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第六十七話『影を落とす想い』

――ふらふら、ばちばち。頭の中で、何かが暴れているような気がする。うるさく警鐘を打ち鳴らしているような気もするし、何かが自分自身を締め付けているような気すらする。今まで開かれてこなかった扉が強引にこじ開けられたことの代償は、あまりにも大きかった。


「……だけど、これでよかったんだよね」


 いつまでもなあなあではいけない。いつまでも、裕哉の思いに甘えてばかりではいられない。……隠されていたものに目がついてしまった以上、その答えを求めずにはいられないのが梓の性だ。それを押し隠したままで、裕哉といい関係が築けるはずもないだろう。


「今までが歪だった分を、何とかして取り戻さなきゃいけない。あたしが、あたしが弱かったから――」


 だから、裕哉は生徒会長という立ち位置を投げ捨ててまで梓のもとに駆け付けてくれたのだ。梓がいつまでもくすぶって無ければ、裕哉にそんなことをさせなくてもよかったのに。


「……づっ」


 また、頭痛がする。記憶の蓋が完全に開いてもなお、その頭痛は収まることを知らない。……自分の中に流れ出した魔力が悪さをしているのだと、梓はその才能を持って知覚していた。


 梓の記憶と、封じ込められた魔力は同一視されるべきものだ。記憶が何らかのトリガーで呼び起こされてしまったのならば、その魔力も封じられたままではいられない。……大切な人をかつて傷つけた魔力が、体の中に満ちている。それが、梓にしてみれば煩わしくて仕方がなかった。


「……体が、重たい…………」


 思いっきり走った後のような、しかしさわやかさは全くない最悪な疲労感が梓を襲っている。久々に解き放たれた大量の魔力は、梓にとっては毒でしかない。なじめばこの不快感も消えていくのだろうが、この力を拒絶しているのは梓自身である。……馴染むだなんて、あってたまるか。


「私は、私を赦せない。今でも、きっと、これからだって……」


 梓の魔術が大切な人を傷つけたという事象が変わることはありえない。たとえどれだけの年月が経っても、どれだけの思い出を積み重ねても。……その罪悪感だけは、決して忘れてはいけないものだ。


 薄情な話ではあるが、梓の力に巻き込まれたのが裕哉でなければ梓とてここまでの傷に発展してはいないだろう。すべては裕哉を――幼いころから自分の後ろをついて回っていた大切な幼馴染を巻き込んで危険にさらしたという事実が、梓の心を今でも締め付けているのだ。


「……あたし、どうしたらいいんだろ」


 あの事件は、松原裕哉という存在を大きく変えてしまった。それがいい方向であれ、悪い方向であれ、その事実だけがそこにはある。……その事実は、梓に取って見過ごせるものではなかった。……控えめだが観察眼の鋭かった少年は、些細な変化すらも見逃さない強気な少年へと姿を変えた。その変化はきっと不可逆で、梓がこれからどれだけ努力を積み重ねても取り戻せるものではない。……なのに、どうして梓がのうのうとしていられようか。


「……考えなくちゃ。どうしたらいいか、どうしたらまた裕哉と肩を並べられるか」


 呟きながら、梓はゆっくりと家路を進む。空は夕暮れから夜へとその色を変え、世界は宵闇を受け入れていく。夜に向かって歩いていく梓の表情は、次第に見えなくなっていった。

関係性が揺らいでいく中、裕哉たちはどんな決断を下すのか。試験と同時に迫る転換期を、皆様心待ちにしていただければ幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回お目にかかりましょう!


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