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セレスティーナはユリウスに打ち明けた、ミランダへの嫉妬、オーガストへの未練、侯爵令嬢セレスティーナが人前で口にしてはいけない言葉、それは重苦しい告白だった。

そして聞くほどに、ユリウスにも怒りの感情がつのっていった。

政略の婚約だとしても、これではあまりに一方的に傷つけられいるのだ。

王太子はこんなにも愚かな振る舞いをするのか、ユリウスも学院内で王太子のグループが赤毛の少女と親し気にしているのを見たことがある、それがこんなに残酷なものとは思ってもいなかった

「こんな愚痴に付き合わせてごめんなさいね」

恥ずかしそうに笑った彼女は、少し元気になっていた

「大丈夫ですよ、セレスティーナ様の愚痴を聞かされたなんて、人に話ても誰も信じてくれませんよ

」紫色の優しい瞳を、面白そうに輝かせて、ユリウスは冗談めかした。


身分差のある二人の出会いは、もう二度とないだろう。

けれども、この思い出はセレスティーナにとって、重苦しい日常のたった一つの優しい思い出だった。

この後の出会いがなければ、いつまでも胸に秘めた思いでとして、心に残るものになっただけだろう。


その数週間後、事態が好転しないセレスティーナは、緊張が続く学院の中で逃げ場を探していた。

一人になりたい、どこかで泣きたい。

たどり着いたのは図書館の自習室の奥、個室になるスペースを見つけ、そこに座って、留めていた泣き声を洩らした時、木の壁の向こうから

「ユリウスです、そちらにおられるのはもしかして」

その懐かしい声を聞いた時、またしてもセレスティーナは泣きじゃくってしまった。

ユリウスがいたのは写本スペースの奥だった。

ユリウスのような低位貴族は、図書館で本を借りるのに保証料として金を払う必要があった。

それを節約しようとすれば、写本するしかない、それが偶然の再会になったのだ。

セレスティーナはユリウスに話しを聞いてもらい、今度は次にここに来る日時を決めた。

そして3度目の出会いから、セレスティーナは話題を変えた。

辛い事や、いやな事をユリウスと話したくなかった。

一昨日の夜の月がきれいだった、庭師が小さな苗から初めての薔薇を咲かせた、少ない信頼できる友人のラミレスと愚痴のお茶会をひらいた。

少しの幸せを、彼と分かち合いたかった。

ユリウスは自分の夢を語る様になった。

元々彼の両親が無理をしても3男の息子を貴族学院にやったのは、田舎には惜しい剣の技量があったので、できれば王都の近衛騎士団に入れないかと将来を考えたからだった。

剣を認められて近衛に入る事が目標だった。

そして、成績優秀者は近衛の中でもエリートの王宮での士官ができると知り、その高い目標に向かうと、セレスティーナに話した。

王宮内の近衛騎士は高位貴族がほとんどで、ユリウスには狭き門だ。

けれどもこの3年間で誰にも剣で負けなければ、高位貴族と同等の立ち居振る舞いを見に着ければ、座学でも成績を残せれば、努力を惜しまなければ成し遂げられると、それが彼の目標だと語った

「学院武闘会は私も見に行けるわ、勝ち続けてくれれば、それだけ長くユリウスを見ていられるの、負けないでね」

その言葉が勇気の源、上級生だろうと、高位貴族だろうと、ユリウスは勝ち続けた。

騎士団長の息子ガストンにも、先々の出世を考えれば手加減が必要なのかもしれないが、ユリウスは勝つ事を選択した。


3年間、壁越しでしか話せず、ユリウスがセレスティーナの姿を見れるのは、学院内で移動している時の稀な瞬間だけ、セレスティーナがユリウスを見れるのは武闘会などの催しの時だけ、図書館での会話も、時間管理が厳しい侯爵令嬢セレスティーナには短い時間しかなかった。

けれども二人はこれが恋だと、叶う事のない恋だとしっかりと自覚していた。

セレスティーナが王太子オーガストと結婚するのは覆せない、たとえミランダとの結婚を望み婚約破棄になったとしても、侯爵令嬢セレスティーナには、次の政略結婚が待っているだろう。

結ばれることはなくとも、少しでも姿が見れる位置にいたい、お互いの存在を確認しあって日々を過ごしたい、その為の近衛入団が叶えられると学院の教師から教えられて、二人は安堵していた。

けれども、卒業まであと1か月、進路が確定されるその時に、ユリウスの配置が近衛騎士団から、辺境騎士団になったと通達があった。

騎士団長の息子ガストンの差し金だと、用意に察せられた。


その知らせで気力を失ったのはセレスティーナの方だった。

だめだ、彼のいない王都で愛のない結婚をし、憎い男の子を生まされ、責務ばかりの日々を過ごす、とても耐えることはできない

「貴女をさらって西のマグワイア国に行くことも、東部の向こうの小国のどこかに行くことも、私にはできます。この腕を使えば、軍のある所なら、必ず頭角を現せる自信があります、貴女の為ならどんな罪でもおかせます」

壁の向こうのユリウスの声は冷静だった。

その時だった、セレスティーナ付のメイドが走り寄ってきて

「王太子殿下からの至急の呼び出しです、お嬢様お越しください」

焦った声で自習室の奥にやってきた、こんな時にと思ったが

「少しだけ待っていてね、すぐに済ませるわ」

セレスティーナは急いで王太子オーガストのいる王族専用のサロンに向かった。

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