④ こんな懐かれ方は想定していない
「どうせリシアだって、魔術師になるためにいつかは王都に行くんだろ?まだ村にリシアがいるなら俺も残りたいと思ってたけど、そもそも一緒に行けば良いと思って」
「い、いや、私はほら、試験は来年受けるつもりだったし」
「それは上京資金を貯めるためだろ?俺と一緒に行けば、王都まであの使者さんが連れてってくれるだろうから、費用も浮いて良いんじゃないかな」
「いや、困る」
「なんで?」
リシアは言葉を詰まらせた。
普通に考えれば、フレンの提案はむしろ嬉しいものだろう。彼にくっついていけば、王都までの旅が格段に楽になる。
でも、駄目だ。
一緒に行ったら、ストーリーと流れが同じになってしまう。
それだけは避けなくては!
「と、とにかく、駄目なの!フレンは一人で行って!」
「えー!嫌だよ!寂しいんだよ!リシア一緒に来てくれよ!」
「ヘタレか!」
「ヘタレでも何でもいい!一緒に行こうって!」
埒が明かなくなる気配を感じたリシアは、逃げることにした。
魔法を唱えると風を起こし、それに乗ってフワリと飛ぶ。長い時間滞空できる訳では無いが、ちょっと距離を離すくらいなら最適の魔法で、リシアのお気に入りだ。
「とにかく、使者さんのとこに戻りなさい!ちゃんとお返事して!」
「空に逃げるのは卑怯だぞ、リシア!」
「はっはっは、飛べない自分を恨むんだな!」
悪役のようなセリフを残し、リシアは自宅へとひとっ飛びする。
二階の窓から自室に飛び込み、椅子に腰掛けた。
「よーし、何とかシナリオから外れた!これできっと、大丈夫!」
最後はちょっと強引だったが、きっと大丈夫だろう。さすがのフレンだって、王宮からの使者に幼馴染がいないなら行かないなんて、そんなダダはこねないはず。もう十八歳なんだし。
リシアは気持ちを落ち着けるために参考書を読みながら自室で時間を潰した。少し前まで隣のシャール家が騒がしかったが、もう静かになったので、きっと使者との話もまとまったのだろう。
「リシア?部屋にいるの?」
「どうしたの?母さん」
気を抜いて本を読みふけっていると、窓の外が薄暗くなっていることに気付いた。
もう夕方だ。そろそろ夕食の時間だろうか。
一階から母親の呼ぶ声がしてリシアがリビングへと顔を出すと、まるで大砲のような勢いで何かが飛びついてきた。本日二回目の、使者だった。
「リシア殿!!!」
「ぎゃあっ!!」
またもや肩をがっしり掴まれて、リシアの背中を冷たい汗が滑り落ちる。
嫌な予感がした。
「どうか王都まで、フレン殿と一緒に来てほしい!!」
「なんでよ!!」
もはや敬語も忘れて、リシアは叫ぶ。
使者の背後には戸惑ったような両親がいて、こちらを見ていた。
「リシア、王都に行くの、付き合ってあげたらどうかしら?フレン君が、リシアも一緒がいいって言っているみたいで…」
「母さん、忘れてるかもしれないけど、フレンってもう十八歳なのよ。大人よ大人!なんで旅に出るのに幼馴染同伴じゃないといけないのよ!」
「だがまあ、俺も賛成だよ。一人娘を一人で王都に向かわせるのは心配だったんだ。フレン君たちと一緒なら、心配ないだろう?」
「父さん、それはそうだけど…」
この村から王都までは、列車や馬車を駆使しても一月近くかかってしまう距離だ。
確かに、女ひとりでそんな長い旅に出るのは、親としては心配だろう。
「使者殿の馬車に乗せてもらえれば、ここから王都まで直行で、半月もかからないそうだ。今年の試験の日まで余裕を持って到着できるし、リシアにとってもいいんじゃないか?」
「そうよ。費用だって持ってもらえるって言うから、資金が貯まるのを待つ必要もないわ。一石二鳥よ」
「ううう」
そう言われてしまうと、断る方が不自然だ。
別に旅に出ようと言われているわけではなく、ついでに王都に行こうと言われているだけなのだから、むしろここまで固辞しているリシアのほうがおかしい。
(でも、一緒に行ったら、ゲームと同じ展開じゃない…!)
リシアは視線を彷徨わせて、言い訳を考える。しかし何も思いつかず、時だけが過ぎていく。
そうこうしている間に、両親と使者の間でリシア同伴の話が進んでいき。
結局リシアは、フレンと共に王都まで行くことになってしまった。
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