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⑭ 旅の始まり




準備に丸一日をかけ、一行は遂に王都を出発した。


旅の目的は、東の山脈に発生した瘴気溜まりを封印すること。そしてそこに向かう道中で魔獣の異常発生などが起きていないかを調査することだ。


すでに現地の自警団などから被害の報告は上がっており、何度か騎士団の派遣なども行われたらしいが、結局元凶の瘴気をどうにかしないと被害は広がる一方だ。今現在他にも数人の光魔法使いが世界各地で活動をしているらしいが、東の地域担当の光魔法使いが高齢で引退したらしく、フレンが引き継ぐことになったというわけだ。



(昨日まとめたことを思い出すのよ、リシア。とにかく私の目標は、出来るだけ安全に、東の山脈の瘴気封じまでをこなすこと)



昨晩、リシアはこれからのことを必死に考えた。



当初リシアは、自分抜きでもフレン達の旅は始まり、魔王討伐までやり遂げるのだろうと漠然と思っていた。

だが、王都に来ることになってからというものの、リシアの知るストーリーとは色々と違うことが増えている。その一方で、結局同じメンバーで旅をすることになるなど、大きな流れは変わっていない。



そこでリシアは、「自分が死なないこと」を大前提としつつ、「東の山脈までは、ゲームのシナリオと同じイベントをこなすべきだろう」と考えた。



この先何が起きるのか、リシアには大まかにわかっていることが多い。しかしだからといってそれを全て避けるよう行動したら、何が起きるのか分からず却って危険な気がするし、その影響がどうでるかも全くわからない。


冒険の途中、フレン達に救われる人もいるし、東の山脈以外にも瘴気を封じる機会があるはずだから、その全てを放置できないという考えもある。



(東の山脈以降は…正直、どうなるかわからないし、一旦保留)



自分が生き残った場合の未来を、リシアは知らない。だからとりあえず、死ぬはずの未来まで。リシアはそこまでを目標とした。

そこまでの事件の数々を、できるだけ安全にこなす。それがリシアの目標だ。




(この次に起こるとしたら、まずは最初の魔獣との戦いだよね)



王都から出て最初の大きなイベントはミリシャだが、それはもう起きている。

とすると、次は橋が落ちてしまったとかで道を迂回して森を通り、そこで魔獣に襲われるイベントがあったはずだ。


(序盤で最初に苦戦する敵で、火が弱点だったはず。物理が通りにくくて、属性武器をちゃんと理解していないとなかなか勝てないのよね。確かこの敵に会う前、お誂え向きに武器育成に関する説明が街の鍛冶屋から聞けたはず)


ゲームにおける武器の強化は、旅の途中新しいものを手に入れる方法もあるが、武器に付ける魔石を強いものにしたり属性を変えたりする方法がメインだ。そのため、初期装備が結構中盤まで活躍したりする。



(うん、記憶が確かなら、ちゃんと対策していけば問題ない)



ゲームでは敵に負けてみて攻略方法が分かるわけだが、現実ではそうは行かない。負ける=死が待っているわけだから、とりあえず戦ってみるなんて怖いことはできないのだ。








「ようやくここまで来たな」

「久しぶりの大きな街ですね!今夜は宿で寝れるといいなぁ」

「宿屋の値段見てみようぜ」

「お風呂入りたい…」


十日以上をかけ、時々野生動物や小型の魔獣とも戦いつつ、一行はようやく王都以来の大きな街、ベレムに到着した。



途中小さな村などで宿泊もしたのだが、都合よく毎晩人里に着けるはずもなく、かなりの割合で野宿を挟んだ。野宿はまぁ、いいとして(乙女のくせにそれもどうかと思うが)。辛いのはお風呂に入れないことだ。川などで最低限の身だしなみは整えていたが、ちゃんとお湯で洗いたい。切実に。


