学院時代に赤毛の男子生徒がセレスティーナ様の近くにいなかったかと、私になんとなくという風に聞かれる事もありました」
「そんな私は全く気付きませんでした」
ラミレスはジュディスの乳母でもあり、姉妹の教育全般を任される立場にあったのに、アグネスの悩みを知らなかった
「私が気付かなかったのだから、ラミレスが分からなくても当然よ」
「アグネス殿下はセレスティーナ様の前では特に悩んでいるそぶりは見せまいとされていました、私が気づいたのは、「「お父様は別の方を愛しておられるから」」と私を非難する様におっしゃられた時でした、私が愛妾である事はご存じです、オーガスト様とセレスティーナ様の仲が隔たっているのもご存じでした、ですからセレスティーナ様が恋人を持ったとしても仕方ないと考えられたのでしょう」
アグネスは前髪をおろし、耳をロールした髪で隠す髪型を好んでいたのは、生え際を隠そうとしたのかまだ10歳の少女が母の恋を隠そうとして悩んでいるなんてセレスティーナは思いもしなかった。
しかし、なんと皮肉な話だろう、親達の歪な恋の犠牲になって髪を染められている子が、偽りの母の為にその恋を隠そうと努力しているののだ
「私はなんて愚かなのかしら」セレスティーナは呟いた
「策を練り、人々を騙し、そうして問題を解決しているとおごり、それが幼いアグネスを苦しめているなんて、ああ、もう言わせてちょうだい」
セレスティーナは声を震わせた
「ミランダ、私は貴方にあやまりたかった、ずっとっこの胸でしまい込んでいたけどもう無理だわ、フィリップを死なせたのは私よ、私は赤子を殺したのよ」
ミランダの肩がぶるっと震えた
「セレスティーナ様のせいではありません、フィリップ王子殿下は風邪を召されてその熱で身罷られたのです」
ラミレスが言ったが
「病弱によそおう為に鉛中毒にしようとしたのは私の策よ、健康な身分の低い乳母を集めて宮廷に馴染む様にと鉛入りの白粉を使わせて、フィリップ王子が虚弱になる様に仕向けたのよ」
セレスティーナは吐き出す様に話した
「でもお命を奪わぬ様に策を考えられていたではありませんか、虚弱で亡くなられた事にして、公爵家の領地で庶民の子として新しい生活ができる様にと、養子先を準備していたではありませんか、あの風邪さえひかなければ無事に成長し新しい人生を生きれたはずです」
「あの子はこんな鬼の様な私に微笑みかけてくれた、私が近寄ると手を伸ばしてくれた、抱くと身を寄せてくれたは、こんな女を母の様な目で見てくれたのよ、ああ、取り返しがつかない」
セレスティーナの目からは涙があふれ落ちた、貴婦人として完璧だった彼女が流すはずのないものだった
「ごめんなさいミランダ、貴女の大事な子を死なせてしまって、許してとも言わないは、どうか謝罪させて下さい」
セレスティーナは膝を折り頭を下げた
「セレスティーナ様、私を見くびらないで下さいまし、私とて貴族の端くれ貴族としての常識を少しはわきまえております、身分低き男爵の娘の子が最も高みの極みの国王になる事は許されません、たとえ公爵令嬢から生まれたと表面上はされたとしても、その血が脈々と国と共に繋がるのは天を欺く事となります」
ミランダは毅然として答えた
「私はあの子を産んだ時に、男の子だと聞かされた時、ああ、この子は諦めないといけないんだ、と観念しました、ですから、顔もできるだけ見ぬ様、乳もあげぬ様にしました、子を産んだなどない事として過ごす様にしました」
そうだ、ミランダは出産直後から子に関心がないように見えたが、そこまで考えていたのかと、ラミレスは思った。
ミランダは軽薄で男になびく事しか考えていない、学生の頃は嫉妬もあってそう短絡的に思い込んでいたが、彼女も思慮深く考えていたのだ。
「フィリップ王子は幼くして風邪で身罷られた、王統は第2王子アーサーと公爵令嬢マリアーナの子に引き継がれる、これが、この国にとっての正解でございます」ミランダははっきりと言った。




