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⑫ ヒロインの涙はなぜかリシアに効く




「リシア、なんか、ごめんな…、その、俺は単純にリシアに褒美が出ればいいなって思ってただけだったんだ」


国王が退席し、また部屋に四人だけになると、フレンはリシアに非常に申し訳無さそうに謝った。自分がリシアの功績だと持ち上げた結果こうなったと、責任を感じているらしい。


「いや、本当に。まさか陛下がこの場で二人に同行を言い渡すとは思わなかったな」


ガイもそう言うが、リシアは少々疑っている。

この男、何やらきな臭い。ゲームのキャラと違う気がして仕方ないのだ。


「…まあ、うん、仕方ないよ。世間一般には光栄なことだし、頑張る。…死なないように」

「あったりまえだろ!大丈夫だ、リシアはめちゃ強いし。それに俺が守るから」

「ハハ…そうだね…」


リシアの口からは乾いた笑いしか出ない。

死なないように、は比喩でも何でも無く、本当にリシアに起こりうる、それも高確率で起こる未来なのだ。じわじわと、ゲームと同じ未来が近づいてきている。このままのんびりしていたら、本当にあの未来が来てしまう。リシアは唇を引き結んで、昏い考えを頭から追い出すように振った。



ふと隣に座るミリシャを見ると、快活な彼女には似つかわしくない難しい表情で、何かを考え込んでいるようだった。


(…怖いのかな)


当然といえば当然だ。

ミリシャはかなり行きあたりばったりな旅をしていたが、それでも目的は母の遺言に従ってアスクラに行くというだけだった。孤児であったというのだから、王宮など無縁な生活をしていただろうに、急に国を救う旅に同行しろと言われて、動揺しないほうがおかしい。それに安全な旅ではないのだから、怖く思うのも当然だ。



正直、リシアはミリシャにかなり情が湧いている。数日間とは言え、本当の姉妹のように一緒に寝泊まりをしたのだ。

だから心のどこかで、ミリシャを一人危ない旅に送り出すことにならなかったことに、安堵を覚えている自分もいた。


それに、フレンも。家族同然の幼馴染の彼が危険な旅に出ることを知っていて、リシアは死にたくないからという理由で逃げようとしていた。そこに後ろめたい思いがなかったと言えば嘘になる。


(…こうなったら、やるしかない。知っている知識を活かして、死なないようにして、皆にも危険が及ばないようにする。それしかない)



そうだ。今まではまず旅に出ないことを目標としていたが、こうなったら自分が未来を知っているという利点をフルに使って、できるだけ安全にエンディングを目指すのだ。そうすればミリシャにだって、必要以上に怖い思いはさせなくて済むはず。


リシアは決意を新たにすると、黙り込んでいるミリシャの手をそっと握った。


「リシアさん?」

「ミリシャ、大丈夫よ。ミリシャが危ない目に遭わないように、私、力を尽くすから。それに、同行するのはアスクラまでにしてもいいと思う。適当な理由をつければ誰も責めないと思うし」

「えっ…!」

「いきなりこんな事になって、怖いよね。とにかく、フレンもいるし、多分ガイも守ってくれるから。安心して」

「俺は多分、なのか?リシア、なんとなく俺に厳しい気がするんだが」

「ガイのことはまだ良く知らないから」

「それはそうだが。冷たいなあ」


胡散臭い笑顔を飛ばしてくるガイを白けた目で見ていると、ミリシャの瞳から涙がポロポロと落ちた。



(えっ、な、泣かせてしまった!!)



リシアはうら若き乙女を泣かせてしまったことに、酷く困惑した。フレンもおろおろとしている。テナ村組は女の涙に弱い。いかんせん村では女子供皆逞しく、可愛らしい女の子が涙する様など滅多に見ることがないのだ。


「おおおおいミリシャ、どうしたんだ!?どっか痛いのか?」

「ミリシャ、ど、どうしたの?やっぱり辞める?」

「うぅ、ぢがうんですぅ、わたし」


ミリシャは手で乱暴に目を擦る。そんなことをしたら、長い睫毛が目に入ってしまう。

リシアはハンカチでミリシャの顔を拭いた。


「私、母が小さい時に亡くなって、以来ずっと孤児院にいたんですけど、私が回復魔法使いだってことがバレていたので、ずっと働かされていて、…その、怪我しても問題ないだろうって、乱暴なことも多かったので、こんな、私の能力を知った上でも優しくしてもらえるなんて、驚いちゃって…ひぐ」

「え…」


リシアは絶句した。

リシアは確かにゲーム上でも旅に出る前のミリシャの生活を知らなかったが、少なくとも、ミリシャが母を亡くすのはある程度大人になってからだった。しかし目の前のミリシャは、幼い時に母を亡くしたという。孤児院にいたとは出会ったときに聞いていたが、まさか幼い頃からいたとは思わなかった。



(何が起きているの?もしかしてここは、レジェンドオブフォルテスタの世界じゃない?でも…)


答えのない考えがグルグルと、リシアの頭の中を駆け巡る。


リシアが運命を変えようと動いていたのは、リシアの身の回りだけだ。自分の働きだけで、これまでのミリシャの人生にまで影響があったとは到底思えない。


(…でも…)


分かっていることは、目の前にいるミリシャはリシアの想像よりもずっと、過酷な人生を歩んできたということだ。

乱暴なことをされていた。幼いミリシャは一体、どんな扱いを受けていたのだろうか。


(初めて会った時、怪我は慣れっこだって言っていた…)


何があったのかはわからない。でも、これ以上ミリシャにつらい思いはしてほしくないと思った。



「ミリシャ、泣かないで。大丈夫だから。ここにいる人は誰も、ミリシャが怪我しても平気だなんて思ってないし、回復魔法を無理強いする気もないよ」

「ありがとう、ございます…ううぅ」



ミリシャに泣かれると何だか非常に落ち着かない。ミリシャの顔をハンカチで拭きながら、どうやら自分はすっかり攻略されたようだと、リシアは思った。


読んでいただきありがとうございます!

これで第一章は終わりです。第二章に続きます。

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