第四十八話『傷跡』
「……あなた、いったい何を隠そうとしているんです?」
「……いきなりなんだよ、筋道を通すアンタらしくねえぞ?」
教師がいきなり裕哉に問いかけたのは、篤也が加入し、大方の訓練が終わった後。グラウンドで、二人が今後の方針を深めていこうとしている時だった。
「そちらこそ、与えられるものは何でも与えようとする貴方らしくない。須藤さんとのやり取りを見れば、嫌でも気づかざるを得ませんでしたよ。隠し事なら、もう少しうまくやってください」
見ていられなくなるじゃないですか、と教師は肩を竦める。その態度に、裕哉も思わず苦笑するしかなかった。
「バレてたか。ま、あいつにバレなきゃそれでいいってくらいでしかなかったんだけどな」
「それにしたって白々しいんですよ。周りにもうまく隠してくれなければ弊害が出るかもしれないというのに」
「いや、あいつには弊害が出ねえようにしてるよ。……いや、そう『なってる』って言った方が正しいか?」
それは、人間という生命が持つ機能の一つと言ってもいいだろう。何事もなく生きるために、傷を抱えたまま生きることが無くていいように。
「人は、忘れられる生き物だよ。そんでもって、そのまま思い出さないことだってできる。……それが、梓にもあるってだけで」
「……ただ事ではなさそうですね。須藤さんに、一体何の過去があると?」
「それは………………」
教師の問いに、裕哉は口ごもる。どんな答えを返すのが、梓のためになるのか。このクラスのためになるのか。裕哉にも、その答えは出てこなかった。
「悩むなどなおさら松原君らしくない。何をそこまで気遣っているのです?」
「気遣ってるんじゃねえ、悩んでるだけだ。……これは、対応を間違えたら詰む類の問題なんだよ」
なおも続く問いかけへの答えには、隠し切れない懊悩がある。それは裕哉が長年抱え続けてきた問題で、今もなおその答えは見つかっていない。……一人では、見つかる気もしなかった。
「……お前が、その答えになってくれるのか?」
「答えに……ですか。問いを投げかけられなければ、いくら教え導くものである私にも答えを用意してあげることはできませんね」
抽象的な問いを皮肉るかのように、教師はくつくつと笑う。始めて一本取ったりといった感じなのか、どことなく嬉しそうですらあった。
「……お前、いったい何がおかしいんだよ?」
「いや、松原君の人間らしいところが見え隠れしたな、と。いつも人間離れして見えているものですから、それが少し面白くてですね」
「……まあ、それは間違ってねえかもしれないな。俺は基本迷わねえけど、これに関しては迷ってばっかだ。『答えを伝えちゃいけない』ってことだけは確かなのに、じゃあこの答えをどこにやればいいかもわかったもんじゃねえ。俺しか、答えを持ってないのにさ」
「貴方しかもっていない、答え……」
「ああ。……折角だ、先生にも見てもらおうか。その反応を見て、先生にもこの問題を預けられるか決めることにするよ」
そう言って、裕哉は制服をめくり上げる。普段は厳重に隠されていた肌が、教師の前であらわになって――
「……これ、は」
「ひどいもんだろ?これ、ずっと前の傷跡でさ。一生直ることはねえって医者にも言われちまったんだよ」
困ったものだよな、と裕哉は笑う。……だが、その傷を教師は笑えない。それくらい、この傷は強大な魔力によってつけられたもので――
「これが俺が抱えてる問題の一端。……この傷をつけた主が梓だっていえば、もっと簡単に伝わるかな?」
どこか放り投げるように、裕哉は教師に向かってそうつぶやいて見せた。
ここまで引っ張ってきた梓と裕哉の過去が次回以降明らかになっていきます!二人はどのようにして今に至るのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また次回お目にかかりましょう!




