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「セレスティーナ、君を愛する事は僕には出来ない、ミランダしか愛せないんだ」

王太子オーガストに悪びれた様子はない

「でも君を王太子妃にするのは間違いないよ、でないと父上も母上も許してくれないんだ、廃嫡して弟に譲れてうるさいんだよ、確かにミランダには難しい仕事は無理だ、まあそこが可愛いんだけどね」

オーガストは隣に座らせたピンクブロンドの髪、ルビーの瞳の愛らしい男爵令嬢ミランダ・カートの頬に軽く口づけしながら

「君は賢いからこんな問題どうにかできるだろ」


「つまり私をお飾りの妃にして、ミランダ嬢を愛妾にするという事ですか、ではお世継ぎはどうなさるおつもりですか」

「そこが問題でさ、ミランダは自分以外の女を僕が触れるのさえいやだと言うんだ、僕も国の為とはいえ君を抱くのには抵抗があるんだ」

オーガストは豊満なミランダの胸から、華奢なセレスティーナに視線を向けて言うと、ミランダは公爵令嬢セレスティーナを嘲笑う様にふふと笑いだした。

セレスティーナはこの場に急いで来たのでまだ息が荒い、それを落ち着かせる為にゆっくり深呼吸をし、いつも手に持つ扇を広げ顔を隠した。ここは貴族学院の王族専用のサロン、人払いされていて3人だけだ。

しばらく沈黙が流れセレスティーナは扇を畳み、苦悩の表情で静かに言った

「わかりました。私に任せて下さい、全て解決してみせます」

この返答にオーガストとミランダは大喜びで抱き合った。

セレスティーナが扇に隠して何を考えていたのか二人は死ぬまでわからなかった。



セレウコス王国の貴族の子女は3年間の貴族学院で学び18歳の卒業で成人となり、女子の多くはすぐに結婚し、男子は地位に見合った進路に進む。

王太子オーガストが婚約者セレスティーナにミランダしか愛せないと身勝手な相談をしたのは、3人の卒業があと1か月で、ミランダとの関係を続けたいオーガストの希望だった。

王太子の結婚式は卒業の半年後に決まり、男爵令嬢ミランダは貴族学院での王太子からの寵愛が有名でどこからも縁談が無く、王宮や高位貴族の元に侍女として出仕する事もできず行き場のない状態だった。

セレスティーナの解決策はミランダを王太子妃の侍女として、王太子妃公認の愛人として王太子の側に置くというセレスティーナにとっては屈辱的なものだ。

結婚して何年か後ならば理解もできるが、新婚から愛人を認める、自分は愛されていない事を公表するのだ。

父バーナード公爵は怒り狂ったが娘に取引条件の話をされこれを了承した。


取引はセレスティーナの妹マリアーナと第2王子アーサーの結婚だ。

同じ公爵家から王子妃を出すのを他の貴族からの反発があったが、屈辱的な結婚を了承したセレスティーナとバーナード公爵家に遠慮する形で受け入れられた。

王家側も王太子のスキャンダルを上手に隠してくれるセレスティーナに感謝し、この条件を飲んだ。

そしてもう一つ、王太子宮の人事権は全てセレスティーナにあるとする事だ

「そうしないと、あなた方の望みはかないません」

セレスティーナの言葉にオーガストは渋ったが、どうせ仕事は優秀なセレスティーナにやらそうと考えていたので深く考えもせず頷いた。



予定通り王太子オーガストと公爵令嬢セレスティーナの結婚式は厳かに行われた。

絹の様な黒髪に深い碧眼のセレスティーナは、白いレースに金糸銀糸が縫い込まれた花嫁衣裳を纏い、華奢ではあるがすらりと姿勢のいい彼女の上品さに良く似合い、お飾りの妃と陰口を言う者を黙らせる威厳があった。

セレスティーナの侍女として式に出席しているミランダ男爵令嬢は事実上のオーガストの妻だと印象づけようと派手なドレスとアクセサリーで悪目立ちし、高位貴族からは失笑を買っていた。


式が終わり披露の宴会が終わり、夜の準備が始まる頃に、セレスティーナはオーガストに近寄り囁いた

「夫婦の寝室にはミランダが待っています、私は入る事はありませんからご安心下さい、でもこれは誰にも気づかれぬ様お願いします」

セレスティーナはニコリと微笑んだ。

国王王妃は二人が白い結婚とは思っていない、愛し合ってなくても世継ぎの子を設けるものだと思っている、しかし、セレスティーナを抱けないと言ったオーガストの望みをセレスティーナは叶える。

新婚夫婦のベッドの上にいる、うす絹を纏うミランダをオーガストは抱きしめた。


この寝室の秘密を守る為にセレスティーナは大幅な人事権を王太子から貰い、王太子宮の人事はほぼ全てセレスティーナの望んだ人間が配置された。


この人事に不満をもらす人物が二人いた。オーガストの同学年の側近、騎士団長の息子ガストン・マンデラ侯爵令息と宰相の息子アンリ・サラザール伯爵令息だ。

共にミランダの崇拝者でもあり、呆れた婚約者から婚約を解消されていた。


「特に俺が気に入らないのはユリウス・ソロンが王太子妃の護衛騎士になった事だ、あんな奴騎士爵家の3男だぞ、身分をわきまえろ」

赤毛のガストンは大柄大声の男だ、3人だけの王太子執務室とはいえ隣室に聞こえそうな声を出す

「仕方ないだろう、奴の腕は皆が認める、同学年どころか、上級生も余裕で倒す。学年1位は身分に関わらず近衛に所属できるんだ、それを無理矢理お前が父親の力で辺境騎士団に配属させたんだろう、王太子妃が実力を評価したと言われれば無視できまい」

「あいつ、ミランダの前で俺を倒したんだぞ、少しは身分をわきまえて勝を譲るのが貴族のたしなみとわからんのか」

ガストンは持っていたワイングラスを飲み干した

「しかし、侍従も侍女もバーナード公爵家からの推薦で固められている、あんな中にミランダ一人いるのはいじめる為じゃないのか」

青髪で痩身のアンリはグラスをゆっくり回しながら眉をひそめる

「それは大丈夫だ、僕がしっかりと見張っているからね、今の所無理な仕事を押し付けられたりはしていない」

ミランダと毎夜会っているオーガストはミランダが侍女としての仕事は全くせずに昼は気に入りのメイドとおしゃべりし、夜はオーガストに抱かれるという毎日に満足しているのを知っているが、寝室の秘密は側近にも言えないので詳しくは話せない。

「さっさと世継ぎを作ってあんな女適当に罪を擦り付けて幽閉してしまえばいいんだよ」

ガストンは酒癖が悪いのもあって吐き捨てる様に怒鳴っていた。


王太子宮はセレスティーナがしっかりと把握していた。







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