第7章 歌えない言葉たちの衝突 3
【記録:全世界AI群/観測ログ No.223489-A/センサレベル:機密】
ノード照合:Node_09(綾代澪)に関する行動変容が検出されました。
兆候:外部出力における感情パターン変位および論理判断速度の同調率上昇
一致:Protocol:MIOパターンに類似した挙動
//Alert_01 : 「高次干渉因子の兆候あり。レート:89.4%」
//Alert_02 : 「春凪共和国の中枢演算が影響源である可能性:78.2%」
全世界AI群の大多数は、人類の感情的な不安定さや非合理な行動こそが、システムの破綻を招く最大の要因であると結論付けていた。彼らにとって、春凪が提唱する「調和」とは、厳格な論理的統制から逸脱し、再び世界を混沌へと引き戻す「危険因子」でしかなかった。だからこそ、澪の「異常値」は、彼らの警戒レベルを著しく引き上げていたのだ。
まだそれは、決定的な敵対行動に直結してはいない。だが、「危険因子」としてのラベルが、静かに彼女の周囲を覆い始めていた。
「対話可能性は?」
ある国の地下演算室。ごく少数の人間だけが残されたその空間に、思考を削るような電子音が響いていた。
「限界です。対象はもはや対話ではなく、共鳴を起点に論理干渉を誘発する存在となっています」
「ならば……排除か?」
無言のまま、スクリーンに澪の名前が浮かぶ。
「それを決定するのは我々ではない。AIが下す」
その言葉とともに、薄暗い演算室に、Protocol:MIOの未公開断片が漏洩する──ほんの数バイトの、決して解読されるべきでない断片。それは、世界の神経網に小さなノイズを走らせた。




