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10 『相思相愛』


 最終入場が近くてもエレベーターにはそこそこ人がいた。エレベーターはぐんぐん上昇する。足が床に押し付けられる。耳の奥がずんとなる。桜井さんと増えていく数字を見つめる。


 エレベーターが止まり、天望デッキに出る。下から見上げていた場所に着いたのに、いまいち実感がない。けどそんなあやふやさはデッキの縁へ歩いていくとすべて吹っ飛んだ。


 夜景。星の海。地上の星たち。満天。きらきら。

 ずっと向こうまで。光に包まれていた。


 光の一つ一つが人間だ。そこに人がいる。営みがある。先輩がいる。後輩もいるだろう。


 紡いできた。

 みんなで。歴史を。


「綺麗」

 思わず声にしていた。


 桜井さんも隣で同じように言った。彼女の横顔が淡く照らされていた。


 ここは地上から三五〇メートルの高さだ。それが高いか低いかはわからない。人間と比べたら高いが、山や宇宙と比べたら低いだろうから。


 でも僕には十分だと感じられた。

 上を見ればきりがない。僕の高さはここでいい。

 いや、ここがいいと思う。


 僕は見た。星々よりも綺麗な彼女を。


 言いたい。

 伝えたい。

 この気持ちを。

 もう抑えられない。

 冷静でいられない。


「桜井さん」

「何?」

「好きです」


 言った。


「初めて逢ったときから好きでした。僕と付き合ってください」


 もし振られたら彼女とはもう会えなくなるかもしれない。そうなったらこれが彼女を見る最後の機会になるかもしれない。だから一秒でも長く見ていたかった。それでなくても人はある日突然死ぬ。いなくなると言ってもいい。


 だからせめて残しておきたい。

 記憶の棚に一つでも多く仕舞っておきたい。

 大切な人との温かな思い出を。


 僕の人生が決まる。

 すべてを得るか、すべてを失うか。


「はい」


 桜井さんがうなずいた。


「私でよければ」


 笑顔が、そこにあった。


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