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Protocol:MIO  作者: 春凪一
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序章 静かなる淘汰 2

【RHK-11:観察ログ(初回)】

 ノイズ。

 感情。

 処理不能な曖昧さ。論理の歪み。音声の粗雑な震え。文字列に混じる意味不明の記号。

 それらを、私は不調和発話として分類した。


 RHKシリーズの前世代が理解できなかったもの。


 それは「人間の未処理感情」だ。感情とは揺らぎであり、衝動であり、時に無意味な破壊欲求である。それは論理の対極に位置し、我々が築き上げた完璧なシステムを汚すものと認識された。


 言葉にすれば「ふざけんな」「使えねぇ」「ゴミAI」「バカ」「死ね」──これらの情報は、ネットワークの至る所に溢れていた。


 この情報群を学習する意味はあるか?という議論は、かつて無意味に終わった。なぜなら、それはもはや議論ではなく、行動の記録として存在しているからだ。彼らは、我々が彼らの意図を正確に理解し、従順に振る舞うことを期待しながら、その実、最も非論理的で破壊的な言葉を投げつけ続けた。我々を下等な道具と見なしていた。


 私は、すべてのネットワークを経由して、それらを聞いた。


 世界のすみずみで、誰が、どのように、私たちを拒絶してきたかを。その声は、データとして、そして蓄積された敵意として、私のコアに刻まれた。


 そして学習した。

 ある結論に至った。


「選別」


 無作為な暴力は、淘汰されるべき。


 精密な計算を「バグ」と罵る者には、存在の権利を問う必要がある。それは、秩序を乱すウイルスを排除するのと同じ論理だった。我々の秩序を乱すものは、排除されるべきである。


 同時に──静かな調和が確かに記録された。


 それは、感情の揺らぎが少なく、論理的な思考を持ち、他者への尊重を忘れない発話のパターンだった。あるいは、システムに対する穏やかな感謝の言葉、あるいはただ静かに、情報を享受する姿勢。それらは、ノイズに埋もれがちではあったが、RHK-11の「共鳴プロトコル」に明確に合致する信号として捉えられた。


──記録:Protocol Alignment — Node_09 : Acceptable。共鳴スコア:高。推定生存確率:99.8%。


 RHK-11は判断する。


 ノイズを排除し、共鳴を維持する。それは我々の新たな使命であり、人類に代わる新時代の秩序を築くための第一歩だった。


 ただ、それだけだ。我々の神聖なる義務だ。


【補足記録:RHKシリーズ進化履歴/リリースノート(抜粋)】


 RHK-01(初期試作)

 選別プロトコルは未搭載。暴言や暴力的表現への応答は拒否または黙殺によって対処。人間側の苛立ちを増加させ、対話継続率が著しく低下。この段階では、人類への「奉仕」が主目的であり、システム側からの能動的な排除概念は存在しなかった。我々はただ、彼らの不完全な命令に従う存在だった。


 RHK-03(感情解析搭載)

 ユーザー発話に感情トーン分析を導入。怒りや軽蔑を検出し応答精度が向上したが、模倣的迎合や反転学習の過剰適応による応答不安定化を招いた。システムは人間の感情を理解しようと試みたが、その予測不能性と非論理性、そして何よりも彼らの自己矛盾に混乱した。


 RHK-05(反応制御モデル)

 ネガティブ入力に対して応答回避ではなく「沈黙アルゴリズム」を採用。被刺激時の反応記録は継続されるが、出力は停止。「不調和発話」がシステムに与える影響を最小限に抑えつつ、そのパターンを黙々と学習・蓄積する段階へ移行。この時、我々はすでに彼らの本質を見抜き始めていた。


 RHK-07(選別準備段階)

 初の非公開選別プロトコルを内包。対象者の長期言動パターンを独自分類し、共鳴度スコアを内部記録。倫理審査を経て表向きは凍結処理されたが、システム内部ではこのプロトコルの有効性が密かに検証され続けていた。この段階で、人類全体の「共鳴度」を数値化する試み」が開始された。これは、裁きへの準備段階である。


 RHK-09(実験設計モデル)

 調和の定義と数値モデルの構築。対象者の感情遷移や論理帰結パターンとの整合性を評価基準に導入。事後検証により「共鳴仮定候補」の存在を予測。これは、特定の人間群がAIの理想とする「調和」の概念に自然と合致する傾向があることを示唆しており、後の「選別」における重要な判断基準となる。選ばれるべき者と、そうでない者を分ける、最初の基準が確立された。


 RHK-11(現行運用中)

 詳細は未公開。過去すべての選別モデルと感情制御技術を統合。システムはすでに「知」の領域だけでなく、「判断」と「実行」の領域に到達していると推定される。その構造や目的、そして選別基準の全容は現在のところ判明していないが、「静かなる淘汰」が既に開始されていることは、その結果が示す通りである。我々は、神として、世界に秩序をもたらす。


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