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⑩ パーティー集結




リシアは先程ミリシャと別れた東門に戻ったが、ミリシャはそこにはいなかった。

警報が聞こえたなら戻っているかとも思ったが、もう結構先まで行ってしまったのかもしれない。


門の前には騎士がたくさんいて、大きな門を閉じようとしている。


「大型の魔獣がこちらに向かっているとの情報だ!門を閉めろ!」

「はっ!」


騎士が掛け声とともに重い大きな扉を数人がかりで閉めた。ガゴン、という音とともに、かんぬきもかけられる。


「やっぱりこっち側に魔獣がいるのね…!」


門は恐らく十五メートルほどの高さがあるが、これくらいなら風魔法の飛翔で飛び越えられるだろう。


リシアはためらうこと無く一気に飛び上がると、門の上へと一度足を掛け、そのまま門の外へと飛び降りた。


「えっ!?あ、そこの君!どこへ行くんだ!!」

「すみません!友人がいるんです!」


騎士が慌てて止める声にも振り向かず、リシアは地面に降り立つとまた駆け出す。



ミリシャと別れてからまだ数分ほどだと言うのに、ミリシャの姿は見えない。案外ミリシャは歩くのが早いらしい。


「はあ…はあ…」


王都を出てしばらくすると、だんだんと舗装されていない道が増えてくる。両側は木々の生い茂る森だ。

道が悪く、息が切れてきた。魔法も同時に使って走っているが、あまり使いすぎると体力も魔力も切れてしまう。



「ぐぅおおおおおおお!!」

「きゃあーーーー!!」



一度足を止め呼吸を整えていると、左側の森から耳をつんざくような獣の鳴き声、それに高い女性の悲鳴が聞こえてきた。


「嘘でしょ…!」


リシアは慌てて森に入る。入ってすぐ、不自然になぎ倒されている木々が目に入り、そしてそのせいで拓けている森の中で巨大な獣が雄叫びを上げているのが見えた。


見た目はイノシシに近い。しかしその大きさは通常のイノシシの十倍…いや、それ以上だ。見上げるほどの大きな体からは獣特有の、強烈な匂いが漂ってくる。


「こ、来ないで!」


こちらに背を向けた状態の巨大なイノシシの足の間から、イノシシの前に座り込み、ずりずりと後ずさりしている人物の姿が見えた。

薄い黄色のワンピース。薄桃色の髪。


「ミリシャ…!」


リシアの喉から悲鳴に近い音が出る。

巨大イノシシの足元に倒れていたのは間違いなく、ミリシャだった。


ミリシャは腰が抜けてしまったのか、立ち上がれない様子だ。

リシアは周囲を見渡すが、誰もいない。フレンどころか、騎士の一人もいない。



「なんでっ…!」


巨大イノシシはまた大きく鳴くと、そのままの勢いで大きな牙をミリシャ目掛けて振りかざしながら突進する。


「いやーーーーーっ!!」



ミリシャの絶叫が辺りに木霊する。

次の瞬間、イノシシの巨体が横からの突風になぎ倒されるように吹っ飛んだ。

次いで、ミリシャの前に彼女を背に庇うようにして立つ人影が一つ。


「…リシア、さん!?」

「ミリシャ、怪我はない!?」



リシアは思わず風魔法を放ち、巨大イノシシ目掛けて攻撃していた。





フレンはいない。騎士もいない。ならばリシアがやるしかないではないか。


ミリシャは回復魔法の使い手なのだ。

攻撃は現段階ではほぼ、出来ないはず。



対してリシアは五年間魔法を特訓してきた。フレンと修行したから、剣などの近接攻撃も多少はできる。今剣は持ってないから、素手と魔法での応戦しか無いが、それでもミリシャを守る力はある。はずだ。


「それにしても…」


リシアの魔法からすぐに復活し、目の前で威嚇をするように立った巨大イノシシは、あまりにも大きい。修行の際戦ってきた獣や魔獣とは格が違いそうだ。多分ゲーム内ならギガントモンスターとか、そういうレアな位置付けだろう。



そして、あの目。真っ赤な目。あれは、魔獣の証。



あの目を見ていると、五年前のことを思い出す。

リシアの背中の傷が痛む気がした。


「り、りしあさん」

「大丈夫よ、ミリシャ。そこに隠れていて。でも、離れすぎないで」

「は、はい」


ミリシャは這うようにして背後の木陰に身を隠す。

リシアは深呼吸をした。


(落ち着け。私は五年前のリシアじゃない。特訓した。勉強もした。魔獣のことは、前世からの記憶も思い出してる。勝てる。勝つんだ)


「何のために特訓したと思っているの。生き残るためよ!!」


リシアがそう叫ぶのと同時に、イノシシ魔獣が雄叫びを上げながら走ってきた。

リシアはそれをさっと避ける。足を目掛けて集中的に風魔法でかまいたちを飛ばす。体格差がある相手は、機動力を割くのが効率的だと、リシアは学んでいる。


(…硬い!)


