表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/33

① 思い出しました



リシア・ルヴァ、十三歳。

ここ、大陸フォルテスタにあるレジス王国の端の端、小さな田舎の村に住む、ごく普通の女の子。栗色の髪はこの国ではありふれた色だけれど、真夏の空のような紺碧色の瞳は珍しくて、ちょっと自慢。


そんな、普通の少女だった。つい数日前までは。



先日、幼馴染のフレンが森に狩りに行くと言うので、気は進まないが手伝いのためついていった。こんな田舎では、子供だって食料調達のため働くのが普通だ。


ところがフレンが目をつけた牛兎が、彼の剣をひょいひょい避けて森の奥深くへと逃げた。ムキになったフレンはどんどん森の奥に入り、静止のためリシアも慌てて追いかけた。



そこで、あの魔獣に会った。



魔獣に背中を裂かれ、フレンの光魔法を見た衝撃も相まって、リシアは気を失い、三日ほど魘されたあと、目が覚めた。



そう、知っている。リシアは、フレンが放ったあれが光魔法だと、知っている。



(私…頭がおかしくなったのだろうか)



眠っている間、夢を見た。夢というより、記憶に近い、はっきりしたものだ。



今、リシアを取り巻く周囲の状況は、リシアが知っている、あるゲームのストーリーに、非常に良く似ている。



ゲーム?そんなもの、この国にはない。恐らく、世界中のどこにもない。



リシアは、所謂前世の記憶を、思い出していたのだ。




前世でのリシアは病弱だったのか何なのか、とにかく部屋に籠もってできる娯楽を好んでいた。漫画、映画、アニメ、読書、そしてゲーム。


この世界は、そんな前世のリシアが好んでやり込んだRPG、レジェンドオブフォルテスタと酷似している。

亡くなってしまう前、最後にプレイしたゲームだったのだろうか。前世の自分がどうだったとかはあまり覚えていないのに、何故かこのゲームについての記憶は鮮明だった。



剣と魔法の世界が舞台で、世界の名前はフォルテスタ。国の名前は、レジス王国。

ゲームのストーリーは、田舎の小さな村、テナ村出身の少年フレンが、幼馴染のリシアを助けるため魔獣に挑んだところ、この世界では非常に貴重な、魔のものに対抗できるという光魔法が使えることに気付くところから始まる。

成長した彼は剣の腕を磨き、光魔法を使える者を探していたという国王に呼ばれ、世界の魔獣を生んでいるという瘴気を封じる冒険に出る…という、比較的王道なもの。

仲間との掛け合いが楽しく、最後にフレンはヒロインのミリシャと結ばれるという恋愛展開もある。優しげな世界観でご都合主義な、一見明るいハッピーエンドの王道RPG。でも、リシアは喜べない。


(最悪だ)


なにせこのゲーム、フレンの幼馴染リシアの扱いが、とことん酷いのだ。




まずリシアは、フレンが光魔法に目覚めるためのきっかけになる。

彼のお陰で二人とも助かるのだが、リシアはこの時、背中に大きな傷を負う。

別に貴族のご令嬢というわけではないけれど、リシアだって乙女だ。

一生消えない醜い傷を負い、深く傷つく。



フレンが旅に出る際、リシアは魔法が使えるし、王都を見てみたいからという理由でフレンにくっついて行く。

その後フレンは国から紹介された騎士のガイと、流れでついて行くことになったリシアと共に旅に出る。王都を出てすぐにミリシャ(お察しの通り、回復魔法使い)と出会い、彼女も加えて四人パーティーとなり、冒険が始まる。


プレイヤーは、ああ、ヒロインはミリシャだったのか。それともダブルヒロインかな?と考えるだろう。

作中で、リシアはフレンに惚れているような素振りを見せるから、かませ犬要因としても活躍。

そこまではまぁ、いいとしよう。

最悪なのは、そのあと。



色々ありながらも一行は順調に旅を進める。

が、中盤で出会った魔王の部下、いわゆる中ボスに、リシアは惨殺されるのだ。

この展開は唯一、プレイヤーの度肝を抜いた要素だと思う。



リシアの死は、冒険をどう進めても確定だ。ゲームにマルチエンディング要素はない。

それもそこまでの作品の雰囲気とは程遠い凄惨さで、フレンに化けた敵がリシアに酷い暴言を吐き、ショックを受けたところでジワジワと殺される。その後、仲間たちはなんと、リシアの遺体の一部を見つけて、彼女の死を知るのだ。


ショックを受けた仲間たちは、改めて魔王や魔物たちの非道さを知り、この事件をきっかけに一致団結、全ての元凶である魔王に立ち向かう…まるでリシアの穴を埋めるように、新たな仲間を二人加えて。




…いやいや、勘弁してくれ。

世界観ぶち壊しの死に方すぎる。そこまで徹底する必要ある?

