我が手は血に濡れつつ

第1話

「主文、被告人を無罪とする……」

さほど緊張はしていない。

どうせこういう結果になることは、分かっていたからだ。

ざわつくこともなく、水を打ったかのように静かな法廷内は、中央で立っていてほぼ表情がない俺と、朗々と判決文を朗読している裁判長だけの空間になっている。

解りきっていたことを、こうも繰り返し言われるのは苦痛だ。

でも、改めて言われるのは、頭の整理にもちょうどいい。

結局のところ、俺は人を殺したが、法によって無罪となった。

それだけの話だ。