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⑱ お祭り




一行は順調に、旅を続けた。

途中魔獣や魔物、時には盗賊なんかにも遭遇したが、それは概ねリシアの知る展開に似ていたし、皆の実力をもってすれば何の問題もなかった。


ちなみに盗賊は、ゲームではマップ上でよくエンカウントする敵扱いだった。だが、現実で頻繁に会うなど勘弁してほしいし、周囲の町にかなりの被害を出しているようだったので、彼らの拠点ごと潰させてもらった。

拠点にいた盗賊の殆どを自警団に突き出したので、被害はだいぶ減るだろう。




「わぁ、皆見て下さい!これ、お祭りですよね?!」

「おっ!ほんとだ!賑やかだな!」

「あぁ、ここは花の町クルトだな。この時期ここでは豊饒祭をやると聞いたことがある。ちょうど時期だったようだな」


一行が到着した街ではお祭りが開催されていたようで、町中に花の装飾が施されている。どこからか陽気な音楽が聞こえ、広場の方からは美味しそうな良い匂いと人々の笑い声が聞こえる。風魔法の仕掛けでもあるのか、時折花びらが町中を舞った。



「きれい…!」

「リシアも興味あるか?せっかくだ、久しぶりの休息だし、見ていこうか」

「うん!見たい!嬉しい!」


ガイの言葉に思わず笑顔で首を縦に振ると、ガイが少し驚いたような顔で呟いた。


「…リシアにしては、いつになく興奮してるな」

「だって、お祭りなんてテナ村のものしか見たことないもの!こんな町を挙げてのお祭りは初めて!すごい、どこもかしこも花だらけ」

「…はは、そうか。じゃ、行こう。と、その前に、宿を取ってからだな。おーいフレン!ミリシャ!まずは宿に荷物置きに行くぞ!」



リシアの知るシナリオでは、お祭りはなかった。ゲームなのだから、ストーリーに関係のないシーンは作っていないだろう。

でもここは現実。ゲームにあったイベント以外の日常も、当然ある。


でも今は、そんなことは関係ない。こんな楽しそうな光景を目の前にして、田舎出身のリシアが興奮しない訳にはいかないのだ。



そわそわと落ち着かない田舎者一行をガイが宥めるようにして引っ張り、ひと部屋しか空きがなかったものの何とか宿も取れ、皆はお祭りのメイン会場だという広場へと向かった。







「わぁっ!リシアさん見て!あれ、なんでしょう?!…雲?」

「わたあめ…って書いてあるね」

「ピンク色で可愛いですねー!これ、食べれるんですか…?!」

「ミリシャの髪色みたい!」

「えへへ」

「可愛いお嬢ちゃん達、一本どうだい?甘くて美味しいよ!」


今回、田舎者には任せられないと、皆の財布はガイが握っている。

思わず、リシアとミリシャはバッ!っとガイを振り返った。彼は苦笑しながら、懐から財布を取り出す。


「一つくれ」

「はいよ!兄ちゃん、両手に花だねぇ!羨ましいよ!」

「はは、だろう?」


ガイに買ってもらったわたあめを、ミリシャと半分こして食べる。感想は…


「甘い!!」

「砂糖の塊だからな」

「ガイのその言い方、夢がない!!」

「甘いって言ったのはリシアだろ?」

「私は好きです、これ!おいひー!」


ミリシャは自分の髪色と同じわたあめを気に入ったようだ。


「共食い」

「あ、リシアさんひどい!」

「俺を除け者にしてイチャつくなよ、二人共。ところで、フレンはどこだ?」

「あれ?」


わたあめに夢中になっている間に、フレンがどこかに行ってしまったようだ。


キョロキョロと見て回ると、広場にある大きな看板の前に、見覚えのある金髪を見つけた。


「フレン!何してるの?」

「あ、リシア!これ、見てみろよ!」


フレンが見ていたのは広場に大きく設置された祭りの案内板で、彼が指差すところには、一枚の張り紙がしてあった。


「腕相撲大会?」

「ああ!リシア、一緒に出ないか?」

「フレンは私をゴリラか何かだと思ってる?男女混合競技でしょ、腕相撲で私が勝てるわけないじゃない」

「えー、リシアなら男相手だって負けないって」

「だから私はゴリラじゃないから」


フレンの中でリシアという存在が段々とめちゃめちゃになってきている気がする。


「だってさぁ、これ。優勝賞品、見てみろよ」

「ん?」


フレンに言われて案内をよく読む。そこには、『優勝賞品はなんとなんと、飛馬一頭!』と書かれていた。


「ひ、飛馬!?」

「な、すごいよな?!」


飛馬とはその名の通り、空を飛べる馬だ。

大きさは大人でも仔馬くらいで、人一人なら乗せて飛ぶことが可能だ。

いわゆる普通の馬に比べ、とても珍しい種でもある。




この国は険しい山が多く、しかも道が整備されていないことの方が多い。国の中心部はそれなりに整備されているが、今回の旅の目的地である東の山脈に近くなればなるほど、つまり地方に行けば行くほど、道はあってないようなものになっていく。


