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8月4日

昼を過ぎた所で車に入院の荷物を詰め込み、家族全員で病院に向かう。

入院の手続きは、とても簡単な物だった。数枚の承諾書に署名と捺印、咲夜は19才なので法的には成人だが保護者の了解が必要との事で保護者欄も同様に記入する。後は寝間着のレンタルを申し込んで終了である。

コロナ第7波の影響で、入院中は全面的に面会禁止との事。病室までは付き添えない。待合室で少し待てと言われ、秋生と優希は途方に暮れていた。


「今日お別れしたら、もう咲ちゃんの顔は見れないのかな?」

「優希、流石に術後説明もあるじゃろうよ。明日も少しは咲夜に会えるんじゃね?」

「あれ?もしかして手術した後は、こっちから電話は出来んかも」


今後の段取りも明日からの予定も、今の所全く判らない。明日は何時から手術をするのか、手術は何の位の時間が掛かるのか、疑問は尽きない。

少なくとも病室では電話は出来ないとのこと。

一旦入院をしてしまうと、音声による咲夜への連絡手段が無くなり、咲夜からの連絡を待つだけの一方通行になる可能性に気付いた優希は、物凄い不安に襲われていた。


「お待たせしました。これから麻酔科の説明が有ります。付添の方も1名だけ聞けますが、どなたか来られますか?」


荷物を置いて早速レンタルしたお色気成分ゼロのパジャマに着替えた咲夜を連れて、看護師が待合室の入り口から声を掛けてきた。

麻酔医の説明は付添1名らしい。秋生は優希に譲ろうと考えていた。


「優希、行っとき?」

「今、無理。何言われても覚えてる自信無いから、秋生さん行ってきて」

「分かった。待ってて」


昨日から咲夜の見えない所で隠れて優希が泣いてた事を秋生は知っているので、優希一人を残して行く事に一抹の不安を感じるが、かと言ってここで咲夜一人を行かせる筈もなく、秋生はベンチソファーから立ち上がった。


「私が付添います」

「お父さんですね」

「はい」

「では、3階なので付いてきて下さい」


看護師の案内でエレベーターに乗り込み、移動を開始する。


「こちらです」


3階で降りて、看護師に付いて人気の無い廊下を歩いていた秋生は、周囲のドアを見て硬直しそうになった。3階とは麻酔科が有るフロア。

つまり最も麻酔が必要になる場所、手術室が有るフロアだったのだ。


「咲夜、あそこ見てみ。手術室って書いてある」

「マジ?」

「マジ」


青い顔で秋生が指差したドアがおもむろに開き、ベッドが運ばれていく。ベッドの上には人が寝ているが意識は無さそうだ。きっと今手術が終わったのだろうが、シーツが血塗れということは無く清潔そうだ。

そのままベッドは二人の横を通り過ぎ「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた扉に消えていった。


「明日は私の番?」

「そうだよ。頑張ろうね」

「正直、気絶しそう」

「大丈夫。気絶してる間に終わるまである」

「今、気絶しそう」


ボソボソと会話していると、案内の看護師が手術室の隣にある麻酔科の診察室で足を止めノックをする。


「佐藤さんです。お連れしました」


***


手術と言うのはチームワークだそうだ。其々の役割を専門家が担う。2日に話した執刀医は同席しなかった為、説明に現れた麻酔科医は初めて見る顔だったが、説明はフランクで解りやすかった。


ざっくり言えば、今日の夜から背骨に細い管を通しそこから薬を注入。そこから、手術が終わって痛みが落ち着くまでは管が付きっぱなしだ。術後の痛みが激しい時は、自分で麻酔薬点滴の落ちる速度を調整できるとの事で、器具の説明と一緒に実物も見せてくれた。安全機構も付いており多い日も安心だ。


「手術は何時からですか?」

「14時くらいですね」

「手術はどの位、掛かるもんでしょうか?」

「大体2時間くらいと思います」

「明日はこの子に会えますか?」

「手術前に少しだけ顔を見れますよ。手術が終わってからも見れますが、多分寝てると思います」

「術後の説明は?」

「手術が終わったら執刀医から説明が有ります。明日は手術前の30分前くらいに来て、終わるまで待機して下さい」

「分かりました。咲夜は何か質問ある?」


聞きたい事を聞けた秋生は、咲夜に水をあけた。


「うーん、管が取れるまでお風呂は入れないの?」

「入れますよ。今日はこれからすぐに入って貰って、夕食後に管を付けます。明日は無理だけど、明後日から歩けるしお風呂も入れると思いますよ」

「咲夜、他には?」

「ない。怖い」

「怖いと思いますが、佐藤さんには沢山の人が付いています。何か気になる事があったら看護師に伝言して下さい」

「はい」

「では、病室に戻って下さい。すぐお風呂に入れるよう、こちらで予約を連絡しておきますね」


咲夜も納得したようだ。説明が終わり、廊下に出る。


「心配事は風呂だけかーい」

「だって、もう選ぶ余地が無いんだもん」

「では部屋に戻って心行く迄、お風呂を堪能するが良い」

「注射ヤだなあ」


少しは軽口を叩ける様子の咲夜に、秋生は安堵しながら優希の待つ待合室にもどるのだった。


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