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娼婦など使い捨て、若い娘に交代する方が客も喜ぶ。

娼館の考えはこんなものだ、病気になったり、妊娠してしまった娘達には冷酷な処置が待っている。

ファウスティーナはそんな娼婦の常識の中で、病人を看護し、妊娠した娼婦を出産させようと店に掛け合った。


無謀な願いと娼館は無視していたが、上客であるオーガストの口添えもあり、渋々と娼婦の出産を許した。


出産したのはファウスティーナの友人でアリアという名の娘だ。

客とはいえ惚れあった男の子供だったので是非とも産みたい、相手の男は鍛冶屋で身請けの金を作るのに仕事を頑張っていて2,3年あれば夢がかなうはずだった。

ここで子を流す処置をすれば、この先子を成せない身体になる危険もあった。

アリアはカールが多額の寄付をしているストラーダ修道院に身を移し、修道院の下働きとして労働しながら出産の日を待った。

そして元気な男の子を生むと、子の養育は修道院内の孤児院に預け、養育費と身請けの金の為に娼館に戻った。


その例ができてから幾人かの娼婦が出産した。

娼館も戻って仕事を続けてもらう方が得だと気づき始めた。

オーガスト(セレスティーナ)の善政により困窮する民が減ってきた。

つまり苦界に身を落とす不作に苦しむ農家の娘や、不景気のあおりで借金に苦しむ商家の娘達が減ったのだ。

商品は減ったが、景気のいい街に仕事を求めてやってくる若い男達は増えている。

経産婦という傷物でも需要はあった。

それは場末の小さな店も試みだったが、成功例として他の娼館もストラーダ修道院に身籠った娼婦を預ける様になった。


カールは淡々とオーガストが下町の娼館で何をやっていたのかを話した。

そこには政治を放り出して、怠惰な喜びに浸っている男ではなく、セレウコス王国の底辺にいる人々に手を差し伸べ、知恵と工夫でより良い人生を送る様に手助けする優しい為政者の姿だった。

官の力をあえて使わず、大富豪クレイマン伯爵家と、ストラーダ修道院の慈善事業として、娼婦たちを助ける事は、官を使い税金を使うよりも国民には受け入れやすい。

堅気の女は水商売の女を敵として見ている、そこに税金を使えば不満を持つだろう。


セレスティーナはオーガストを政治から遠ざけていたつもりだったので、この様な細やかな配慮をした政策を行っていたのに驚いた。


オーガストはいつ頃からか変わっていた。

怠惰な顔つきから、穏やかで少し冷めた表情になっていた。

側近の友人達がいなくなり、愛していたと思っていた少女が疎ましい女に変わり、享楽に溺れ、そんな中でファウスティーナに出会い変わったのか、彼女の身を落としたとしても美しく生きようとする矜持を知って己の生き方を変えたのかもしれない。


「あの時私は商用で王都から離れていました」

カールは苦い表情でオーガストの最後を語った。

オーガストは一人で娼館に行きファウスティーナが具合が悪くて休んでいると聞き、彼女を見舞に行った。

仲間たちが病気になるとその世話をするファウスティーナだったが、自分の体調不良には人を頼らず寝れば治ると一人ベッドに引き込もるのが常だった。


しかし彼女の病は天然痘という死の伝染病だった。

おそらく、地方からやってきた旅人からうつされたのだろう、高熱でぼんやりとした目と特有の発疹でオーガストは厳しい事態に気づいたのだろう。

なぜここでオーガストがこの部屋に残ったのか、その理由はもうわからない、オーガストはファウスティーナの部屋に残り扉を閉めたままで食事を運びドアの外に置いていくように指示すると、部屋から一歩も出なかった。

オーガストの正体を知らない店の人々は、仲の良い二人が病を理由に楽しんでいるのかと深く考えなかった。

食事に手が付けられていない、部屋の中からの声が弱々しい、ちょうどその時にカールが帰ってきて、瀕死の国王と亡くなった娼婦を見つけたのだ。



オーガストの死因は事故となった。

賢王は時々お忍びで王都の下町を視察していた。

運悪く建築中の建物が崩れ下敷きになってしまった。

顔の傷も惨かったので遺体は包帯に包まれたが額と右目は隠されず、別れを告げる人々に王の死を確かめさせる事ができた。

中枢の人間以外にはオーガストは立派な王だった。王者らしい品のいい立ち居振る舞い、打ちだす政策の適格さ、身分の低いミランダを愛妾とするのも、低い身分の者へのいたわりだと、好意的に思われていた。

国中が死を悼み皆泣いた。


あわただしい葬儀が終わり、少しセレスティーナにも落ち着いた時間ができた時に、ミランダから奏上したき儀ありと告げられた。

ミランダは今も王妃付きの侍女という立場に変わりはなかったが、最初からオーガストの愛妾であると公然とされていたので、侍女としての仕事はしない。

よってセレスティーナの前に現れる事はほとんどなく、お互いがはっきりと顔を合わせるのは数年ぶりだった。喪に服す意味か深い灰色の地味なドレスに、ほとんどアクササリーを付けず、落ち着いた化粧をした昔よりも少し太ったミランダを見て、オーガストが変わったように、ミランダも変わったのだと、セレスティーナは思った。



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