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第五十五話『本能の警告』

「正真正銘、これが俺の主武装だ。……頑張って耐えろよ?」


 腕を一振り、それが剣に命じる攻撃司令だ。術式も式句も必要なく、ただ裕哉の意のままに水の剣は敵を殲滅する。その絶対的な自由度と手数こそが、魔力量という名の爆発力には欠ける裕哉が導き出した最適解だった。


「こんな複雑な操作、頭がはちきれたっておかしくないのに……‼」


「驚いている暇はありません、皆さん防御態勢を!」


 眼前で繰り広げられる絶技に対して、一番冷静だったのは間違いなく篤也だった。一度は切り裂かれた影の衣をもう一度展開し、水の剣を食らおうと顎に変じさせた影を差し向けるが――


「わざわざ食われに行ってやるお人よしも、そういねえよな!」


 指揮棒を振るかのように裕哉が腕を動かすと、それに従って剣が迂回を始める。影がもたらす捕食を完全に回避できる位置から照準を定め直すその動きは、まるで軍師の指示を完璧に果たす兵士のようだ。


「でも、距離は稼げた。これなら、あたしの氷魔術で――‼」


 わずかに生まれた猶予を使い、凛花があらん限りの魔力を練り上げて氷の壁を作り上げる。凍てつけばその動きを止めてしまう水は、凛花の魔術と相対した時に確かに相性の悪いものではあった。……しかし、氷に関しては圧倒的な比較対象がいるのだ。


「……霧島は、展開した瞬間に凍り付かせるくらいのことはしてきたぞ」


 裕哉の手から新たに打ち出された水の弾丸が、凛花の全力をあっけなく砕く。舞い散る氷の欠片が、光を反射してきらきらと輝いた。


「くそ、本当の本当に容赦がねえ……‼」


「間違いなくこっちの心を折りに来てますね。……今まであった優しさが、今の松原君にはどこにもない。……いや、優しさじゃなくて、甘さっていうべきなのかな」


「甘さ……」


 篤也の指摘を、梓はどこか呆然としながら復唱する。また、胸の奥がズクリと痛んだ気がした。


「ああ、これが紛れもない現実ってやつだな。……裕哉が、ずっと俺たちに目隠しをしてくれていたものだ」


 四人の足掻きは受け身にしか成れず、それですら今の状況下では不完全だ。それが示すのは、裕哉と四人の間にある圧倒的な実力差。今まで駆け上がってきた階段がまだまだ最初の一歩であることを示すかのような、そんな戦いだった。


「残酷だね。……だけど、今の私たちにはそれでいいのかも。このまま調子に乗り続けて、その絶頂期で砕かれるよりは、よっぽどさ」


「そうかもしれねえな。……まあ、考えさせられちまうくらいには負けっぱなしなのは間違いねえが」


「今の松原君ですら、全力ではありますけど僕たちに猶予を残してくれていますもんね。松原君が本気の殲滅モードに入れば、僕たちなんて一分も経たずに壊滅しているわけですから」


 裕哉はあえて、今までの四人が為してきた積み重ねをすべて砕いているのだろう。それではまだ足りないのだと、研鑽に終わりはないのだと。……飄々としていた裕哉からは想像もつかないその姿は、しかし梓に違和感を与えていなかった。


「……梓、どうしてそんなに驚いたみたいな表情をしてんのよ。アレを一番よく知ってるのは梓じゃないの?」


「……その、はずなんだけどね。なんというか、少し思い違いをしていたというか」


 思い違い、という言葉に、自分で吐いておきながら梓は違和感を隠しきれない。裕哉のこんな姿を、梓はどこかで見たことがあるはずだ。知っているはず、なのだ。……なのに、その光景を、瞬間を思い出せないのは――


『……るから……‼ アイツが……まで、俺はもっともっと強くなって、……るから……‼ ……と、……くことがないように……!』


「……づうううっ⁉」


「梓、どうしたの⁉」


 流れ込んできた見覚えのない映像に、梓の脳は割れるように痛む。その記憶そのものの存在を、梓の本能が拒んでいるかのように。これを思い出してはいけないのだと、梓の中の何かが警告していた。


「……ううん、大丈夫。魔力酔い、しちゃっただけだから」


 しかし、それを外に伝えるわけにはいかない。梓がふらつきながらも戦闘続行の構えを取ったのを見て、三人も意識を切り替えた。


「…………」


――その姿を、裕哉がじっと見つめていたことも知らずに。


裕哉の変化に伴うようにして、梓の中でも何かが動き出していきます。果たして二人を待ち受けるのはどのような変化なのか、楽しみにしていただけると嬉しいです! もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回お目にかかりましょう!


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