⑤ センチメンタル・ジャーニー
カラカラカラ。
見た目豪奢な馬車は中身も豪華で、座席部分にはふかふかのクッションが敷いてあり、田舎の舗装もされていない道を通ってもお尻が痛くない。
「リシア、俺、馬車って初めて乗ったよ!隣町行くときも走るか馬かだったし」
「そうだね、私もそうだ…」
フレンはリシアの隣に腰掛け、ワクワクした様子で外を眺めている。賓客扱いで、初めての王都に向かっているのだ。心が踊るのが普通だろう。
リシアだって、あの田舎から出てこれたのは嬉しい。村のことは好きだけれど、若い身としてはやっぱり退屈なのだ。同じ年頃の者もそこまで多くないし。
でも、リシアは落ち着かない。
リシアの知っている、レジェンドオブフォルテスタの序盤と同じ展開になっていることが、不安を掻き立てる。
(…いや、前提が違うわけだし、大丈夫。私はゲームの中のリシアとは違う。これからどうとでも巻き返せるわ)
そもそも、これは王都に一緒に行くだけで、旅立つフレンを見送ったら、あとはリシアの人生を生きるだけだ。
ここからさらに一緒に旅立つ展開など、そうそうないだろう。
「リシア、そんなに嫌だったか…?俺と王都行くの」
「え」
リシアが一人悶々と考えていると、隣から不安そうに眉を下げたフレンの顔が覗き込んできた。
むかしはやんちゃだったくせに、ここ数年でわんこ属性を得た幼馴染は、しょんぼりとうなだれている。
「俺、やっぱり無理言ったのか…?」
「うっ」
フレンの発言がリシアの良心を抉る。
彼は悪くない。フレンは何も知らないのだから。
「違うよフレン、そんなことない。こんな豪華な馬車で辛い旅もせずに王都に行けるんだから、むしろ私もラッキーよ!」
「でも」
「ちょっとナーバスになってただけ。試験緊張するし、受かったらもうあの村で暮らすこともなくなるわけだし」
「そうか…そうだよな」
別に今生の別れではないが、テナ村は遠い。簡単に帰れる距離ではないから、フレンもリシアも、ここから大人としての生活が始まるのだ。
急に使者が来てバタバタと出てきてしまったけれど、そう思うと少々センチメンタルな気分にもなる。
「…でも、俺が頑張れば、テナ村の皆も守れるってことだもんな」
「そうだね。私も魔術師になったら、色んな人のために働きたい」
「だよな!うん、やっぱり出てきて正解だった。…リシアが一緒にいないのは、まだ慣れそうにないけど」
「フレンっていつからそんなに寂しがり屋になったの?大丈夫よ、フレンは強くなったんだから」
「うーーん」
本当に、どうしてここまで弟属性になってしまったのだろう。
リシアのやったことと言えば、毎日毎日自分の特訓に巻き込んで、彼と血反吐を吐くような修業の日々を送っただけだ。むしろフレンからしたら、面倒くさいことに巻き込んでくる迷惑な存在だっただろうに。
それでも嫌な顔もせず一生懸命努力するのが、フレンの良いところなのだけれど。
そうしてフレンと他愛のない会話をしつつ、途中の村や町で休憩を挟みながらもできるだけ最速のペースで、一行は王都に向かった。途中で猛獣や魔獣に襲われることもあったけれど、リシアとフレンにとっては朝飯前の敵だったので、特に苦戦することもなく。
半月後には、無事に王都に到着した。
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