そんな死に方までして、パーティ結束の糧にされてたまるか!!!





仮に、リシアの頭がおかしくなっていて、この記憶も全て妄想だったとする。

では、なぜリシアはレジス王国どころか、フォルテスタの世界地図を思い浮かべることができるのだろうか。

なぜ、遠い西の街や東の村の名前がわかり、なぜ、リシアを襲ったあの魔獣が、グレイウルフだと知っているのだろうか。



ここは小さな、本当に田舎の村だ。そしてリシアは生まれてから、ろくに村の外に出たことがない。極稀に、買い出しなどで必要なときだけ隣町に行くくらいだ。

先ほど見た前世らしき記憶ではテレビとかインターネットとか、リシアがこれまで想像もしていなかった便利なものがあったようだが、この世界には当然そんなものはない。知識を得るには、本や新聞くらいなものだ。

でもリシアの家にそんな本はないし、新聞は村長の家にしか来ず、子供のリシアはほとんど触れたことがない。隣町にある小さな本屋でも、そんな本は見たことがない。

リシアはこの記憶を思い出すまで、世界地図も、国の問題にも、魔獣のことにも詳しくなかった。



リシアはしばらく考えて、父に頼み、村長から世界地図を借りてきてもらった。世界地図と言ってもこの国と隣接するいくつかの国が載っているだけのものだったが、それでも、それはリシアの記憶の通りだった。



世界の名前、国の名前。幼馴染の名前に、自分の名前。そして今まで起こったこと。

全部が全部、妄想だとは、もう言い切れなかった。




一種の予知能力なのだろうか。


そういう能力がこの世にあるというのは聞いたことがある。


けれどそれは純粋にこの先起こる可能性のある未来を見る能力であって、こんな、前世でやったゲームに似てる!なんて聞いたことがない。





「…それに、ゲームと違うこともある」


それは主に、リシア、つまり私の性格だ。



ゲーム内のリシアは、まさに主人公の幼馴染!という感じで、フレンが寝坊したりうっかりしたりするたびに、「もう、フレンったら!」とか言いながらせっせと世話を焼いていた。


でもリシアはそうではない。


いや、世話は結果的に焼いているが、「もう、フレンったら!」なんて言わない。言ったことがない。



リシアの好みはどちらかというと年上のしっかりとした頼りがいのある男性だし、家が近所だというだけで小さいころからフレンとセットみたいな扱いをされて、リシアは正直辟易としていた。


いや、フレンのことは好きだ。友人として。もはや家族のように。でも、それ以上でも以下でもないし、大人になったら別々の道を歩むだろうと思っていた。



だから、もしここが本当にあのレジェンドオブフォルテスタの世界だとしたら、困る。本当に困る。

だって、成人して間もなく死んでしまうことが確定しているのだ。

冗談じゃない。




大体、リシアが何をしたというのだ。


実際のリシアは違うが、ゲームのリシアだってただ、幼い恋心を抱き、好きな人のそばにいたい、役に立ちたいと頑張って、一緒に冒険までして。


それなのにあんな、パーティーが団結するきっかけのためかのように殺されて、一体制作陣はリシアに何の恨みがあるというのか。



ゲームとしてプレイしていたときは、ゲームの絵がアニメ風でそこまでリアルではなかったこともあって、「酷い話だな。リシア可哀想」くらいにしか思っていなかった。

でも、当事者となったら話は違う。

痛いのも苦しいのも嫌だし、死ぬのは怖い。前世だって(恐らく)早逝だったのに、今世も早逝なんて、自分が可哀想過ぎる。今度こそ、長生きしたい。



惚れてもいない幼馴染の能力覚醒のために、あんな死に様晒してたまるか。






こうなったら全力で、最悪の未来、回避してやる!!




読んでいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