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⑰ 森で一泊




魔獣が出て騒然となった町だが、ガイとリシアが早々に討伐したことで被害はなく、比較的すぐ日常に戻ったようだった。



魔獣の属性によっては攻撃が通らないということや、それに対する武器への属性付与のことを改めて鍛冶屋で学んだ一行は、もう一泊すると旅を再開させた。



町に魔獣が出たことで、この先の展開がどうなるか不安を覚えたリシアだったが、橋が落ちており森を通ることになる点や、森にトカゲ魔獣がいる点は変わらなかった。


トカゲ魔獣はいわゆる序盤のボスだが、属性を理解したムキムキのフレンは難なく討伐していて、危なげな所は全く無く。ただ、トカゲ魔獣が何体か出たせいで時間を取られたため夜になってしまい、森の中でキャンプをすることになった。



「さすがにこんな森の中で夜を過ごすとなると、見張りをつけるだけじゃ不安だな。リシア、獣避けを探しに行こう」

「うん、そうだね」

「獣避けって、何ですか?」

「燻すと大抵の獣が嫌う煙を放つ草があるの。それを周りにおけば、いくらか安心できるから。フレンと採ってくるね」

「そうなんですね!気を付けてくださいね」

「ガイ、ミリシャをお願い」

「ああ」



ガイとミリシャにはキャンプの用意をしてもらうことにし、リシアはフレンと一緒に森に入った。


「何か懐かしいな。村の裏の山では、よくこういうことしたよな」

「そうね。修行中に山の奥に入りすぎて、帰れなくなって野宿したり。しこたま親に怒られたっけ」

「そうそう。言い訳するのに苦労したよなぁ」

「今思うと、親にバレてたよね、私達がしてたこと」

「ああ、多分な」


リシアもフレンも、山に入って剣や魔法の特訓をしていることは、親には内緒だった。普通に考えて子供がそんなことをして許す親はいないし、特にリシア達は一度魔獣に襲われている。それを考えたら、許可できる親などいないだろう。


しかし、何年もそんなことをしていたのだから、バレていないと考えるほうが不自然だ。真相はわからないけれど、もしバレていたとしたら、心配をかけて申し訳なかったと思う。特にリシアは一応、女の子だし。



「…村にはいつ帰れるかな」

「そうだね…。その、東の山脈の瘴気を封じたら、一旦は帰れるかもね」

「なんか難しそうだよなぁ。それが終わったらまた他の仕事をさせられそうだ」

「違いない」


リシアが知っているシナリオでは、東の山脈で瘴気を封じても、フレンの旅は終わらない。というか、その山脈が、リシアが死ぬシーンの舞台なのだ。



そこでリシアを失い、フレン達は魔王に挑むことを決意する。




でも、今回はどうなるだろう。もしリシアが死なずに済み、無事に瘴気を封じたら、魔王に挑む理由はない。というか、魔王という存在は公になっていないのだ。フレンも皆も、裏で魔王という存在が暗躍していることなど、知る由もない。

となると、一度帰宅するのだろうか。そこから先は、ゲームとは違う人生を歩めるだろうか。それともやはり何かしらの因縁が魔王との間に生じて、挑むことになるのだろうか。



(…まぁ、考えてもわからないか)



すでにここまでで、ゲームとは異なる点がたくさん出ている。大筋はゲームと同じ流れだけれど、細かいところが全然違うのだ。魔王だって本当に、いるのかどうか。



(とにかく私は知っていることを活かして、生き残る。フレン達も守る。それしかない)



何が起きるか分からない以上、それに徹するしかない。リシアは一人、決意を改めた。



「…なあ、リシア」

「ん?どうしたの、フレン」


隣を歩いているフレンが、ふいに声を掛けてくる。


「何か最近、考え込むこと増えたよな。何かあったか?悩みとか、あるのか?」

「えっ?」

「その、俺の勘違いだったら謝るんだけど。ガイと、何かあったのか?」

「…」


リシアは非常に驚いていた。

というのも、フレンは、良くも悪くも他人の機微に敏感な方ではないからだ。


多少空気が読めないというデメリットもあるが、そういう鈍感さに救われることが多いのも事実で、リシアはフレンのそれは長所だと思っている。


でも、だからこそ、表立っては何もないガイとのことを聞かれたことに、リシアはとても驚いた。


「驚いた。フレン、気付いてたの?」

「あのなあ、何年リシアの幼馴染やってると思ってるんだ?それくらい、見てれば分かる」

「フレンから出たセリフとは思えない…」

「おい」

「ふふ、ごめん。それこそ生まれたときからフレンの幼馴染やってるんだから、意外で」

「そんなにか?」


リシアがクスクスと笑っていると、フレンが拗ねたように呟く。


「俺、鈍感なのは自覚してるけど、ちゃんとリシアのことは見てるつもりだぞ」

「え?」

「リシアは俺の大事な人だし、俺の事情に巻き込んじまったから。ほんとだったらリシアは今王都にいて、試験勉強でもしてたはずなんだ。なのにこんなことになって、ごめんな」

「フレン…」


ずっと気にしてくれていたのか。

リシアは驚くと同時に、ひどく申し訳ない気持ちになった。



フレンは優しい。だから、少し考えればリシアが巻き込まれたことを、彼が気にしないはずがないことくらいわかったはずだ。

それなのにリシアは自分のことでいっぱいいっぱいで、彼の気持ちまで考えていなかった。



フレンは悪くない。これっぽっちもだ。



「ごめん、フレン。気にさせちゃってたね」

「いや、俺は…」

「ガイのことに関しては、心配しないで。彼はほら、私たちのお目付け役みたいなものだし、フレンの幼馴染がどんなやつなのかって、気にしてただけみたいだから。変なことは言われてないよ」

「そうなのか?」

「そうそう。それに巻き込まれたことに関しては、確かになんでだって思ったけど、正直ちょっと、ほっとしてるところもある」

「えっ、なんでだ?」

「だってフレンやミリシャがこれから大変な思いするだろうってわかってるのに、私だけ何もせず王都にいたら、なんかほら、逃げたみたいだし」

「そんなことないだろ」

「ごめんごめん、言い方が悪かった。何もせずに待つだけっていうのも、心配だから。こうして一緒に行けて複雑だけど、ほっとしてる気持ちもある」

「リシア…」



フレンに嘘は、なるべくつきたくない。

だからこれは、リシアの偽りのない本音だった。



「だから気にしないで!最近考えてることが多いっていうのは、武器の属性とか新しい魔法とか、覚えることがたくさんあるから、多分そういうときだと思うよ。悩んでるわけじゃないから」

「そう…か?大丈夫なんだな?」

「大丈夫!ガイの剣の腕はすごいから参考になるし、ミリシャは妹みたいで正直可愛いし、結構楽しんでるよ」

「えー、俺もガイくらい腕はあると思うし、ミリシャみたいに可愛いところあると思うけど」

「フレンは何と張り合ってるのよ。…あ、フレン、あったよ獣避け」

「おっ、良かった。たくさんあるな」



リシアは笑いながら、お目当ての獣避けを採取する。そしてふと、思った。



(そういえば、フレンと私は特訓したけど、ガイも思ってたより全然、強いよね…。まあ現実では彼は騎士団の副隊長なわけだし、当然なのかな)



そもそもリシアとフレンはともかく、元々騎士団にいたガイが旅開始時にリシアたちとほぼ同じレベルなわけがないのだ。あれこそ、ゲーム補正だろう。


リシアとフレンは十分な量の獣避けを採取すると、ちょうどたき火の用意を終えたガイとミリシャの元へと戻った。




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