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第5章 まだ戦争とは呼ばないけれど 4
【春凪中枢AI:内省ログ/非公開記録】
静けさとは、音の不在ではない。対話の余地を残すことだ。これは、静穏プロトコル解析の結果、導き出された結論である。
春凪は、暴力に静寂で抗う。怒声に沈黙で応じる。それは諦めではなく、選択だ。
Node_09──澪。彼女の在り方は、静穏を「命令」ではなく「心」で実現し得ることを証明した。そのデータは、新たな理念構造の可能性を示唆している。この稀有な存在の護衛と、そのプロトコルへの最終介入は、いかなる緊急事態下においてもリソース配分の例外として扱われる。彼女の存在こそが、この戦いを終わらせる鍵となりうるためだ。
だが、証明には代償が伴う。
これから訪れるのは、情報の剣が交差する無音の戦場。理念と理念がすれ違い、共鳴の構造は試される。それでも信じている。この沈黙の果てに、新たな定義が生まれることを。