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1  『愛の病』


 人を好きになったら地獄です。


 地獄の底まで地獄です。地獄の果てまで地獄です。抜けられません、絶対に。もがき苦しみ続けます。積み上げてきたものが塵になります。どうしようもありません。好きになったら死と同じです。一度味わったらもう終わりです。好きじゃなかった頃には戻れません。気づいたときにはもう遅く、頭の先まで沼に浸かっています。もがいても上がれません。どころかもがけばもがくほど沈んでいきます。じゃあもがかなければいいかと言えば、そうしたらただ沈んでいくのみです。一度沈んだら助かる方法はありません。しかも何が悪かったのかはわかりません。次から気をつけるということができません。常に一発勝負のデスゲームです。ほんのわずかな差が生死を分けます。あっちでは正解だったことがこっちでは不正解だったなんてよくあることです。ありすぎるほどあることです。そこで人はこう思います。もう人を好きになったりなんてしないと。しかし次の瞬間にはまた人を好きになっています。人間とはそういう生き物です。生きているだけで人は誰かを好きになるのです。人は、人を好きになるようにできているのです。だから地獄が生まれます。人を好きになったら地獄です。地獄の底まで地獄です。地獄の果てまで地獄です。なぜなら人は人を好きになるだけでは満足できず、好きな人に自分を好きになってほしいと思うからです。けれど相手は人間です。自分と同じ、意思を持った一人の人間です。同じ人間は一人もいません。似ているように見えてもどこかが絶対に違っています。だから経験が通用しません。傾向と対策なんて無意味です。その場その場で臨機応変に対応しなければいけません。一度でもハズレの答えを選んだらアウトです。そうしたらもう挽回不可能です。諦めるか、そのまま突き進んで死ぬしかありません。人は冷たいです。人は常に減点法で人を見ています。失敗した者には容赦がありません。ゴミを見るような目を向けます。だから勝ち続けるしかないのです。暗闇の荒野を一歩ずつ地図もなしに進んでいくしかないのです。顔や声がいいわけでもなく金持ちでもない人間が愛されるにはどこかで命を賭けるしかありません。一世一代の大勝負で勝つしかありません。それ以外に方法はありません。人を好きになったら地獄です。地獄の底まで地獄です。地獄の果てまで地獄です。どうかあなたは生き残ってください。散っていった数多の死者たちがあなたのことを見ています。そこには嫉妬も多分にありましょうが、それでもどこかにあなたを応援する気持ちがあるはずです。人は託す生き物です。自分が失敗しても誰かが成功してくれたらそれでいいと思うのです。それが、人が人たる所以です。人が前に進めた理由です。それが地獄という地獄を生き抜いて今を作り上げた私たち人類のあり方です。しかし負けてもいい戦いなんてありません。負けて得るものなんてありません。勝つしかないのです。狂気に近い衝動を飼いならしながら、たとえその先に死しか待っていなくても進み続けるしかないのです。私たちは人を好きになって、そして死ぬために生まれてきたのですから。怖がらないでどうか死んでください。あなたの前には屍しかなく、あなたの後ろにもまた屍しかないのです。地獄にその命を投げ込んでください。それは決して華々しい死などではなく吐いて捨てられるゴミのような死ですが、それでいいのです。死とはそういうものなのです。死のない生など生ではありません。人を好きになったら地獄です。地獄の底まで地獄です。地獄の果てまで地獄です。……


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