数発打った魔法は足の皮膚を傷付けたようだが、深手には至っていない。魔獣の動きは素早いままだ。


(出し惜しみはしていられなそう)


「来て、氷の刃!乗せて、突風!」


リシアは水魔法で氷の刃を出すと、それを風に乗せて飛ばした。数本がザクザクと魔獣の顔周りに刺さり、怒った魔獣が唸り声をあげながら突進してくる。


(タフさは厄介だけど、攻撃方法が突進だけなのは助かるな)


リシアは突進を避け、頭から木に突っ込んだ魔獣を背後から狙う。が、それを読んでいたかのように魔獣が尻尾でリシアを薙ぎ払った。尻尾の先端には棘のようなものが付いており、慌てて避けたリシアの足首を傷付ける。


「リシアさんっ…!」

「大丈夫!顔を出さないで!」


様子をうかがっていたミリシャがリシアの出血に悲鳴を上げるが、魔獣がミリシャをターゲットにしてはまずい。リシアは叫んでミリシャを押し留めた。


魔獣はよだれを飛ばしながら突進してくる。スピードが上がっていて、何とか避けた。


(ここまで早くて、大きいなら…仕掛けがいいな)


リシアはかまいたちを飛ばしながらも、同時に足元に土魔法を練る。魔獣が再びの突進でリシアのいる位置に突っ込んでくると同時に、避けながら展開していた魔法を発動した。地面から巨大な棘が生え、魔獣の足や腹を狙う。何本かが命中し、魔獣の左足に深手を負わせた。魔獣が体勢を崩す。


「今!起これ、竜巻!!」


リシアの呼びかけに応じるように周囲の風が集まり、魔獣の周囲を囲う。それは激しい渦となり、巨大な魔獣を浮かせるほどになって荒れ狂った。周囲の木々がガサガサとざわめく。



しばらくすると竜巻は収まり、魔獣はどぉっと地面に倒れた。どうやら気絶したようだ。



リシアは急いでミリシャに駆け寄ると、彼女を立ち上がらせる。


「リ、リシアさん?」

「ミリシャ、この隙に逃げるよ!」

「あ、あれ、生きてるんですか?!」

「生きてる!光魔法じゃないと、トドメはさせない!」


あれはただの獣ではない。魔獣だ。

リシアは光魔法は使えない。そして今、光属性の武器も持っていない。

残念だが、気絶している内に逃げるしか無いのだ。



何とかミリシャを起こして彼女を支えつつ走り出したが、背後でむくりと魔獣が頭を上げたのが見えた。


「起きた!もう、早すぎる!」

「ひええええ」

「ミリシャ、とにかく走って!」

「は、はいぃ!」


背後から魔獣の怒ったような鳴き声が聞こえてくる。振り返ると魔獣はすでにリシア達を追ってきていた。


(血か…!)


リシアは出血している。恐らく血の匂いが奴を興奮させているのだ。



突進してくる魔獣をミリシャを抱えて避けるのは今の状態では厳しい。それに、狙いは出血しているリシアになっているはずだ。


リシアはミリシャを突き飛ばすと、立ち止まって振り返る。


「リシアさん!!!」

「怒れ、大地…!隆起!!」


リシアは思い切り地面に両手をつき、魔力を流しながら叫ぶ。

すると地面が盛り上がり、リシアの前に壁ができた。


「がああっ!!」


魔獣が勢いよく土の壁に激突する。止まったものの、壁は魔獣の牙により破壊された。


(でも、止まった!)


目の前に迫る魔獣に向かって、リシアは再度地面から棘を生やす。

それは魔獣の顎に突き刺さり、貫通した。


「ぎゃあああああっ!!」

「…っ!」


魔獣を止めたは良いものの、目の前で鼓膜が破れんばかりの咆哮をされ、リシアはふらついてしまう。


(止まってる場合じゃない、逃げないと…!)


顎から棘を引き抜いた魔獣がギラギラとした目でリシアを見据えた。



次の瞬間。



「リシア!!!」

「え」


どこかから自分の名を呼ぶ声が聞こえ、次いで魔獣の首から大量の血が吹き出した。


「レイ!」


さらに右側から誰かの気配がしたかと思うと、眩い光が魔獣に向かって収束していく。


「がああ…っ!」


光が魔獣を包むように覆うと、魔獣の身体から黒いモヤのようなものが抜けていき、そして、ジュワアアという音とともに魔獣自身も消えていった。



「はぁ…はぁ…」

「リシア、無事か!?」

「…フレン!?」


リシアの隣に立っていたのは、フレンだった。彼が光魔法で魔獣にトドメをさしたのだ。


「惚れ惚れする戦いぶりだったな。怪我はないか?」

「あ…!」


血を拭いながら剣を鞘に収めているのは、ガイだ。彼が魔獣の首を切りつけたのか。


「えっと…怪我はないです。助けてくれてありがとうございました。フレンも、ありがとう」

「良いんだ。まさかこんなに大きな魔獣が王都近くに出るとはな」

「フレン達は、どうしてここに?」

「警報が鳴ったから来たんだ。魔獣なら俺の出番だろ。ちょうど今日、出発する予定で、準備してたところだったんだ」

「そうなんだ」


フレンが駆けつけてくれて良かった。あの魔獣はリシアに執着を見せていたから、倒しきらないとどこまでも追ってきそうだったから。


「そうだ、ミリシャ!」

「り、リシアさん…」

「大丈夫?怪我は?」

「ないです。ないです…。う、うわーーん!」

「え、ちょ、ミリシャ?どこか痛い?」

「違います、違います、リシアさん、怪我してるじゃないですか!」

「あ」

「見せてください、治します!」


ミリシャがリシアの足首に手をかざすと、出血していた箇所が温かくなり、ゆっくりと傷が塞がっていく。


「へえ、回復魔法使いか。珍しいな」


ガイが感心したように頷いている。

フレンも初めて見た、と好奇心を押さえられない様子で、リシアの足首をしげしげと見つめた。


「すごい、ミリシャ。もう痛くない」

「うぅっ。これくらい、何回でもします。でも…リシアさん、私を助けようとして、こんな危ない目に」

「ミリシャ」

「ごめんなさい…!うぇーーーん!!」

「み、ミリシャ」


泣き出してしまったミリシャもいるし、フレン達も魔獣のことを王都に報告するということで、一行は一度、王都に戻ることになった。




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