第十七話『至るべき場所は遠く』
――真央の言葉、早希の怒り。そして見えない勝機への懸念。そう言ったものを抱えながらも、日々というのはあまりにもハイスピードで過ぎていく。きっと今の状況よりも多忙なはずだった生徒会時代よりも、不思議とその時間経過は早く感じられた。
「その作戦はちょっと頂けねえな。俺一人に勝つためにしたってリスクがデカすぎる」
「確かにそうだな……二十七人に勝つことを考えりゃ、一手で燃え尽きかねない作戦なんてほぼほぼ使えねえか」
自らの魔力のほぼすべてを使った囮作戦を展開してきた暁人に対して、それを凌ぎきって見せた裕哉はアドバイスを送る。確かに的の警備はだんだんと危うくなっているが、それでもクラスの全員と教師に勝てるかと言われると微妙なところなのが悲しかった。
「対決まであと三日だってのに、まだまだ裕哉の課題一つも超えられてないな……。本当なら、次の課題に行けなきゃいけない頃合いだってのに」
「いや、そんなに焦る必要はねえよ。もともとこの課題だけで基本的には一週間使い切るつもりだったし」
「へえ、そうなの……って、アンタそんな計画立ててたわけ⁉」
「中々とがったやり方よね……。まあ、それくらいじゃないと賭けとしても不十分なのかもしれないけれど」
ここに来て言い渡された衝撃のプランニングに、三人は驚きの表情を隠せない。裕哉の実力に最早疑う余地はないが、その思惑が皆に知れ渡っていないのもまた事実だった。
「お前たちには連携を覚えてほしいと思ってたからさ。俺の守りを突破できるように成れば、大体いい感じに戦えるようになると思って」
数の暴力に対抗するには、各個撃破という悠長な策を取っている場合ではない。三人の力を効率よく束ね、一つの戦術でできるだけ多くの戦力を削らなければならなかった。
「……確かに、あたしたちの中でも役割分担ってのははっきりしてきたものね。……あたしは、いまいち上手い感じに動けてないけど……」
「近距離に潜り込めればお前の火力は生きる。何ならお前が突っ込んできたときが俺は一番焦ってるぜ?」
どういう訳かその射程距離は大幅に短いが、瞬間火力だけで言えば梓は裕哉にも――いや、上位クラスの面々とも劣らないくらいの破壊力を誇るだろう。……それを活かせるところがまだまだ見つかっていなさそうなのが心配なところだが。
「……それでも、お前たちの限界値はちょっとずつ引き上げられてる。……現に、的にもちょっとずつ傷がつくようになってきただろ?」
四日間の特訓を経て、裕哉の守る的にも少しずつほころびが生まれつつある。それでも致命的な一打だけはしっかりと受け流しているのが裕哉の才能の表れともいえるところだったが、三人の中に手ごたえはしっかりと現れていた。
「……俺たちは、まだ終わってなんかなかったな。お前の言った通り」
「そりゃそうだろ。お前たちの可能性がないって決めつけるのは早すぎたんだよ」
選ばれたものにより多くのチャンスを与えるためのシステムとはいえ、それによって切り捨てられた者たちのフォローが何もないのはあまりにも酷すぎる。……三人の可能性を見て、裕哉はその思いをさらに深めることとなった。
「……道のりは長いけど、お前たちはきっと可能性をつかみ取れる。……そのラスボスが、はるかに高いところにいるんだとしてもな」
そこに至ることが、裕哉たちの目指すゴールラインだ。妥協など、出来るはずもなかった。
「……そろそろ頃合いではあるかな。出し惜しみなんてしてる場合でもねえし」
「出し惜しみ……?松原君、まだなんか隠してることがあったの?」
「隠してることなんてないさ。……ただ、ここまで見極めてただけだ」
裕哉とはいえど、その考えが正しいと完全に結論付けることはできなかったから。それを言ってしまえば、まだ決まり切っていない可能性を消すことになってしまうと、そう思っていたから。……だけど、その心配はもうない。裕哉の中のビジョンは、少しずつではあれ実像を結んできている。
「……そろそろ覚えてみないか?俺たちの切り札、必殺技ってやつをさ」
――まだ見えない勝利のビジョンをつかみ取るべく出した提案は、裕哉にとっての博打でもあった。
裕哉が三人に提示する切り札とは何か!そして、三人は無理難題と思われた戦いに勝利することが出来るのか!楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また次回お目にかかりましょう!