⑦ どうしてこう、次々と
ガイは紺色の髪に紫紺の瞳を持つ、背の高い騎士だ。
ゲーム中では若いフレンとミリシャを支えるお兄さんキャラで、進行役を務める大人組の一人。ちなみにもう一人の大人キャラは物語中盤、リシアが死んだあと仲間になる盗賊キャラなので、ガイはそれまでずっと若いメンバーを引っ張るある意味苦労人なキャラだ。
ガイとフレンは、王宮で出会うはず。
王様から、フレン一人では心許ないだろうからと、色々と経験豊富なガイを紹介されるのだ。
普通に考えると、これから瘴気を封印する旅に出るというのだから騎士団の一個隊くらいつけてくれても良いじゃないかと思う。が、一応国民には知らせないお忍びの旅だという理由があったから、現実でもそうなるだろう。
それに、魔獣や魔物は光魔法でないと倒すことが出来ない。それと一緒で、物語が進むにつれて出会うボスレベルの魔族も、光魔法でないとトドメがさせない。それか、光属性の武器を使うかだが、光属性の武器も適性があり、誰でも使えるわけでない。ゲームのパーティーメンバーは皆、光魔法が使えるか、光属性の武器が使えるかだった。つまりリシアにも適性はあるのだが、光属性の武器は簡単に手に入るものではない。
そう思うと、人数ばかりを揃えても、確かに意味はないのかもしれない。
(というか、そうじゃなくて)
フレンはこれから王様に謁見するはずだ。ガイもそこで紹介されるのだから、こんなところにいて良いのだろうか?
間に合うのだろうか。
(わざわざ出会っちゃうあたり、やっぱり何かしらの強制力を感じちゃうなあ…)
ぶつかっただけで、すぐに別れたし、意味のない出会いではあったと思うが、モヤモヤする。さっさと宿にこもってしまいたい。
リシアは急ぎ足で街を歩き、なんとか日が落ちる前に宿に到着した。
用意された宿は恐らく中級の宿で、部屋にお風呂もトイレも付いているし、こじんまりとしていてもとても快適な部屋だった。
ここを試験までただで使わせてもらえるなんて、有難すぎる。
「フレン、ありがとー!」
色々あったが快適な旅をさせてくれたフレンに感謝しつつ、リシアはベッドへとダイブした。
ずっと気を張っていたから、疲れた。一気に眠気が押し寄せてくる。
(ああ、でも、お腹すいたな…)
フレンと別れたのがお昼前。その後、バタバタしていて食事を取りそこねている。つまり朝から何も食べていない。
「…面倒だけど、食材の買い出しに行こう」
宿に宿泊客用の簡易キッチンはあったから、ある程度揃えれば自炊できるはずだ。
試験までまだ日数はあるので、ちゃんと食事をして勉強して備えた方がいい。
リシアはのろのろと体を起こした。
日の落ち始めた王都の街は、昼間と変わらず賑わっている。
むしろ帰宅しようとしている人がいるためか、日中よりも混雑している場所もあるくらいだった。
「何食べようかなあ」
商店街を見つけたので、ブラブラと見て回る。やはりというか、物価が高い。村だったらもっと大きな野菜、これの半額くらいなのに!
なるべく安いものを安いものを、と探し回っている内に、リシアは商店街の端っこまで来てしまった。少し薄暗い路地に囲まれていて、人通りも少ない。
(しまった…戻ろう)
王都の治安は悪くないと聞くけれど、人がたくさんいればトラブルだって起こる。
何かに巻き込まれる前に、中心地へ戻ろう。
「…きゃあっ!!」
「げへへ、お嬢ちゃん、ここまでついてきちまったんだからもう逃げられねぇぜぇ」
「離して!!」
ほら、巻き込まれるじゃないか。私のバカ。
リシアの背後にある暗い路地裏から、若い女性の声と、どう聞いても下衆っぽい男の声が聞こえた。
(…そういう遊び…な、わけないよね…)
これで放っておくのは、人道に反するだろう。
それに巻き込まれたくないのは、ゲームのシナリオだけだ。こういったトラブルは関係ないのだから、リシアが役に立てるなら立つべきだ。
リシアは意を決して、路地裏を覗き込む。
そこには逃げようとする小柄な女性の腕を掴み、路地の更に奥に引きずり込もうとしているガラの悪い男がいた。
「やめて!!誰か、助けてー!」
「うるせえな!黙ってろ!」
女性が助けを求めて叫ぶと、人が来るのを恐れたのか男が女性に向かって手を振り上げる。
「やめなさいよ!!!」
リシアは叫ぶと、水魔法を展開して男の顔めがけて水球を投げつけた。次いで風魔法を展開し、水球を男の顔に付着させたまま留める。
男は陸にいながら溺れたような状態になり、モガモガと苦しそうに暴れ、女性の手を離した。
リシアは女性の手を自分の方へと引っ張り、背後に隠す。
そのタイミングで水球を解除すると、男はゲホゲホと喘いでうずくまった。
「今のうちに逃げるよ!」
「は、はいっ!」
リシアは女性の手を握って、走り出す。
ついでに風魔法で自分の身体を少し浮かせ、早く走れるように強化した。
魔法の効果もあって、リシアと女性はあっという間に商店街へと戻ってきた。
「はあ…はあ…、怪我は無い?」
「は、はいっ!」
「あ、でも、腕に少し痣ができちゃってる。痛かったでしょう?」
「大丈夫です!これくらいならすぐ治せますから」
「え」
明るいところで会話をしながら、女性の顔をはっきりと見る。
(え?なんで?)
それはどう見ても、どこをどう見ても、ヒロインのミリシャだった。
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