第五十三話『覚悟を携えて』
裕哉をして敵わないと思わせた梓の才能は、確かに強い輝きを放つものだ。それに対して、裕哉が劣っていることは間違いない。ただ、それは決して裕哉の非才を証明するものではなくて――
「……おいおい、冗談きついぞ?」
「なんですか、この圧力……‼」
肌を刺すような濃密な魔力が充満している事に気が付き、裕哉と相対する四人は思わず後ずさる。今まで四人を導いてきた裕哉とはまた違う、戦士としての松原裕哉の本気がそこにはあった。
「松原君、普段からどれだけ手加減してたわけ……⁉」
「あたしだって予想外よ!こんな、こんなの……‼」
裕哉の表情に一切の遊びはなく、ただすべてを出し切ろうという目的だけがそこにはある。あれほどに極まった表情を浮かべるのを、梓は久しぶりに見た気がした。
裕哉が真剣な表情を表に出さなくなったのは、いったいいつからだっただろうか。確か子供のころは、もっと愚直というか、まっすぐだったはずなのだ。それがいつのまにか、どこか軽薄な印象を受けるようになってしまったのは――
「……づっ⁉」
記憶の底へと潜ろうとした梓を、鋭い頭痛が襲う。それが濃密な魔力を浴びたことによる弊害なのか、それとも梓自身に何らかの問題があったからこそ生まれた物なのか。……それを明らかにする術は、今の梓にはなかった。
「梓、大丈夫⁉ 何なら下がってみてても……」
「……ううん、大丈夫。皆が目をそらしてないのに、あたしだけそんな恥ずかしいことはできないよ」
凛花が梓を気遣って手を伸ばすが、それを優しく拒んで梓は前を向く。この現実から目をそらさないことが、現状梓に示すことが出来る一番の誠意だった。
「……そうだね。松原君が突然方針転換した理由は分からないけど、アレにビビってたら私たちは前に進めない。……それだけは、はっきりわかる」
裕哉を中心に水が渦を巻き、生み出された勢いはとてつもなく大きなものとなっている。一瞬でも気を抜けば、梓たちはそこに立っている事すらできなくなるだろう。たとえそれが既定路線だとしても、爪痕の一つくらいは残さなければなるまい。
「俺たちだって、何の進歩もなくお前に甘えてきたわけじゃねえ。……教えてやるよ、俺の炎で」
「たとえ立ちふさがるのが何であれ、もう二度と僕は立ち止まりたくありません。何もかもすべて飲みこんで、僕は前に進んで見せます」
二人の意志表明に触発されたのか、暁人と篤也もそれに続いて闘志をみなぎらせる。一切合切の遠慮を排した裕哉を前にしてもひるまない四人の姿に、裕哉は満足げな笑みを浮かべた。
「そう、それでいいんだよ。お前たちが強い心の持ち主で、俺は本当に嬉しい。……ありがとう。それと、ごめんな」
魔力を編み上げながら、裕哉は頭を下げる。その器用な行動に呆れつつも、四人は警戒をさらに高めていった。
「俺はもう、お前たちを侮らない。遠慮もしない。……行くぞ、水弾‼」
詠唱とともに、今まで何匹もの魔獣を貫いてきた水の弾丸が装填される。両者の激突まで、もう五秒もなさそうだった。
裕哉の遠慮もなくなり、四人の覚悟も今一度確認される形で定まりました。この激突がこの先に何をもたらしていくのか、楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また次回お目にかかりましょう!