なので一般的には、長期の旅は徒歩が基本だ。馬に乗って移動ももちろんできるが、道が悪くなると馬を乗り捨てる羽目になるからだ。馬を使うのは、町から町とか、道が整備されていて短距離の時くらいだ。



今回のフレンの旅は国からの任務だが、馬が与えられなかったのはそういう理由だった。山を超えるとなると、馬に乗った方が厳しくなる。



ちなみに馬は高価だから、一般人が簡単に入手できるものでもない。リシアとフレンの生まれたテナ村には、村の財産として馬が二頭いたので、二人共乗れることは乗れるが。



そして馬でさえかなり高価なのだ。飛馬となれば、その値段は一般家庭どころか、小さな町ですら賄えるものではない。


「飛馬がこんな景品になるわけないよ…。普通に買えるような値段じゃないはずだし」

「でもはっきり書いてあるぜ?優勝賞品は飛馬だって」

「絶対何か裏があるよ」

「でも一頭でもいてくれたら、荷物を乗せて飛んでもらったり、怪我をしたやつが乗ったりできるよな。飛馬なら足場が悪くても飛べるから、どこでもついてこれるし」

「いやでもさあ…怪しすぎるって」


リシアがフレンと言い合っていると、ガイが後ろからひょいと顔を出した。


「まぁ、裏があるだろうな」

「ガイもそう思う?」

「ああ。飛馬は騎士団でも隊に二、三頭しかいないくらい貴重だ。こんな町のお祭りで景品になるようなものじゃない」

「怪しい…でも、ちょっと気になるね」

「飛馬はちょっと、見てみたいですけどね。不自然ですよね…」


さすがのミリシャもこの話には疑いの目を向けている。


「まあ、景品なんだし、怪しかったら受け取らなければ良いんじゃないか?気になるのは確かなんだし、俺は参加してみるよ」

「そもそも優勝できるかわからないしね」

「お、リシア言ったな?俺も結構力には自信あるぜ?」


フレンが腕をブンブン振りながら言う。確かに彼は鍛えているので強いだろうが、周りを見ると力自慢そうな屈強な男が集まっている。


「この辺にいる人、参加希望っぽくない?皆ムキムキだよ。強そう」

「んー、まぁな。でも勝てたらかっこいいか?」

「そりゃもちろん。でも怪我したら大変だからやめておきなよ」

「でもこの人たちより強くて一番になったら、すごいですよねぇ」


ミリシャがうっかりフレンのやる気に火をつけるようなことを言ったからか、フレンはニィっと笑うと受付へと向かう。


「参加するのはタダだし。俺はやってくる!」

「ええ、フレン?怪我しないでよ?」

「おうよ!応援してくれな!で、勝てたら褒めてくれ!」

「もう…」

「あはは、フレンさん、頑張ってくださいね!」

「おー!」


盛り上がるフレンとミリシャだが、ムキムキ達と腕相撲して、肩でも外れるのではないか。軽い怪我ならミリシャが治せるとは言え、怪我をすれば痛いのだ。リシアは不安になる。


楽しそうに受付に向かうフレンをハラハラと見つめていると、ガイがポン、とリシアの肩を叩いた。


「あ、ガイ。フレン、こんな屈強な人たちに勝てると思う?心配だよ」

「そうだなぁ。…ちょっと俺も参加してくるよ」

「えぇ!?なんで!?」

「飛馬のことも気になるだろ?」

「それはそうだけど…ガイは別に筋肉自慢じゃないでしょ?」


ガイだって剣の達人なのだから鍛えているのは知っているが、ムッキムキというわけではない。他の参加者も一般人だとは思うが、やはり屈強そうだし、簡単な試合にはならないだろう。


「一応俺は戦闘のプロなんでね。ただの筋肉自慢には負けないよ」

「いや、剣と腕相撲は違うでしょ」

「まぁ、見ててくれよ。で、勝てたら俺も、ご褒美に褒めてくれ」

「はぁ?」

「行ってくる」


謎の言葉を残して、なぜかガイまでが受付に向かってしまう。


「男の人って、こういう勝負とか好きですよねぇ。多分飛馬とか関係なしに、参加したいだけだと思いますよ、お二人共」

「…そういうもの?」

「はい!孤児院の男の子は、大体いつも何かと戦ってました」

「…そうなの…」


ガイとフレンはもう立派な成人男性なのだが…

しかし子供がたくさん集まる孤児院にいたミリシャの方が、若者の少ない田舎で育ったリシアよりよほど男性の気持ちがわかるのかもしれない。



リシアは呆れつつも、参加する二人を見届けるため、ミリシャと観戦エリアへ向かった。






読んでいただきありがとうございます!ブクマ等も嬉しいです!更新の励みになりますー!

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