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第四十話『茨を断って歩く者』

「……潰れろ」


 冷徹な言葉とともに、氷の大剣が魔獣に叩きつけられる。切るというよりも押しつぶすという表現が正しく思えるような攻撃をまともに浴びた魔獣が無事でいられるはずもなく、その命はあっけなく潰えて虚無へと返った。


「はいはい、会長の方ばかり注目しない。貴方たちも、もう終わりなんですから……ね!」


 その背後で、金髪の少女が高らかに号令をかける。それに従うように青々とした茨が一瞬で魔獣を包み込み、指揮棒を振るかのような、ギロチンを落とすかのような腕の一振りでそれが閉じられる。鋭い棘と強靭なツルを併せ持ったそれは魔獣の体を易々と引き裂き、魔獣は何をされたか、何で死ぬのかもわからないままに消滅した。


「……これで終わりか。あっけないものだな」


「ですね。町を守る者としてはこれくらいの強さで収まってくれるのがちょうどいいですけど、なんか不気味って言うか、嵐の前の静けさって言うか。……いやーな感じですよね、最近」


 仕事を終えた二人―—早希と真央の表情は、圧倒的な勝利に反して明るくない。楽勝なのはありがたい話ではあるが、それでも何かしら疑わざるを得ないのは真央の悪癖とも言えた。


「そうではない。会議の時間を奪ってまで現れたやつらがこの程度では、私のストレス発散にもならないと言っているんだ」


「……ま、それも一理ありますね。それくらいの考え方の方が、私も気が楽かも」


 もっとも、早希の手にかかれば大体の魔獣が『あっけないもの』になってしまうのだが。一度に十体の魔獣をぶつけようと、早希が倒されるどころか傷を作る想像すら真央にはできなかった。


「だからこそ、これを真正面から打倒して見せた松原先輩の凄さが際立つわけですが。……ホントどうやったんですかね、アレ」


「私にも分からないな。分からないからこそ、私は未だに裕哉を超えられずにいるんだ」


 ため息を吐く真央とは対照的に、その事実を早希は恍惚とした表情でつぶやく。それに真央は苦笑を返しつつ、軽く伸びをしながら続けた。


「だけど、松原先輩がいざというときに戦力にならないかもしれないのは怖いですよね。学園には結界が張ってあるし、直接攻撃なんてされることは無いとは思いますけど」


 そうなっても大丈夫なようにはしてあるがな。それに、裕哉は勘が鋭い。僅かな情報でもあちらに伝われば、強者の責任を果たしに顔を出すだろうさ」


「強者の責任……ノブレスオブリージュ、ってやつですか」


 正確には『持つべきものの義務』、だったか。素晴らしい考え方だとは思うが、真央はその言葉に唯々諾々と頷くことが出来ない。……自分を強者と、持つべきものと自称していいのか、それが問題なのだ。


 それはきっと、裕哉も同じはずで。それに彼には、ノブレスオブリージュ(そんなもの)よりも大事な責任を背負っている。彼にとってどちらが大事かなど、『太陽はどちらから昇るか』という質問よりも単純でわかり易い話だった。


「……本当、難儀な人ですよね。あえて茨の道を歩いているのに、その茨をすべて切り倒して進んでいる。傷つくことを許容しながら、その後を歩く人はできるだけ傷つかず歩けるように道を舗装していく。……あの人の作戦は、『自分の負担を何一つ考慮しない』って言う一点を除いて完璧なんですよね」


「それが裕哉の美徳であり甘さだ。……それは弱点にもなりうることを、私は裕哉に教えてやらなければならない」


 そう言って、早希は目を伏せる。その脳裏にどんな考えが飛び交っているかは、さしもの真央にも読み取れなかった。


「……さあ、帰投するぞ。次の試験の形式とポイント配分を詰めなければ」


「そうですね。快適な部屋に戻って会議の続きと行きましょう」


 迎えの車が来たことに気づいて、早希たちは帰投の準備を始める。来る新たな戦いに向けての準備を始めているのは、何も裕哉たちだけではなかった。

思惑は交差し、新しい流れは変化を生んでいきます。そのすべてに対応しきって裕哉はいばらの道を進み切れるのか、そして真央の懸念は当たるのか。楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回お目にかかりましょう!

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