上司の恋路 1
王都城下町中央広場・”王国の黒犬”団の屯所にて、
団長執務室で団長のアイザック・クライヴと副団長のウルフリックはそれぞれの机に向けて作業していた。その時、団長のクライヴがウルフリックに声をかけた。
「ウル」
「ダメだ」
「まだ何も言ってないのに!?」
が、副団長は団長の声掛けを一刀両断した。部下が上司に対する態度ではなかったがウルフリックにとって今のクライブを尊重する理由がなかった。なぜなら、
「ねー。ウール―。聞いてよ。ねーねー」
「ああうるせー!どうせまた同じ話をするんだろアンタは!いいから黙って作業しろ!仕事が全然進まねーんだよ!」
「だってぇー…、俺、どうすればいいかホントにわかんないよ…」
団長クライブは本当に悩んでいるように見えた。にもかかわらず、副団長ウルフリックはただうんざりな態度をとっていた。なぜなら、
「この胸のドキドキ!体が燃え尽きるように熱く!ああ!もう貴女を思うだけで苦しい!我が愛しい人よ!」
「ろくに会話もできてねーのにぬかしてんじゃねぇ!アンタの妄想話は聞き飽きてんだよ!頼むから仕事をしろ!」
団長の悩みはただの恋煩いだった。それが一週間以上に続いて団長が処理するはずの書類が進むこともなく、それは副団長の仕事にも影響が出ていた。ウルフリックも限界であった。
「いい加減にしろよ!マジで仕事進めねーとやべーんだよウチは!騎士団の中で立場が弱いのは知ってんだろアンタも!」
「まあまあ。それは大丈夫だろう。今までだって何とかなったし今後もきっとそうだよ。多分」
「無責任か!」
そうやって二人の平行線な口論がずっと続いていた。二人の声はもちろん外まで聞こえていたが”王国の黒犬”にとってそれはただの日常であったため誰も気にかけていた。
そして二人は口喧嘩に疲れて、ウルフリックはとうとうクライヴを煽った。
「大体アンタの言うほどいい女なのか、そいつは?まさか存在自体が妄想じゃないだろうな」
「む。失礼な。流石に妄想彼女とリアルの片思い相手ぐらい判別はできるぞ俺にも!」
「そうかよ。んじゃ今度はその女のありのままを教えてくれよ。じゃないと恋愛相談もままならねーよ」
「その女などさっきから失礼だぞウル。いくらお前でも彼女への無礼は許さんぞ!」
「今のオレにとっちゃ仕事の邪魔をしてる謎の女なんだが」
「そっか。お前はあまり外で食べないんだったな」
「あ?それが何の関係が?」
クライヴの葉もない発言にウルフリックはわからなかった。そしてクライヴはさらに意味の分からないことを言った。
「よし。昼飯に行くぞ」
「そんな余裕があると思ってんのか!」