第七十二話『帰る場所はないから』
「……俺を加えることで、何が得なのかは分からないけどさ……」
「私には明確に得が見えているからな、裕哉がそれを気にする必要はないさ。……お前は、あの時のように私の横に立っていてくれればいい」
現地に向かう車の中で、裕哉は呆れたようなため息を吐く。それが訳の分からない行動をしている早希に対してのものなのか、それともなんだかんだ言いながらその話に乗ってしまった自分に対してなのか。……そんな簡単な自問にすら、今の裕哉は答えを出せずにいた。
「先輩は事情が事情ですし、その戦闘力は折り紙付きですもんね。私人としてその力を借りたいっていうのも、その力を身に付ける過程で手にした知識を欲しいって気持ちはよくわかりますよ。かつての相棒でもあるわけですしね」
「相棒……なあ」
連携するというよりはお互いに背中を預けて各個撃破するだけのチームだったから、そこに何かがあったかと言われれば微妙なものなのだが。……捨てがたいと思うくらいにあの場所に、あの面々に愛着があったことだけは、今の裕哉にも分かる事実ではあった。
「生徒会は、順調に回ってるか?……なんて、会長の責任をほっぽり出した俺が言うことでもないか」
「……順調だ。お前の穴は完璧に埋まり、生徒会は滞りなく運営されている。今は試験に向けて構想を練っているところだな。……もっとも、試験内容を教えるわけにはいかないが」
「そりゃそうだ。……そっか、十分に回ってるか」
裕哉という歯車を欠いても、組織は安定して回っていく。それを喜ぶべきか、悲しむべきか。……不思議なことに、後者の感情の方が今の裕哉の中に強く残っていた。
「……お前の存在は、確かに生徒会にとって大きかった。それが与えた物は今でもあそこに残っているし、お前の作り上げた物は消えない。……それは、私たちが確かに受け継いだ」
「受け継いでくれたか。……ありがたいな、俺の存在を完全に否定しないのは」
二人にとって、今の裕哉は裏切り者でしかない。もっと口汚く罵って、その精神性を否定してくれたって良かったのに。……いや、むしろそうしてくれた方が楽ですらあるかもしれないのに。
「―—厳しいな、お前たちは」
「厳しくいかねばお前はすぐにふざけるだろう。お前のその自由な発想は持ち味でもあるが、常日頃顔を出していいものではない。……お前の輝きは、お前が一番居たい場所で放たれるべきだろう」
「俺の、居たい場所」
「ほんと、霧島先輩は不器用ですね。言いたかったこと、さっさと言っちゃえばいいんじゃないですか?」
まるでなぞかけのような早希の言葉に、真央が笑って茶々を入れる。それに早希は軽くため息をつくと、もう一度裕哉に視線を合わせた。
「……つまり、だ。生徒会にお前の帰ってくる場所はなくなった。今更末席の一つもない。お前が居なくても、生徒会はこの先も安泰だ」
「……そうだよな。俺は、結局―—」
「―—だから、お前はお前の場所で為すべきことを為せ。私たちのことなど、憂わなくてもいい」
沈んだ裕哉の表情は、続く早希の言葉ですぐさま引き戻される。―—それが早希なりの激励であることに気が付くまで、しばらく時間がかかって――
「……ああ、ありがとうな」
そのあまりの不器用さに思わず笑いながら、裕哉はそう返す。三人を乗せた車は、淡々と目的地に近づいてきていた。
本当に不器用な思いですが、これが早希なりの目いっぱいの激励です。ある種奇妙な関係性なその二人がどんな風に変わっていくのか、楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また次回お目にかかりましょう!




