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我が手は血に濡れつつ  作者: 尚文産商堂


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3/4

第3話

入社してからはや2か月、5月も終わりもうすぐ梅雨の話も聞かれるようになるころ。

ずっと一緒に教育係の南さんに付きっ切りでついて行き、どうにか仕事も一通り覚えていた。


「仕事には慣れたか?」

社用車を運転している俺に南さんが話しかけてくる。

手野ラジオが、楽しげな音楽を聞かせてくれるものの、外は薄暗い雲に囲まれている。

さすがに国道1号バイパスを通っているだけあって、車も多く、なかなか前に進めない。

「そうですね、おかげさまで。ずいぶんと分かるようになってきました」

俺は正直に答える。

車は少し進んでは止まり、また少し進んでは止まりを繰り返す。

オートマチック車なのがせめてもの救いだ。

「なら、安心だな」

何が安心なのかはわからないが、南さんが俺に向かってつぶやく。

そうだ、と言わんばかりに、南さんは助手席で俺に次の行き先の変更を伝えてくる。

「この先、少し進んだところに道の駅があるんだ。ちょっとそこに寄ってくれないか」

「いいですけど、間に合いますか?」

雨が降る、ということはしばらくはない。

ただ心配なのは、次のアポの時間だ。

社用車の中央、カーナビのところの隅っこに付いている時計をチラッと見る。

今は午前10時20分。

確かに少しぐらいならば時間は間に合うだろう。

「大丈夫だ、次の会社は俺が昔から世話をしているところで、多少なら融通が効く」

「なら、先輩を信用しますからね」

笑いながらも、俺はゆっくりと車の車線を変えていった。


手野市内の国道1号バイパスには特別に手野バイパスという愛称がつけられている。

南は大阪府交野市、北は京都府八幡市だ。

その間、昔はトラックヤードとして、今は休憩施設として道の駅「手野」が置かれている。

ちなみに温泉も入れ、また宿泊施設もあったりするので、夜でも昼でも込み合っている。

「あのあたりにつけようか」

南さんの指示で、店と駐車場の出入り口のところにある、開いている普通乗用車用の駐車場に止める。

「それで、どうかしたんですか。ここに何か用でも?」

「そうだな、これから行くところ、どんな会社か知っているか?」

「たしか、手野グループの手野重工業傘下の、金属加工業の会社、でしたっけ」

小さな会社、と言ってしまえばその通りなのだが、それでも立派な町工場だ。

「その通りだ。で、だ。その会社、社長はいろいろと世話をしていてな、その時に一つ聞いていたんだ」

車はスマートキーで、離れていると自然にカギがかかるようになっている。

ばたんとドアを閉めるやすぐに南さんは駐車場を歩きだし、道の駅の中へと向かっていく。

俺も慌てて車から離れていき、南さんのすぐ左隣を歩く。

「何をですか」

「社長は、甘いものが好きってことだ」

道の駅にはいくつかの建物がある。

温泉マークがついている者にすぐに目が行ってしまうが、今回はそちらではない。

物産館のほうへと、南さんは歩を進めていく。

自動ドアが開き、中からの涼しい風が俺たちをいざなってくれる。

「こっちだ」

果物や現地産の野菜といったものが並んでいるたくさんの棚はほとんど無視して、直接土産物コーナーへ。

「これだよ」

ニヤッと笑いながら手野名物と箱書きされている紙の包装がされた大きな箱を持ち上げた。

手首から中指の先の1.5倍くらいの長さがある、まるでロールケーキの箱だ。

「ロールケーキだよ」

その通りだったようだ。

「手土産の一つも持っていけば、今回の案件は、まあなんとかなるだろう」

南さんがいいながらフルーツたっぷり生クリーム増し増し甘さ激増しロールケーキの箱をそのまま手に持ちレジへと向かった。

甘いもの好きだとは言っていたが、ここまで甘いものなのは、限度っていうものがあるんじゃないか。

そう思っていても、俺は南さんに何も言うことができなかった。

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