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8月18日と8月19日

8月18日

世間は久しぶりに行動制限の無い盆休みで夏を謳歌した様だが、秋生と優希は、自分たちに出来ることを探しながら病院からの連絡を今か今かと待っていた。


咲夜の手術から明日で2週間になろうとしていた。咲夜からはたまにWhatsAppで着替えや差し入れのリクエストが来るくらいで、特にいつ退院とか検査の結果とかと言った連絡は無かった。

ちなみに差し入れ希望の品は、お菓子と缶詰。面会禁止の為、看護師に渡すだけなので顔を見ることは叶わない。

さておき、お腹の中から巨大な腫瘍を取り除いたことと、熱が下がった事で食欲が戻り、さっぱりと健康的な病院食では物足りなくなった様子である。


『佐藤さんのお電話ですか?』

「はい」

『咲夜さんについて、2つご連絡がありまして・・・』


優希の携帯に病院から待望の電話が掛かってきたのは午後の事だ。連絡内容を要約すると、

1.咲夜の手術にコロナに感染しているスタッフが参加していたが、咲夜に感染は無い

2.病理検査の結果が出るまで、もう少し時間が掛かるので一度退院して欲しい

との事。何やら不穏な香りが漂う内容とは言え、拒絶も否定も異議申し立ても出来ないので了承するしかない。優希は「明日の午後迎えに行く」と伝え電話を切った。


「咲ちゃん、明日迎えに来てってー」

「あれ?そのまま科学治療じゃなかったっけ?」

「なんか、検査が長引くって。居ても仕方ないから帰って下さい、と。後、病院でコロナさん来襲」

「それは良い知らせなんだろうか、悪い知らせなんだろうか」

「何にしても、咲ちゃんの帰宅は良い知らせよ」


久しぶりに我が子に会える喜びに優希は掃除を始めた。秋生は掃除機の攻撃から避難する為、ベランダに出てタバコを吹かす。

蒸し暑い曇り空ですっきりしない天気だが、秋生の心は久しぶりに晴れ渡っていた。


***


8月19日

秋生と優希は、咲夜を迎えるべく病院に向かった。今月頭に初めて行った場所も、ここまで繰り返せば、最早慣れた道程である。病棟で看護師に声を掛ける。


「こんにちは佐藤です、迎えに来ました」

「あ、すぐ呼んで来ますね。少しお待ち下さい」

「主語が無い」

「秋生さん、何ちゅーこと言うの」


咲夜を呼びに行ったのか、他の誰かを呼びに行ったのか。

考えるまでもなく当然前者でしょう、と考えていた秋生の視界にカバンを乗っけたスーツケースを引きながら、加えて何やら大量の紙袋を抱えた咲夜がポテポテと歩いてくる。


「あれ、咲夜?さっき呼びに行ったよ」

「あ、うん。次にいつ来るのかとか、確認しなきゃだから。先生呼びに行ったみたい」

「荷物持つよ。この紙袋、何が入っとるん?」

「余ったお菓子とジュースと缶詰の皆様。あ、セイユーの牛タン缶詰が絶品でした」


大方の予想を裏切って、まさかの後者であった。それにしても2週間殆ど歩いていないからだろうか、元気が無さそうな様子だ。


「もしかして痛い?」

「もしかしなくても痛い。寝てても、寝返りが痛い」

「自分の傷見た?」

「見た。ってか、毎日お風呂入るし」

「凄い?」

「多分、とーさん気絶するコース」


待合室で咲夜との再会を喜びつつも微妙な会話をしていると、看護師が優希に声を掛けてきた。呼びに行った先生とやらはいらっしゃらない。


「お待たせいたしました。次の外来なのですが30日の1時半からお願いできますか?」

「秋生さーん、来れる?」

「予定表確認する。えーっと、大丈夫。30日の1時半ね」

「大丈夫です」

「その日に、検査の結果と治療について説明があります」

「随分先なんですね」


次回の外来予定が書かれた紙を貰い、挨拶をしてエレベーターに乗った。


「咲夜、昼飯は?」

「食べたー」

「おやつは?」

「行けるー」

「晩飯は?」

「何でも良いよー。全然食欲はある」


秋生は久しぶりに家族が3人揃った事が嬉しくて仕方がない。優希も嬉しそうだが、傷口の話になると笑顔が歪んでいた。


「咲ちゃん、痩せたねえ」

「先月殆ど食べてないしね」

「今から買い物できる?」

「あまり歩くと痛いかも」

「咲夜、まずは駅でミスドを連れて帰ろう」

「とーさん、その前に薬局行きたいです」

「何買うん?」

「まだ傷口から汁っぽいもの出てるから、滅菌ガーゼとか。あと気触れないテープとか」

「もしかして痒いの?」


咲夜の話に優希が即座に反応した。


「かーさん、正直言って掻き毟りたいです」

「やーめーてー」


そして優希は発狂した。


「薬局も駅前にあるね」

「では、優希はミスドとヨークで晩飯調達。俺と咲夜は薬局から合流かな」


これからの行動指針を立てた秋生は病院の駐車場から車を出し、スーパー提携の駐車場に移して買い物へと解散する。滅菌ガーゼを何の位購入すべきか判らないが、適当な大きさを仕入れる。


「いててー、立ちくらみするー、どっか座りたい・・・」

「秋生さん帰ろう。これ、無理かも」

「会計済ませよう。優希は駐車券よろしく」


咲夜の顔を見れたのが嬉しくて、いっそこのまま何処かに浪漫飛行な気分の秋生であったが、今の咲夜にはゆっくり歩く事すら辛そうである。結局、ドーナツとシャインマスカットと大量のお菓子。それと申し訳程度に今夜の夕食の食材という、割と駄目な部類の買い物を済ませ3人は早々に撤収したのだった。


見上げれば空は晴天で暑い。暑さ寒さも彼岸までと言うが、東京の気温は33度。

世間は夏真っ盛りと言って過言ではなく、19歳の夏休みは まだまだ彼岸に到達していない様相である。


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