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8月3日

不安で寝る事が出来ず、秋生はベランダでタバコを吹かしていた。街頭が明るいから鳥目に影響しないのか、真夜中でもカラスが飛んでいた。向かいの建物の屋上看板に2羽が頻りに出入りしているので、恐らく巣が在るのだろう。


衝撃の告知から何とか家に辿り着いた後、タバコを吸っていただけなのに、何時の間にか蚊取り線香が燃え尽きて、何時の間にか夜が明けた。明るくなったベランダを見ると蝉とカナブンの死骸が転がっていた。

翌日4日には入院するので、今日中に準備をしなくてはならない。


「優希、下着とかどんくらい用意すんの?」

「まずは10日分で良いんじゃないかな」

「かーさん、パンツ足りないから洗濯してー」

「それは大変だ。すぐ池袋に買いに行こう」

「いや、足りなければ追加は持って行くって。有るだけ突っ込んどきー」

「優希、パンフのリストで足りないものは?」

「手術で着るT字帯、確実に持って無い。今日、買っとこう。」


娘の下着の所在など知りもしない。何となく準備に参加できず手持ち無沙汰な秋生は、それとなく気になった事を聞いているだけである。


「咲夜、アイパでアマプラ見れるようにしといたよ」

「ありがと。スイッチとアイパとパソコン、かばんパンパン・・・」

「そこだけ見ると、楽しそうじゃ」

「とーさん、コンセントの延長と充電ケーブルの予備頂戴。あれ、貴重品ってどうするんだろう?」

「はいよ、これ」

「咲ちゃん、貴重品は基本持ってくるなってパンフに書いてあるよ」

「それ困る。9月に追試あるから少しは勉強するし、パソコンは持って行きたい」

「じゃね。お金だって持ってくんだし、スーツケースに鍵掛けて金庫代わりにしたら?」

「げ、スーツケースの鍵が何処にあるか分かんない」

「そこは探そうね、咲夜」


全員が「がん」の事を出来るだけ考えないようにしながら一心に準備を進める。やることが無くなると、病気の事を考えて胃が痛くなるので、何も考えなくてもリストに沿って準備するだけというのは正直助かると、秋生は感じていた。


スーパーと薬局と百均で買い物を済ませ、スーツケースもパンパンになった頃に準備が終わり、痺れ憧れのプライム先輩から荷物が届いた通知を受け取った頃には日が沈んでいた。


- お腹をバッサリ切る手術


正直、現実味が無く3人とも何処か遠い話の様に感じていたが、病院からの「PCRは陰性なので、入院出来ます。明日14時にいらして下さい」と言う電話連絡を受けて、やっと現実を認識したのだった。


***


秋生が調べた理解の範疇で、卵巣がんの概要を少し紹介しよう。

卵巣がんは「サイレントキラー」と呼ばれるほど自覚症状が無いため発見が遅れがちで、腫瘍のサイズが大きいと予後が悪い、と言うのが一般的と言われている。


卵巣がんは原発部位によって大きく3種類に分かれている。


(1)上皮性・間質性腫瘍

卵の「白身の薄皮」の部分。

卵巣がん全体の90%を占め、漢字の「癌」を用いていわゆる「卵巣癌」と言うのは、この原発部位らしい。

漿液性・粘液性・類内膜線・明細胞線など、さらに細分化されるが、抗がん剤が効きにくくて、腫瘍が大きくなると予後が悪いらしい。


(2)性索間質性腫瘍

卵の「黄身の薄皮」の部分で4%を占める。症例が少ない為か、何故か説明が少ない。


(3)胚細胞腫瘍

卵の「黄身」の部分。若者に多いのが特徴らしい。

卵巣がんの5%を占めており、比較的抗がん剤が効くと言われる。



また、原発部位とは別に進行期、いわゆるステージがある。


Ⅰ:卵巣・卵管内に限局している

Ⅱ:骨盤内臓器に進展している

Ⅲ:骨盤腔を超えて腹腔内や後腹膜リンパに転移している

Ⅳ:腹腔内以外に遠隔転移している



「原発部位x進行期」で12通りのマトリックスが出来上がり、これに沿って治療など方針を決めるのが標準治療として勧められている。なお、進行期によっては妊孕性を残す治療を行う可能性があるとのこと。なお、妊孕性とは「妊娠するための機能」の事である。

但し、基本的には手術して病理検査をしてみないと進行期や原発部位が判断出来ない。これは医者が説明していた内容とも一致しており、つまりは「真っ先に手術して病理検査を待たないと何も始まらない」と言うのが、現代における卵巣がん治療の基本らしい。


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