犬の散歩でドヤれる世界
「しょうがないわね。私の予備を貸してあげるわよ!」
若干ふてくされた顔で懐からヨーヨーを取り出すエンリン。
「すまんな。すぐ返すから」
「そうよっ、さっさと落ちてちゃんとした仕事を探しなさいっ!!」
どうも俺がやる事が気に入らない様だが仕方ない。
「試験を受ける前に適正を見ます」
どうやらこの適正とやらが無いと試験すら受けられないようだ。
「そうなんだ。それで何をやれば……」
「ヨーヨーを下に投げて戻して下さい」
「……へ?それだけ?」
「はい、そうです」
拍子抜けするくらい簡単な課題だ。
だが隣からエンリンが口を出す。
「アンタね……下に投げるだけでも難しいのよ」
「こ、その世界ではそうなの?」
「この世界ってどの世界よ?」
おっと、異世界転生の話はややこしいからパスだ。
とりあえずエンリンに貸してもらったヨーヨーを確認する。
(流石にこれで戦ってるだけあって重いな……)
通常のヨーヨーと比べるとずっしりとした重みがある。
だがこれくらいならさほど影響はないだろう。
「よし、やるか」
簡単に確かめる感じでヨーヨーを下に垂らし地面スレスレで静止させる。
「うん、なるほどね」
手に伝わる感触でおおよその挙動は把握出来た。
そのままヨーヨーを地面に付けるとそのまま前に進んだ。
ウォーク・ザ・ドッグ、つまり犬の散歩だ。
「えっ、ちょっと!!」
エンリンが叫ぶ。
何かおかしな事したか?と思ったが地面がえらい事になっていた。
「おい、うそだろ……」
ヨーヨーが接地していた部分がガリガリ削れて亀裂になってる。
まさかこの世界のヨーヨーはこんな事になるとは思っていなかった。
「ちょっとアンタ!」
「あっ、わりぃ……こんなんなるなんて知らな……」
「何でその技出来るのよっ!!」
どうやら地面が削れた事を怒られたわけではない様だ。
「ん、どゆこと?ただの犬の散歩だけど……」
「何よ犬の散歩って……地烈斬じゃない!!」
は……地烈斬?そんな大層な名前がついてるのかこの技。
「どこでその技覚えたのよ!!」
「いや、こんなの基本中の基本でしょ」
「そんなわけないでしょ!!妖々師でもそれ覚えるのは苦労するんだから!!」
そ、そうなのか……
気付かなかったが周りも俺を見て驚愕している。
どうやらそいつらも地面が削れた事に対する驚きではない様だ。
「すげぇな大将!!やっぱり俺の見込んだ漢だぜ!!」
いや……何か面倒くさい事になってきたな……