ゲームではテントを使ってHPを回復できていたが、現実では寝られればいいというわけではないのだ。HP、回復しない。



無事に宿屋で部屋を取り、ミリシャと二人でお風呂に入れることを小躍りして喜んだ後、食料の買い出しに行こうということで二人は部屋を出た。


「あ」

「お」


ちょうど部屋を出たところで隣の部屋の扉が開き、ガイが姿を現した。ちなみに部屋は男女別で取っている。


「買い出しか?」

「うん、食材とか。ガイは?」

「俺もそのつもりだった。あ、ミリシャ」

「何ですか?」

「フレンがちょっと、さっきの戦闘で足を痛めてたみたいでな。診てやってもらえないか?」

「え!それは大変ですね!リシアさん、ちょっと良いですか?」

「大丈夫。買い物は私がしておくね」

「俺も手伝うよ」

「え?」

「だめか?」

「いや、そんなことは、ないけど」

「じゃあ行こうか」


そう言うとガイはさっさと歩いて行ってしまう。

リシアは部屋に入っていくミリシャを見届けると、慌ててガイの後をついていった。






「…」

「なんだ?俺の顔に何か付いてる?」

「…ガイ、私何かガイの気に障ることした?」


旅に出てからというもの、ずっと感じていたことがある。

ガイがやたらと絡んでくる気がするのだ。


例えば二班に分かれて別行動となれば、ガイはやたらとリシアと行動したがる。

歩いている時も、頻繁に話しかけられる。

敵と戦っていても、何となく視線を感じる。

今だって、本当にフレンは足を痛めていたかもしれないけれど、別にガイが買い出しに同行する必要は無かった。



「気に障ること?なにもないよ」

「じゃあ、私と二人になりたいのか、ミリシャとフレンを二人にしたいのか。どっち?」

「確かに、リシアは美人だからな」

「そういう意味じゃないって、分かってるでしょ」


いい加減イライラしてきたリシアは、歩いていたガイの前に立って彼を睨みつけた。


ガイはしばらくリシアの視線を受けても平然としていたが、リシアが動かないのを見ると困ったように眉を下げた。


「…まぁある種、下心ではあるな」

「は?」

「そう睨むなって」


ガイは脇の路地に目を遣ると、そこに入りリシアに手招きする。確かに道のど真ん中で立ち話をしていたら、他の通行人の邪魔だろう。


リシアが大人しく路地に入ると、ガイは壁にもたれかかって腕を組んだ。


「初めて会ったときのこと、リシアは覚えていないんだよな」

「え?う、うん」


本当はよく覚えている。王都でぶつかったときのことだろう。


「あの時俺は、わざとぶつかりに行ったんだ」

「…は?」

「待望の光魔法使い、フレンの連れ。事前情報だと、フレンはその連れにかなり依存している。そう聞いていた」

「依存って…フレンは家族みたいなものだから、そう見えただけでしょ」

「でも最初、リシアが行かないなら行かない、なんて駄々こねたんだろう?あいつ」

「…その節は大変ご迷惑をおかけしました」

「恋人でも妻でもない、ただの幼馴染と離れるのを嫌がる。これはもう、依存していると言っていいだろう」


他人の目から見ると、そうなるのだろうか。

実際リシアとフレンの間には、家族のように育ったということや、リシアの背中の傷のこと、一緒に特訓したことなど、色々な事情が重なっている。だから一言で仲良しだとか依存しているとか、そういう言葉では表せないと、リシアは思っているのだが。

事情を知っているのは当人のフレンとリシアだけだから、他人からしたら不思議な間柄に見えるのかもしれない。


「…まぁ、仮にそうだとして。それがどう繋がるの?」

「言ったろ。フレンは待望の光魔法使いなんだ。そして俺はお目付け役。仮にリシアがフレンに悪影響なのであればすぐ田舎に帰ってもらうべきだし、その逆で必要な存在なら引っ張ってでも仲間に加える。俺は、そういう指示を受けていた」

「は…!?」


リシアは絶句した。


(つまり、今ここに私がいるということは、全ては出来レースだったということ…!?もしかして、あのミリシャを襲った魔獣から?!)


リシアが青褪めていると、ガイは何かを察したのか口を開く。


「勘違いするなよ。結局俺は、そのどちらでもない、と報告をしたんだ」

「え」

「わざとぶつかったのは、人となりを見るためだ。予定ではもう少し会話をするはずだったが、リシアは逃げるように去ってしまったからあれだけでは収穫はなかった。まぁでも、その後の王都での生活を見ても問題はなさそうだったし、フレンもリシアに会いたがってはいたが無理に会いに行こうとしたり、旅を止めようともしなかった。だから、リシアに関しては何もする必要はないと、俺は報告したんだ」

「じゃあ、あのミリシャを襲った魔獣も関係ないのね?」

「当たり前だ。国がわざと魔獣を暴れさせたなんてことになったら、大問題だろ」

「…」

「あれは本当に偶然だ。そしてその結果陛下がリシアを気に入ったのも、偶然。まぁ俺としては、正直リシアは仲間に欲しい人材だったのは否定しない。フレンの幼馴染で素性が知れており、地方出身の平民で中央部分との癒着の心配がなく、戦闘力がある。頭の回転も早い。お忍びだとかでたった二人で旅させられそうになってたからな。信頼できる人材が欲しかったんだよ」

「だからあの時、やたらと私を持ち上げたのね…」

「まぁな。でも、それだけだ。正式な報告はしていないよ」


つまりリシアはやはり、本当に偶然のきっかけでパーティー入りしたということだ。


(…これも何かの因果かな…)


遠い目をしかけたが、ふと、リシアは思い立った。


「で、それが今やたらとガイが絡んでくるのと、何が関係あるの?結局私に関しては可もなく不可もなく、で終わったんでしょ」

「リシア、俺に絡まれてると思ってるのか?心外だな」

「他にいい表現が思い浮かばない」

「好意を寄せられてるとか」

「それは違うでしょ。そんなのガイから感じないわよ」

「ひどいな」


ガイは苦笑しているが、彼からそういった甘い感情を感じないのは事実だ。


「単純に、興味があるんだよ」

「興味って?」



ガイが口を開いた、次の瞬間。



「きゃあああーーーーー!!」

「ぎゃあああああ!!」

「魔獣だ!魔獣が出たぞ!!」


街の人達の叫び声によって、二人の会話は中断された。



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